猫の膝に枕するは。
うっわさっみ、なんて肩を竦める動作を170を余裕で飛び越している男がやっても面白くない、と光は思い、さむいっすわ、と零した。やんなぁ、と鼻の頭を真っ赤にしている謙也には本心は伝わらないらしい。
引退式も引継ぎも問題なく進んだその日から、光はばっさりと心に線を引いた。
「財前なら余裕やろ。」
尊敬していた元部長は、自身の二年間を棚に放り上げたらしい。顧問はちょっと真剣な顔だった。
引退しても、やいのやいのと顔を出していた3年生は、本格的なシーズンに、ついに誰も来なくなった。金太郎だけがわいのわいのと未だにごねている。かと思ったら、先日急に大人しくなっていて、別に理由も聞かなかったが、階段を二つ昇ったとある教室に顔を出してみたらしい。
「わいの知っとる白石やケンヤとちゃうかった。」
ぽつん、と。
硬く張ったガットでコンとボールを弾いてみれば、冷たい風と早くはしる雲の中にまっしろな太陽が見えた。
短くなった昼間に別れを告げて、部活を終わらせれば、タイミングよく謙也が現れて、光一緒に帰らん、なんてまっしろに笑う。遠山ごときにどないしてん、と一人頭を切り替えて、部員が帰ったのを確認して部誌を閉じ、ふっと一つ息を吐けば、どうしたん、と覗き込む長身。
「うざい。」
根元プリンなりかけとりますよー、なんてからかいながら鍵を落とし、それを見ていた謙也は、いってらっしゃい部長さん、なんて笑ったので、その自慢の脚に光は遠慮の無い蹴りをはなった。
のが、数分前。
「謙也さん。」
「なんー?」
「缶でええからしるこ頂戴。」
ちょこんと揃えられた手に、はは、と謙也はちいさく笑った。
「頂戴、やなくて、奢れ、やな。」
そんな風でも行き付けの自販機に軽い足取りで向かってくれる先輩に、光は視線を下ろす。
「光。」
自販機の光りの中で、やっぱりまっしろに笑うのだ。
「俺、伊達に部長の親友二年もやってへんねんで。」
疲れたら頼ってや、と、やっぱり笑う。
「善哉、奢ります。」
「は?コンビニ行くん?」
「いいえ。」
にぃと、悪戯が成功した悪童のように光は笑う。
「俺んち。」
***
みくし2010年11月21日22:56から再録。
20110203masai