ねぇ知ってる?
体育館への渡り廊下に。
女の幽霊が!
出るって話・・・。











今吉探偵と伊月助手と花宮助手と幽霊騒動。










「幽霊って存在しますかね。」
珈琲なり紅茶なりを用意しながらふと伊月が思い出したように口を開いた。
事務室にある今吉のデスクは散らかりすぎていて休憩には向かないので、今吉所長、花宮助手、伊月助手の三人が揃って茶菓子を摘まむのは今吉の所長用飾りデスクのある応接及び面談室だ。誰の趣味だかヴィクトリア朝に、しかし穏やかなコーディネートをされた少し広いその部屋で、ソファにだれ掛かっていた花宮も眉を寄せた。
「あるっちゃある。ないっちゃない。」
「どっちや。」
「どっちだよ。」
「カステラ要らんなら貰うで。」
「それ俺のだよ!!」
「やってまこっちゃん手ぇつけへんしー。」
「煩い休憩時間くらいは静かにしろばか共。」
「「スイマセン。」」
「んで、誠凛で最近ちょっと不思議な話がありましてー。」
「結局話すんじゃねーか。」
今吉はブラックコーヒー、花宮にはミルクを一たらし。二人の好みを把握しきっている伊月の紅茶には砂糖とミルクをたっぷりで、紫原がこの間、赤司経由で寄越したカステラを思い思いに突く。セッティングは主に伊月の仕事であり、それぞれがカップや菓子に口を付ければ伊月にとっては勝ちなのだ。
「廊下に女が立ってるらしいんですよー。」
「勝手に立たせとけよ。」
「立ってんのが体育館への渡り廊下なの。コガなんて怖がっていちいち校庭回って入って来るし。」
「勝手に怖がらせとけよ。」
「火神とか日向も怖いの駄目だし、敷いて言うならカントク・・・相田くらいかな、動じてないの。」
「相田ちゃんなー女はいざっちゅー時強いさかい。」
「で、経読むなりなんなりしようかって木吉も言いだして。」
「ふはっ。アイツらしーな!」
「黙れ悪童。でもだったら宗派とか享年とかちゃんと調べたほうが良いって聞きまして。だったら俺らには無理っぽくね?とかなっちゃって振り出しに戻る。」
「月ちゃんは怖ないん?」
「俺は見てないんで。ここで助手やってるほうが怖いもん見れますし。」
「嫌な心意気だな。」
「医者志望やもんなぁ。死体も見飽きとるやろ。」
「いえ、死体はそれぞれやっぱ違いますし。肝臓腫れてるなー生前は酒飲みかーとか肺黒いなーヘビースモーカーだったかーとかこのポリープ珍しいからホルマリン漬にしちゃおっかー、って感じに。あれ、カステラ余ってますけど。」
「自分の発言顧みて月ちゃん!!」
「流石に胃から蛙が出てきたのは皆してドン引きしましたけど。」
「わざとだな伊月!!」
「こっちも最近解剖ばっかで気が滅入ってんだ察せ。」
「「無理言うな!!」」
「なかよしですねー。」
聊かの棒読み加減で気が済んだか、伊月は甘ったるい紅茶を舐めるように掬い飲んで。
「で、幽霊って存在すると思います?」
今吉から視線を受けた花宮はさっと視線を避けた。
「まあ、あるところにはあるやろ。亜米利加には一家惨殺のあった家では怪奇現象続いとる言うし。5,6人の幽霊が出るから引っ越した。裁判所の窓にも昔裁判で殺された名前の判明してる幽霊が棲みついてる。ザラやさかいに英吉利では超常現象捜査官ゆうて専門さんおるし、幽霊が出るてそれに愛称付けてウリに出しとる。トムゆうたか。ドロシー夫人とか、ああ、相続した男が全員死んだんはどこや?これも英吉利か。」
「よくもそこまで。」
「ドロシー夫人なら写真あるで?」
ごそごそっとデスクを探って出てきたのはモノクロ写真で、階段に白い影が綺麗に映り込んでいる。なんでこんなんデスクに入れてんの俺らの雇い主、と伊月と花宮は思わず顔を見合わせた。
「え、幽霊?え?」
「欧米の幽霊さんそんなんやでー。日本のみたいに恥ずかしがりちゃうねん。足もあるし、めっちゃはっきり映る。考え方もちょい違うらしいな。こういうのはゴースト、ファントム。まあ、幽霊や。悪霊っておるやろ。あれは向こうではモンスターやとかデビルて呼ばれる。」
「え、このひと生きてないの?」
「月ちゃん現実見なさい。悪霊がおんのは英吉利の代表的なところでは倫敦塔。アン・ブーリンが階段上に待ち構えとるとか?ボーリィ牧師館は修道女や馬車の幽霊や。悪さはせんけど気味悪がって誰も近寄らん。建物に触らんと悪い事が起こる、ゆうて亜米利加のウィンチェスター館ゆう屋敷では常に増改築を繰り返しとる。」
「へえ?」
「幽霊が出ることを向こうではホーンデットゆうてな。実は亜米利加大統領執務館のホワイトハウスもホーンデットハウスっちゅーて呼ばれとる。なんでも元ファーストレディの幽霊がよう掃除しにくるそうや。」
「特に英吉利、亜米利加の二国は国民の半数が幽霊の存在を信じてるって調査もあるぜ?」
花宮の風呂敷に、ふうんと頷いた伊月はきょろっと瞳を宙に泳がせてから。
「で、お二人は幽霊を信じるひと?」
と、ある意味振り出しより性質の悪い方向に戻ってきた。
「ワシは信じてへんなぁ。」
「いないと思えばいない。いると思えばいる。」
「だから花宮さんのそれってどっちさ。」
「まーま、認識の違いやん?月ちゃん、堪忍したって?」
「む。翔一さんがそう言うなら。」
ぱくっとカステラを齧って、暫し沈黙が流れて。
「あ、じゃあ誠凛の幽霊ってどう思います?」
そうだそれが切欠だ。
「ほなら頭の体操とでもいこかー。」
考えの読めない底意地の悪い笑みを浮かべた今吉に、ひぐっと伊月の喉が鳴り、花宮はソファから腰を上げたが伊月の縋るような瞳に負けた。
「お化けと幽霊の違いは分かる?月ちゃん。」
「えっとー、お化けは妖怪とか、あ、そだ、モンスターでしょう?で、幽霊は・・・?」
「一種の思念の塊だな。生霊もそういう意味ではここだ、バァカ。」
「どうも!」
刺々しく礼を述べ、伊月は腕を組む。
「思念の塊がその場所に来る、つまりは心残り・・・誠凛に?今年で二年の新設大学なのに?」
「子育て幽霊は知ってるか?」
「ああ、お墓の中で死んだ筈の女が赤ん坊を生んで育てたあれですね。飴を恵んでくれって言って回ってた・・・ん?」
どないした、と首を傾げた今吉には。
「じゃあ、お墓に入った筈が魂だけあっちこっちしてる感ですよね?でも、目的が見えません。」
「そこがミソだな。現れる時間帯は?」
「あ、それは俺も気になってた。丑三つ時とかじゃないの。その渡り廊下で事故ったって話も聞かない。」
「服装は?」
「俺は見てないから又聞きだけど、白いドレスか白い着物かそんな感じ。」
「異人?」
「さあ?」
「情報すっくね。」
「煩い悪童。」
「まーま、喧嘩せんでなー。しかし幽霊なぁ。」
ふむふむと若干楽しそうな今吉に、っぶっちゃけ悪い予感しかしねぇ!が助手二人の見解だ。
「折角やから会いにいこか。」
どうしてそうなった。
細い月の下からはちらちらと星の光がよく見えた。帝都は明るい街で道端には街灯もあるが、深夜となればまた違う。
今吉の恰好はいつもの絣の単によれよれの袴。毛羽たちの目立つ足袋に歯の擂れた下駄を引っ掛けて、まだ新しい香りが残る学舎をからんころんと誠凛大学の詰襟を着ている伊月に案内されながら上機嫌に歩いている。花宮は霧崎第一大学のブレザー姿で、落ちた肩をそのままに歩いている。
「月ちゃんはどこで授業なん?」
「普段は二階です。最近は地下が多いですけど。」
「地下・・・。」
「ホルマリンの香り・・・。」
「まこっちゃん知ってるか、ホルマリンて人体に有害なんやで・・・。」
「因みに今日は・・・?」
「ああ、今日は解剖は無くって、今までの協力者さんにありがとうの日でした。」
「それはつまり?」
「丁寧に火葬してお骨をお墓に届ける日ですね。」
「ぐああああなんっか痒い!背中痒い!!どうしてくれんだあんた!!」
「いや、ほんまに怪しかったらまこっちゃんが何とかしてくれるやろー。」
「俺よりあんたのがチカラあんだろおおお!!!」
「でー、次の角曲がったら真っ直ぐですけど。」
「早!」
「嘘!」
「廊下ですから。本当です。」
曲がります?と小首を傾げた伊月に頷いて、懐からペンライトを取り出したのは今吉だ。学舎内部は警備室のスイッチを花宮が弄った。
「なあ、これで幽霊は黒子でしたってオチなら恨むぞ。」
無理矢理練習試合組んで壊すぞ、と悪態は、出来るものなら、なんてスルーして。事務所から引っ張り出されたのが途轍もなく気に食わなかったらしい花宮の機嫌は今にも地下に潜りそうに下降している。
「ほう、御誂え向きやん。」
「そうなんですか?」
「魔物は真っ直ぐな長い道を好む、ゆうてな。あるやろ、玄関開けたら衝立置いてある家。あれは魔物が入ってこん呪いや。」
「へえ。ウチもありますそれ。」
ひょこっと廊下に顔を出す。そろりと歩みを出せば、秋の夜風が頬を髪を嬲って去っていく。
「で、幽霊さんはおらんのかいなーっと。」
ぱちん、と彫刻も見事な懐中時計を開けば、丑三つ時も半ばである。流石に人影はない。
「幽霊っちゅーのはな、娯楽でもあんねん。夏場に涼をとるゆうやろ?幽霊画も探したらめっちゃ数あんで?でも、死んだひとが目の前におらん、っちゅうのもえらいストレスなんや。」
「あ。はい。」
思ったことあらへんか、と今吉は前置いた。
「一寸先は闇、言うやろ。何が起こるか解らへん。生死もそれに含まれる。」
そっとライトの光が足元に降りた。
「会いたい、会わせてほしい。そういう気持ちが幻を呼ぶことがある。」
「幻影、ですか?」
「そういうこっちゃ。で、ここは真っ直ぐな邪魔もんのない場所。そういう場所をぼんやり歩いとったら、一種の幻覚が見えることがある。催眠術にも使われる。同じ景色ばぁい見よったら眠なるやろ?そんなんや。仮にほんまもんがおったとしよか?でも誠凛は建物も敷地も二年前に新しぃに作った場所で、工事にも死人は無いし人柱も無かった。」
「ああ、人柱を使った痕跡は無かった。事故の履歴も調べたが、資材を運ぶ際に怪我人が5人いただけで、どれも軽症だし今は健康に働いてる。」
花宮のどこから得てきたかは不明ではあるが経験則でそれは正確なものだと知っている伊月は情報で裏付けが取れたのに肯首。からんころんと下駄は進み、ある場所で立ち止まる。
「ここやな。」
「ここ、ですか?」
「歩きながら30ほど数える。そんくらいが催眠状態に陥りやすい。ぼーっとなる、っちゅうのが感覚的には合うか。長いしな、この渡り廊下。」
「前に火神が逆立ちで歩いてました。」
それって歩いてるって言わなくね、と花宮が笑って寄越す。
「で、あれや。」
今吉が指差した場所には、彫刻がひとつ。ロダンの地獄の門から一部だけ切り取られて複製された詩人の像。通称、考える男。
「催眠状態で色んなもんで脳内の処理速度が追い付かん所にあの白い彫刻。これでトリックは完成やな。」
「・・・なるほど。」
「まあ、実際はそんな簡単なもんちゃうけど、噂程度やったらこんなもんや。ほんまもんやった場合は単なる浮遊霊をたまたま霊感の強い子ぉが見かけたっちゅーだけや。」
そのまま暫く、伊月は立ったまま廊下の向こうにある体育館を見た。籠球のコート、ボールの感触、その中で滲む汗の解放感。全てありありと思い出せる。これはきっと一種の思念だ。
「死んだら・・・。」
どうなる、のだろう。
焼かれて骨になって埋められてきっと忘れられる時が来る。自分がいた証すら消える日が来る。
「死んだら焼かれて埋められて終わりだ、バァカ。」
「まこっちゃんも意地悪ゆわへんの。」
ぽんぽんと頭を撫ぜられた花宮は毛を逆立てて何かしら喚いたが、伊月はそのまま、考える。死んだらきっと、化けて出るというのなら、伊月は間違いなくあの体育館に化けて出るだろう。ボールを触りに現れるだろう。黒子が気付かれずボールを弾いていたら幽霊と間違われた笑い話とは違う、本物の。
「翔一さんが死んだら、花宮は泣く?」
「なんっじゃそりゃ気色悪ッ!」
「・・・どうかな、俺。」
「えっ泣いてぇや。」
なんだろう、込み上げる感情は。
今まであちこちで死んだひとは見てきた。皆は皆事情も感情も生活もあって、家族はそれに悲しんで。今吉は自分が死んだら泣いて欲しいという。泣くだろうか、死者の身体に平気でメスを入れる自分は。自衛のためにと刃物の扱いを今吉に叩き込まれている自分は。
「幽霊っているんですか?いないんですか?」
うわ振り出しに戻った、と花宮が呻き、伊月はやっと歩き出す。警備室に寄って、電源を落として、学舎を出て、校門を出る前に一度振り返る。通いなれた学び舎は、明日も同輩や後輩で賑やかしくなるのだろう、深夜のそこは闇に沈んでどこか見知らぬ場所だ。
「おると思ったらおる。おらんと思ったらおらん。」
振り返らずに寄越された答えは花宮と同じ言葉だったが、どこかすとんと胸の深いところに落っこちた。
「じゃあ、翔一さんは死んだら化けて出て下さい。」
「はァ!?」
「翔一さんの幽霊なら俺、信じます。花宮さんはいらないです。」
「ゆったなお前。」
「うん、悪童の幽霊要らない。とっとと地獄行け。」
容赦ない舌戦は繰り広げられ、今吉はついに噴出して。
「おー、了解したわー。」
真夜中の帝都、下駄の音とそれを追いかける革靴が、静かに消えていくのを石畳が見守っていた。

明日も長閑に今吉探偵事務所は運営予定。

失せ物探しに探し人、幽霊さんも遠慮なく、どうぞご依頼にお越しくださいませ。

***

今吉探偵と伊月助手シリーズ今回は花宮さんもご一緒に!てゆかあの伊月先輩のキャラソン聞きましたなにあれちょうかっこいいのにちょう残念!!まあそれこそ伊月先輩なんですけど!!収録順番間違ってるよwwwwwっていうでもそれでこそ伊月先輩可愛いかっこいいちょうすき!!!!伊月先輩の口から聞ける「日向なんて」プライスレス!!いや今回今月ですけどwww恒例我が家の俊ちゃん!シャツの裾引っ張ったらうざいと言われたのでその中に扇風機突っ込みました!おとなしくなりました!w伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい伊月先輩下さい大切にします!!ほんで180Qネタバレですけど高尾がもうなんていうか思い出したら涙でそうあのこなにあれHSKとか伊達じゃないのは知ってたけどあそこまで行ったらもうそんなんじゃないでしょもうさエース様にどこまでも付いて行って下さい応援してます高尾君!!!!!個人的に彼の感情の振れ幅は正負問わず大きいと思うんですよ。正方向は笑って笑って発散して周りも巻き込むけど負方向はちゃんと処理して正方向に向けることのできる、ある意味では伊月先輩と同じ思考構造してると思うんですよ、後腐れがあってもその後腐れをエンジンにちゃんと進めるっていうか。日向とかキセキと黒子はそういうの難しそうですよねいや後腐れの規模にもよるけど。境遇としては木吉先輩に似てますけどベクトルがこう同じ高校になった事によってこう真っ直ぐですよね、緑間君に向かって。で、どっちかっていうと、緑間君に勝つってのも同居はしてますけど、それは超えるんじゃなくって支えていく支えていきたいっていうか同等になりたい・・・はちょっと違うな。真ちゃんって呼び名もそうですよね、こう、あれだ、同じ学校で同じチームで常にライバルであり相棒でもあり認め合って高め合って、っていう。悔しさがそこに昇華してるHSっていうか高校生にしては勿体ないくらいの意識持ってますよね彼。高尾君凄い。そして伊月先輩くだしあ。

2012年09月12日 20:56初出。

案の定荒ぶるキャプションタグが入りましたイエー・・・。
これは結構調べものと年代とがごっちゃにならんようにある程度小細工とか計算してます。

201211114masai