あ、せや。
思い立ったが、とばかりにその日の業務終了の合図に看板を下げてきた伊月に、面談室のデスクで今吉は珈琲を啜りながら、振り返った。
「このお休み、ちょぉ手伝うて。」












今吉探偵と伊月助手のゆっくりした日。











今吉との約束の日の朝、伊月が家族に悟られないように捲った新聞では、官能小説は連載が終了していた。最後の文は、《花に知るか》。つまり、花宮への長々とした報告文書は終わりだと。
その日は部活の休養日で伊月としては相田道場に赴きたかったのだが、一日くらいのんびりしてええやん、と誰とは言わぬが上司の一声で予定は潰された。
梅雨の中日は刷毛で描いたような雲が真っ青な空に伸びていて、釦シャツに単と袴の軽装で、今吉の天気予報を信頼して傘を持たずに家を出た。上品な藍色と黒を合わせて、足元は上等な革靴で、通りを行けば日向の母親と顔を合わせた。
「おはようございます。」
「あら、俊くんおはよう。お出かけ?」
「ちょっと仕事の雑務です。順平君と久しぶりに手合わせして見たいんですが。」
最近は日向も鍛練を増やしていて、相田景虎曰く、一枚殻が脱げそうだ、なのだそうだ。
「この間俊くんになんだっけ、そう、ノックダウン?されちゃったってリコちゃんに送られて来たわよ。」
「あ、空手でした。今日は洗濯ものが良く乾きそうですね。」
「ええ、ほんとに。気を付けて行ってらっしゃい。」
「はい、行ってきます。」
日向家とは通りを挟んで斜向かいの立地だが、この通りを目印に小学校は学区で区切る。鞄を肩にかけ直して、伊月は手を組み合わせて伸びをする。さんわりと水の香りがする空気が肺を洗い流していく。
右手の包帯は取れていないが、殆ど日常生活に支障はない。強いて言えば風呂の前後に包帯を巻いたり外したりが面倒だ。肩は昨日の学校帰りに寄った整体医師の曰く、ほぼ完治。あとはその報告を相田リコにして、身体数値を見て貰えば何とかなる。確実に日々は進む。
そんな彼が休日の梅雨の中日の爽やかな昼間から訪れたのは、芳町であるというから世間とはどんな事が待ち構えているか知れたもので無い。懐中時計の針は約束した時間の十分前。待ち合わせと言うには結構な手前だと言える。町の風体を除けば。
おそらくは犯人確保に壁を破砕したその現状を調べに、との所だろう。学生服では来られんよ、と今吉は強く念を押した。押すまでも無いですそんなこと、と伊月は反射的に応えた。
二時間二百円、泊まりなら二千四百円、とほんのお遊び程度なら庶民でも手が届く価格で陰間が売られている茶屋は、この周辺だけで二十軒以上。警官やら憲兵やら、この場に相応しくないと伊月が判断されても、伊月の肩書きで許される。何せ事件の当事者であった訳だ。
「やだ、あにさん、お部屋までお待ちぃよ。」
婀娜っぽく媚びた男の声に、なんか聴き覚えがある、と振り返ってみれば、初老の男と歩く、艶やかな黒髪の青年が居て、茶屋の主と交渉して、茶屋に入っていった。
「あら、ちっと遅れたみたいやな、すまん、月ちゃん。」
「ふぎゃっ!?」
「そんな踏んづけられた猫みたいに吃驚せんでも。」
「え、なに、翔一さんあの猫被った花宮みたいの誰!?」
「うん、猫被ったまこっちゃんやね。先にあっちやな。」
ここよう使うねんあのこ、と番台に中折れ帽を取って挨拶した今吉は、そのまま足音も立てずに座敷の一室に通された。
「あたりめ食う?」
「まずはお茶で落ち着きたいです・・・。」
りょうかいしましたー、と今吉は急須に茶葉を蒸らす。
「月ちゃん、時間計って。」
「あ、はい。」
薄い壁の向こうから聞こえる音に、伊月は肩が跳ねた。衣擦れと湿った声音と肉質な擦る音。何の拷問ですかこれ、と聊か恨みがましく湯呑を受け取りながら伊月の潤んだ目は今吉を見る。真っ白な顔色に冷や汗が浮いているので他人の情事に興奮した訳では無いとは明らかに見て取れる。かち、かち、と手の中の針の音だけが慰めてくれるようでもあった。
「さっきの男、見憶えなかったか?」
「花宮ですか?」
すこし声量落としてな、と瞼にくちづけられ、伊月を壁に追い詰め、今吉はその壁に、立てられた膝に、囲うように腕を置く。こちらもそこそこ情事の最中にしか見えない。
「ちゃうよ。まこっちゃんを連れ込んだ男。」
「・・・。」
まさか、と伊月は口元に手をやって、その甲に今吉がくちびるを押し当てる。せーかい、と口の端を吊り上げて。
あ、と壁の向こうの高い嬌声に、びく、っとまた伊月が肩を跳ねる。
おれのなか、そんなよかったぁ?
同僚のこんな声聞きたくないんですけど!?と目で訴えるも、すうと三白眼が現れるのに伊月は息を呑む。そうだ、さっきの男は、秘書が不祥事を起こして数年前に新聞に載った顔だ。思い出して振り仰げば、合格、とばかりに耳元にくちづけられ、今度は情の熱から素直に目元を赤く染める。誤魔化すように静かにお茶を含んで、時計を見れば、二人が部屋に入って一時間が経過した事を知る。
あにさん、どこかでみた。思い出せないなぁ・・・。
野暮を言うんじゃないよ。
あ、あっ。
「・・・ちょっと勘弁してもらいたいんですけど。」
「ワシもしたぁてしとるんちゃうで?」
くく、と低く笑った今吉は、どちらかと言えば伊月の反応を愉しんでいる。
まつりごと、の、ひとだ、ぁ・・・すごいんだぁ・・・。
おや、光栄だ。
掛かった、と今吉も伊月も思った。若い男を組み敷きながら、汚職に塗れた政治家は自らの暴露を、聞かれているとも知らないで曝け出し、全ての罪を秘書に擦り付けた罪を自白しながらまがい物の情交に没頭し、二時間が経過する前に、陰間を演じた花宮に金を渡して出て行った。
「今吉、風呂!!」
すたんっ、と襖が開けられると、情報を書き留めていた手帳を伊月が花宮に提出。上出来、とそのまま手帳は返された。よくできました、とばかりに今吉は乱れた髪を撫ぜて、廊下を足音無く渡っていった。
「ここの店主と顔見知りってそういうことだったの。お茶いる?」
「茶で我慢してやる。ったくあの絶倫・・・。」
立っているのも辛い態度を見せないで、着物の中で脚を組み、とろと太腿に滴った白濁も気にせず花宮の調子は表立ってはいつも通りで。
「この情報どうすんの?」
「貴族院だからな。裏から俺ら、表からお前、って手段もあんぜ。侯爵サマ。」
確か損害はこうで政治的影響がああで、と情報をさらに整頓して、はたと花宮は思い出したかのように。
「そこ、知ってっか?」
「ああ、今から被害報告貰いに行く予定。ゆっても請求先は警察か被疑者だけど。」
「ちげーよ。」
にんまりと底の読めない意地悪い笑みを浮かべた花宮は、まだ他人の精液が臭う体で伊月の顎に指をやる。
「四つの目がある暖簾。何の店かくらい知ってんだろ?いくらイイコちゃんでもよ。」
「よ、よつっ、ちょ、はなみやっ!?」
「まこっちゃん、風呂入りー。ほなワシらあっちの店で話聞いてくるから。お疲れさん。」
「ありがとよ、とでも言うと思ったかバァカ。」
そんじゃな、と部屋を出て、やはり彼も疲れた体のくせに足音を立てずに廊下に消えた。
「ほな月ちゃん、管轄外のお仕事付き合わせて悪かったな。今日のお仕事済ませてしまおか。」
「・・・はい。」
仕事、と言い聞かせて伊月は鞄を持って、それを今吉に取り上げられる。手帳と万年筆の入った鞄を取り上げられて、それくらい持てるのに、なんて考えれば、なんとなく面映ゆい。大切にされている。生娘でもないのにそんな風に扱われるのは男の矜持がどうのとか、そんな野暮な話はどうでもいい。一点の穢れも無い優しい愛に包まれて、それが愛する相手なら問題なんてどこにある。
破砕された外壁はきちんと修繕されており、修繕費用と、その報告は警察に行ったが、誰がどれだけ負担するか、というのが今吉と彼の事務所の経理を働く伊月の仕事であって、これは警察側からも店側からも同一の依頼であった。どれだけ負担すればいい、どんな請求をすればいい、とのことだ。
「確保の際に壁に衝突した、ということなんで、わざとこの場所に被疑者が立っていない限りは。」
「せやね、前提に投げられるが無いからそれは無い。けど、全部が全部警察の責任で無いよって。」
「じゃあ、被疑者に請求行きます?」
「因みに月ちゃん、投げた意図教えなさい。」
「たまたまそこに壁がありました。わざとじゃありません。」
「了解や。ニッパチで警察に連絡しとく。おっちゃん、電話貸して。」
店の主人とも相談しながら話を詰めて、今吉はまた諏佐に何をか言ったのか、その反応に笑いながら通話を切って。
「ほな、奥座敷借りるで。前と一緒とこ。月ちゃん先入らして貰い。たまには余所にお泊りもええやろ?」
夜の貌で薄く笑った男は、そのまま伊月の鞄を持って店先から一度姿を消した。顔が真っ赤になっている自覚はある。
「翔一さんのばかー・・・。」
「えっと、あんた、もう怪我は・・・。」
「ああ、もう全く痛みは無いですよ。あの時は御心配おかけしました。」
「旦那さん、この子に触るな、って虎みたいな雰囲気でさぁ。」
それを言うなら狐だろう、と伊月は容赦なく、奥座敷に案内されながら考える。
「朝早くにお前さん、出て行っちまったろ?喧嘩でもしたのかと思ったよ。」
喧嘩と言う言葉は笑って誤魔化すしかない。
「旦那さんも、お前さん探して急いで出て行ったけど、仲直りできたようでよかったね。」
そっちのお風呂は自由に使って貰って構わない、手拭いなんかはそこの箪笥のをお使いな、と部屋の真ん中に置いてある急須の中身を入れ替えてくる、と店の主人は一度部屋を出た。
「この部屋、こうなってたんだ。」
ちょっとした下宿位の設備はあって、欄間には竜虎奮迅、ちいさな屏風には迦陵頻伽の舞、湯呑はなかなかに上等だ。
「どないしたん、月ちゃん。落ち着かん?」
「あ、翔一さん。」
いえね、と少し笑って。
「前にこの部屋お借りした時はそんなに見る余裕無かったですし。」
「すぐ出てってしもたしな。」
「う。」
「おいで。お茶貰うてった。」
「あ、淹れます。」
「月ちゃんはゆっくりしとりーや。」
湯呑を二つ、やさしい色のお湯がやさしい香を放って注がれる。
「な、んか、だって。」
「落ち着かん?」
「茶屋で落ち着けるって変な話だと思います。諏佐さんにチクってやる。」
「やめて、ワシ捕まる。」
少しだけそうやって笑い合って、延べられてある布団の枕元にあった瓶を今吉は玩び、栓を抜いて臭いを確かめる。
「月ちゃん、お風呂行ってらっしゃい。」
「あの・・・。」
「ええやん、こうやって、しますー、って雰囲気も。」
ううう、と若干呻いた若造は、そのまま年長者の手のひらに転がされて、箪笥から手拭いを借りると風呂場に逃げた。駄洒落を考える余裕なんてものも無い。それくらいに思慕や恋慕や情欲に踊らされている。
真昼間の茶屋の上等な部屋を借りて、泊りがけでゆったりと過ごす時間があってもいいだろう、と今吉は煙管を取り出し、部屋の隅にあった煙草箱を引っ張り出すと、窓辺に肘を置く。手のひらで風を覆ってマッチを擦る。煙を肺まで入れて部屋に揺蕩う。この時期は湿気が多く、単純に煙草の味だけが愉しめる。苦々しく喉を焼く煙は嫌いでない。
暫くは遠出の予定が取れないので、一日くらいは情人を貪ってもいいだろう、なんてあくどい顔して気分は蜜月も良いところで。
「・・・花の匂いがします。」
「元々煙草は植物の葉やで。」
「解ります。茄子科ですよね。」
「二十歳越すまではあかんよ。」
「・・・原因それじゃないですかね。」
「何の?」
藍色の単一枚に袴を丁寧に畳んでいく伊月はそのまま、はい翔一さんお風呂、と手拭いを用意してくれる。そんな伊月こそ花の香りがした。湯船に浮かべられた季節の華にはさしもの今吉も眩暈はしたが。
窓辺に座り込んで窓の下にごちゃごちゃと流れるひとなみを伊月は観て、皆どこに行くのだろうな、なんて考えた。二階にあるこの部屋からは、静かに蠢くひとびとの頭が見える。通りを挟んだ向こうにも茶屋はあるのでそんな見晴らしが良い事も無いが、窓枠に気怠く凭れて何とはなしに他人の生活を垣間見る。障子の閉まった向かいの部屋は、閨なのだろう。ふう、と色の濃い吐息に畳に寝そべり、空を見る。
家を出た時と然程変わらぬ、地面に近付くに従って白く染まる梅雨時期独特の空の色に、割り筆を滑らせたような雲がある。
「寝るんやったらお布団行き。」
「空を見てました。」
「さよか。」
すとん、と障子が滑らされて、室内は薄暗く染まる。
「翔一さん・・・。」
随分と媚びるような声が出た、とくちびるに指をやると、手を取られてくちびるをそのまま今吉に塞がれる。すり、と皮膚同士が擦れ合うようなじゃれる様な接吻けを愉しめば、ちろりとくちびるを舐められ、そのまま薄く開いた口に侵入を赦す。
「ん、・・・ぷは。」
「何考えよん。」
「翔一さんと、するの、好き。」
「そら随分と放蕩息子やね。」
脇腹を撫ぜられて身を捩ると、腰を持たれてそのまま布団に引きずられる。枕を蹴った。帯を解かれて肌蹴た胸元に舌が這う。
「ん。っあ。」
「真っ赤。」
胸元を擦られて勃起した乳首を爪で抉られ腰が揺れる。かし、っと聊か強い刺激に背が浮いた。
「あ、いた・・・。」
「千切れてまいそう。」
「か、かんだら、いやっ・・・!」
うつくしく艶めかしい黒髪がぱさぱさと跳ね、しゅるりと真白の肌が晒される。健康的に薄くも綺麗な筋肉がついて花色に染まって色の吐息を零し、下肢は既に先走りを零す。
「ほら、目ぇ開けて?」
苦しそうに寄った眉根を優しく撫ぜて、淡い呼吸の漏れたくちびるを喰ってやりたい衝動を堪えて、ちりん、と鈴を弾く。木製の留め具で乳首を挟んで白い肌に金色の鈴がころころと鳴って、ふえ、と泣きそうに啼いた。
「や、翔一さん、はずして・・・。」
「ええやん、かわええ。」
鈴を指先に玩びながらもう片方の粒を舐めしゃぶって、ゆるゆると下を揉んでやれば、ぴくぴくと腰を揺らして達した。
「・・・っは、ぁん。」
太腿が痙攣するのに、ゆっくりと骨の細い腕が今吉の襟に伸びる。
「ぬいで、しょういちさ、ん・・・。」
蕩けた声音が訴えて、今吉も殆ど羽織るままだった単を投げ、下帯も外す。脚の付け根に擦ってやれば、手の甲にくちびるを押し当てて腰をくねらせた。つうと先走り同士が糸を引いて、指先を絡め取って、深く深く接吻けを繰り返す。
「力抜いて。」
「は・・・。」
薄い胸板が呼吸に上下するのに合わせて、枕元に置かれてあった蜂蜜を指先に絡めて後ろに塗りたくる。つぷと綻び始めるそこに指を入れると最初の締め付けを解す。甘い液体を更に足す。
「こっち向けて?」
「こっち・・・。」
「四足なって。」
導かれるまま四つん這いにさせられ、ちりん、と鈴の音に上体が、肘の力が抜けて尻だけが持ち上がる。
「あ、やだ、しょういちさ、ま、まってっ。」
胸にぶら下がる衝撃だけでも強すぎる。取ろうと足掻いた指は絡め取られたまま、もう一方の手が布団を掴んだまま動けない。
「い、っや!」
指がくにくにと内部を犯すそこに、ぬるりとあたたかな、感じたことの無い感触に悲鳴じみた声が上がる。
「旨そうやったから。」
「それ、は、はちみつ、・・・っ。」
「月ちゃんも欲しい?」
「ひらな・・・っ!」
べちゃりと唾液を塗り込め、内壁を愉しむ様に舌が動けば、びくびくと痩躯が撓る。ちりりと不服そうに鈴が鳴る。
「やだ、やだ、翔一さん、それ、やぁだぁっ!」
腿に睾丸に陰茎に垂れてくる蜂蜜に唾液が混じって、孔の周囲がじゅぷじゅぷと泡立って、そこに意識を取られて、つきんと奥の刺激に腰が跳ねた。
「あああっ、あ、い、あああっ!」
つぽん、と舌が抜け、そのまま蜂蜜が足されると、唾液と相まって滑りよくなった中で指がばらばらと動く。
「あ、にゃあああ、しょーいちさ、そこ、にゃぁんっ、ふあっあ、や、ら、らめ!」
ぱたぱたと飛沫を落として若魚のように跳ねた身体は一度緊張してくったりと布団に沈む。拡張されてきたそこに満足気に笑う貌に、やっと与えて貰える天悦に、歓喜で身が振るう。
「ほんま、かわええ。」
「にゃんっ。」
りんっ、と鈴を弾かれ、抱き込まれる腕の中で伊月は発情期の雌猫のように啼く。快楽に淫蕩に素直に美貌を涙を揺らし、その肩に縋るように指先が引っ掻くように動いた。
「力抜いときや。」
こくん、と健気に頷いた顎を捕まえ酸素を奪うような接吻けに、ん、と若い喉が戦慄く。素直に閉じられていた薄い瞼がばちりと今吉の頬に涙を散らした。
「ん、んー!」
ぬるぬると押し込まれてくるそれは、固くて、熱が無い。塞がれたくちびるに悲鳴が飲み込まれ、それでも暴れるほどの四肢は抑え込まれた。
「しょ、いちさ・・・っ!」
「なぁに?」
「やだ、ねえ、やだ、これ、いにゃああ!」
張り型が中に押し込まれ、拒絶が半ば悲鳴に変わって嬌声が上がった。擦り合わさった性器から壊れたように精液が流れ出して、今吉は恥部を隠す手を絡め取って脚を強引に開かせる。
「あぁっ、いやあぁんっ。やらぁあぁ・・・ぬい、きゃんっ。しょ、しょいちさ、あっん!!」
無機質な、男性器を模したそれを抜き差ししてやれば、ぽろぽろと泣いて嫌がって、それでも快楽に美貌が壮絶な色香で歪む。
「にゃぁ、ああ・・・こわれ、いやああっ、しょういちさぁん!」
しなやかに伸び上がった脚が今吉の脇腹を蹴って、膝が擦り合わされると太腿が痙攣を繰り返す。腹筋が収縮を繰り返して、臍には自分で出したそれが溜まってたらりと布団を汚す。握り合わせた手が、ぎゅ、っと爪痕を残しそうに握られる。
「もうあかん?」
りり、と白い肌の上を鈴が転がって、泣きの色が濃い美貌が緩く逸らされる。くるりと中で回してやれば、喉が反った。
「あは・・・っん。」
「俊、ゆうてみ?」
「も、さい、てー・・・。」
ぽろぽろと布団が涙色に染まって、猫でも撫ぜるように大きな手が髪を梳いてくるのに、振り払うように首を振る。
「俊?」
「こ、んなの、やぁ・・・。」
「これか?」
知り尽くしたかのように中を擦ってやれば、ぎゅ、っとくちびるを噛みしめ、嬌声を殺したが、爪先がまるくなって、膝が擦れた。
「は・・・。」
「気持ちよさそうやん?」
「や、も、やです。翔一さん、抜いて・・・こんなの、いや・・・。」
「そんなにいやか?」
ずりりと抜いていけば、はぁ、と安堵の吐息が零れたが、また貫かれて痩躯が弓なりに撓る。いや、と嬌声が閨を甘く染めた。
「あ、う・・・。しょうい、ちさ、が、いい、れす・・・。」
とろりと色に酔ったような声に貌に言われて、その薄いくちびるを食んだ。
「・・・舐めて。」
よくもまあ残忍に言ったものだ、とその赤いくちびるに先端を擦りつければ、はむとその口に素直に含む。後ろ頭に手を回して、綺麗なその髪を掴んで、ゆっくりと動かせば、薄い舌が絡んで、上顎に溢れてきた精液を擦りつけてやれば、こくと喉仏が動く。
「か、っは。」
けほ、と布団に横たわったまま口内を犯されていた青年は、ちりちりと鈴を鳴らしながらも従順だ。後孔には張りぼてを噛まされ、口を犯され、喉の奥に吐き出された精液を、呼吸を荒げながらも素直に嚥下した。
「ふあ・・・。」
口の端に残っていた白濁を震える指で掬い、舐める。白い肌に真っ赤に染まってしまったくちびるの壮絶に美しいコントラストに戦慄っと背が熱くなる。
「ん。ふ・・・。」
上気した頬に涙の痕を擦って、おおきに、とくちびるを落とすと、ほっと花のように笑う。舌を合わせると独特の苦みに今吉は眉を寄せ、また優しく頬を撫ぜ、汗で首筋に貼りつく汗に濡れた美しい黒髪を払う。
「抜くで。」
「んっ。」
内臓が引き絞られるような感覚に、ざっと皮膚が粟立ち、はふはふと必死に呼吸を刻む。潤滑で中で混ざったそれらが糸を引いて張り型が、ぬぷりと音を立てて出ていくのに、しなやかな無駄な肉の無い脚が戦慄くように閉じた。
「っは、はぁ・・・。」
「おいで。」
結ばれていた手を解いて、首に回させると、右の肩に爪が食い込む。ふるふると元の形に戻ろうとする孔に切っ先を突きつければ、ちりん、と鈴の音がやけに響いた。
「あ、あっ。」
感極まったような声で啼き、脚が腰を抱いてくるのに任せて挿入する。あ、く、と苦しそうに零れた声ですら、欲の色。
「翔一さん・・・好き・・・っ。」
ぎゅうと力の籠った脚を宥め、じゅぷん、と大きく水音を立てて奥を叩いた。
「ああああああっ、しょぃ、あやあっきもちい・・・!」
「月ちゃん。」
「しょ、しょーいちさん、だめっ、もっ!」
腹筋が小刻みに上下し、脚が痙攣する。ああ、と高くに啼いて、熱い肉塊を絞めた。
「っは、あん・・・にゃぁ・・・。」
ゆるりと腰を揺らすと余韻から抜けきらない黒曜石色の潤んだ瞳でうっとりと強請る。
「も、っと・・・っあ、あっあああー!」
反射的に逃げを打った痩躯を組み敷き、いっそ乱暴に暴れてやれば、びくびくと可哀想なほど跳ねてはまた絶頂を越す。
「しょういちさ、しんじゃ、あんっ!」
「月ちゃん、好き。」
すうっと静かに涙が一筋落ちた。
「翔一さん、すき。好き。すきぃ・・・っ。」
あいしてる、と舌っ足らずに耳元に囁かれてじっとしていられるほど出来た男で無い自覚はある。箍が外れたように、獣のように咆哮に似た声を上げてどろりと中に熱を注ぎ込む。
「にゃぁん・・・っ。」
妖艶に身をくねらせ、ちりちりと鈴を転がし、その感情の奔流を受け入れ、顎を持ち上げるとくちびるを擦り合わせる。
「月ちゃん、愛しとる。」
返答を聞く前にその粘膜を蹂躙し、唾液を飲んで、また腫れる情を注ぐ。
「あ、翔一さん、の、出てる・・・。」
下腹に手をやって、中で小刻みに動きながら内壁に擦り込むような動作と独特の血潮の動きに似たそれに、うっとりと呟いて、また硬度を取り戻す熱に柳眉が寄る。
「もっと、してくれ、ます・・・?」
「付き合え。」
容赦のない厳しい命令口調で言い放たれ、切れ長の目が瞬く。
「幾らでも、どうぞ、翔一さん。」
そこで酸欠になるすれすれに迄、接吻けを強請られ貪られ、伊月の意識が覚醒するのは夜半だった。
「痛いんですけど。」
ずっと鈴がぶら下がっていた乳首は腫れ上がって、今吉の腕の中で目覚めたはいいが、両方とも意識を飛ばしたままだったようで、繋がったまま、伊月は背後に覆いかぶさる男を半目で見やる。
「堪忍してやぁ。」
へら、と笑った顔に眼鏡は無く、あのあと何をしたのか何を言ったか、伊月は全く持って思い出せないのが怖い。背中に囀るように落ちてくるくちづけを甘受し、ゆるゆると中に注がれた熱い液体に、はふ、と熱い吐息で布団を噛んだ。
「起きれる?」
「腰は砕けてます。支えてて下さい。」
腕の力を使って起き上がるのは、もう腕の筋肉くらいしか思い通りに動いてくれないからで、水から上がった獣のように全身を震わせたのは、今吉の存在が体内から消えたから。
だらり、と腿を伝った感触に思わず座り込めば、今度は腰に鈍痛が来た。
「月ちゃん?」
「な、なか、どんだけ出した、んですかぁ!ばか!!」
真っ赤になってそれだけ吠えて、相手の胸元に顔を埋め、後処理に突っ込まれた指先に過剰に反応して、眠れなくなるまであとどのくらいか。
それはきっと、どんな時も二人で歩こうと、決めてしまった弊害である。


今吉探偵事務所、明日も通常業務予定。
曰く、結婚は人生の墓場、だとかなんだとか。

***

ぐだぐだ玩具使ったりしてやってるだけ。花宮のお仕事とかもあるです。あ、金銭価値は現代の百分の一です念のため。

初出:2013年6月5日 18:18

芳町は歌舞伎座デートの帰りとかに寄ってくると良いよもう。

20130903masai