ピンク色の裂き。

 

そのマニキュアは、伊月にとって可愛らしい、見覚えのあるそれだった。

バスケットという競技をするに当たって、爪というのは大事なものだ。これは素手で球技を行う者なら、男性であっても使用する。事実、伊月はコーティング材として透明の爪の保護用のそれを使うし、同じクラスの野球部のエースピッチャーも朝練の後によく塗り直しているのを見たことがある。しかしそれはあくまでスポーツ用品として売られるそれで、爪の保護用にと販売されているものだ。

「森山さん、これなに。」

その、とろりとした液体は、何故か女性の化粧に使われる甘やかなピンク色だ。

「手元狂うから待ってて。」

森山が操る小さな刷毛と、嬉々としてその硬くも柔軟である指の腹を支えて時折悪戯に薄い手のひらを撫ぜるのは、是非とも伊月としては止めて頂きたい。しかも無駄に上手い。はみ出すことなく、綺麗にその爪を塗って行く仕草はどこで学んできたのやら。ああそうだ、彼もバスケ選手だった。しかもシューター。

「ん、かわいい。乾くまで待ってて。」

「えー。」

足の爪まで彩られて、仕上げとばかりに満足気にキュっとキャップを閉める。

かわいいと言われましても、と反論は森山のくちびるが、ちゅ、と可愛らしいリップ音で封じた。ずるい、と眉を寄せて口を噤むと、眉根にキスが降ってくる。

「で、こっち。」

ぬるりとくちびるに押し付けられた甘ったるい匂いに、これも姉の使っていることから覚えがある。リップグロスだ。下くちびるをとろとろと森山の人差し指がなぞって、口開けて、と小首を傾げた声に、もうどうにでもなれと、素直に従う。つうと上くちびるもそっとなぞって、その指で森山は些か乱暴に伊月の口に指先を捻じ込んで薄い舌を指先で摘まんでくる。

「ほひゃみゃしゃん?」

「おお、えろい。」

なんだか苛ついたので、前歯で指先を軽く齧ってやれば、それすら森山は恍惚に笑う。

乾いたかな、と指先を持ち上げ、ピンク色の爪をそっとなぞる。部屋の中のシンナー臭さは鼻が馬鹿になったらしい。窓が開いてなければくらくらとその臭いに酔っただろう。森山は自分のベッドから立ち上がって窓を閉める。伊月はシーツに手を下ろし、シーツの甘い色のシミに眉を寄せる。

「森山さん。」

「ね、シよ、俊。」

奇妙な倒錯感に酔った、欲情そのものの貌で森山は伊月の指先で己の股間を撫ぜさせた。触らなくても判るほどに勃起したそこに、こくりと伊月の喉が鳴る。

「口と手で、して?」

「悪趣味ですね。」

女物の色で飾った指先であってもそれは日々をバスケに勤しむ紛れもない男の手であって、しかしだとして、森山が求めるのは伊月の口内だ。ゆったりとパジャマ代わりのジャージを下ろしてやって、眼前に突き出された男根をその指で伊月は撫ぜた。先端にくちづけ、口の中の異物に湧き出た唾液を垂らしてじゅぶりと水音を鳴らして咥え込むが、喉の奥を突かれる前に、根元をその染められた指先で撫ぜる。

「・・・ん、う。」

「んっ、ふは・・・ぁん。」

「きもちい・・・。」

徐々に膨れ上がるそれから、一度口を放してくちびるを拭う。手の甲にはぬったりとグロスが唾液や先走りと混じって奇妙な香りが鼻腔を突つく。その茎も血管が腫れ上がるそこに悪趣味なくらいに可愛らしい色の滑りが残ったが、デリケートな場所であることだし、と拭うまでは行かず、そっとマニキュアの塗られた指先でなぞると、ぴくんと更にそそり勃った。

「・・・ん・・・。」

「きれい。」

ピンク色の爪が太腿に刺さったので、くくと低く森山は笑ってしまった。別段、女の格好をさせてみたいだとか、そんな気は毛頭なく、しなやかな筋肉を纏った、比べて見れば細いが女の手に見える事は一切に無い。

上を脱いでしまえば、胸板を腹筋をピンク色の爪がなぞっていって、臍に指先を突っ込まれて、ぎゅっと腹筋に力を込めれば浮き出た筋に情欲で赤く染まった舌が舐めた。

「よしたかさん。」

「うんー?」

「楽しい?これ。」

「うん、可愛いし、綺麗。」

それは男に対する褒め言葉であろうかと、逡巡するのはもう飽きた。森山の思考回路を追い掛けるのは大変に疲れる。

ゆったりとベッドに倒されながら、恭しく手の甲にくちづけをくれる森山の、睫毛を見下ろせば、その切れ長の目に住む、伊月よりも少し明るい色の光彩が見上げてくるので、ぴくと伊月の肩がちいさく跳ねた。

森山は自他ともに認める女好きだが、伊月に向けるそれは明らかにベクトルが間違っている。何がどうして、というのも考えるのも飽きた。

「自分で、触れる?」

「・・・え、と。」

彩られた手を引かれて誘われるまま、いつも受け入れるそこにピンク色の指先が這えば、襞が戦慄くかに窄んだ。これ、と差し出されたボトルの中身を手の中で捏ねて、恋人の眼前にその場所を晒す羽目になる。

くちゃり。

淫靡な音に、指先を飲み込んだ感触に、ぴくりひくりと肉が蠢く。

「いつも、そうやんの?」

「や、やんな、い、です・・・っぅん・・・。」

それにしては慣れてるよ、なんて耳元で囁かれれば、自分の指を内壁が絞め付けたのに、ふえ、と嗚咽に似た喘ぎが零れた。

「よ、したか、さ・・・。」

「うん、どう?」

「な、かぁ・・・くださ、い。」

「あら、由孝ビックリ。」

ピンク色の爪が自らをぱくりと拡げた中は、爪に塗りたくられた人工的なピンク色ではなく、肉体的な生々しいピンク色が扇情的でうつくしい。森山にだって余裕なんか無い。素早くコンドームを用意して、はふはふと必死に呼吸を継いでいるくちびるを、口内を犯し、上顎を舐めれば、びく、と伊月の体が大きく撓った。とろとろと腹が白く汚れたのに、森山は目を瞬き、快楽から涙を落とす伊月の頬を舐めた。

「キスだけでイった?」

「・・・っ、やぁ、も・・・。」

ぱらぱらとしっとりと汗に濡れる美しい黒髪が萠香を散らして、ごめんなさい、と詫びに伸びてきたピンク色の爪を森山は啜るように舐め、甘く噛んで、フェラチオに酷似した仕草で吸い、その手首にピンク色を絡ませて、孔をかする熱い切っ先に、今度は縋るように腕を捕まえてくる。

「あー・・・。」

蕩ける声音、とはこれだろうか。ぬぷくぷと飲み込んで行くそこは、根元まで入った確認にそのピンク色の爪を持つ指先でなぞる。

「んっ、ふか・・・い・・・。」

「苦しい?」

「だめ、もっと・・・んっ!そこ、あ、あっ、ぅあ、や、よしたかさん、そこばっか、いや!」

一番に感じ入るその場所を何度も擦ってやれば、ひくっ、と伊月の喉が反って声にならずに喘ぐ。

「俊・・・。」

「あ、やぁっ、よ、したかさ、だ、ぁ、めぇえ!や、らっ、イちゃ、また、あっあ、ああ、やぁああ!」

訴えを無視して本能のままに腰を揺らせば、女の色で塗られた爪が背中を裂いた。会陰を擽る恥毛までもが只管に伊月を追い詰め、ちゃぐぐちゃぐと薄い皮膜越しに感じた熱い飛沫に、足首が反ってつまさきがきゅると丸くなり、中は搾り取るかに動いた。

「っは・・・う。あは、ん、ーんっ。」

「・・・は、・・・っ。」

倒れ込んできた体躯に更に沈められ、奥深くにじゅるりと感じた液体に、あ、とピンク色の指先が森山のいる下腹を撫ぜた。

「・・・やべ、ゴム破れた。」

「も、・・・よしたかさん、いいかげ、んに、・・・っあん!」

んー、と唸った声音に、蕩けた黒曜石色のまなざしは少しだけ非難が混じっている。

「もうさ、生でヤっていい?」

最悪ですその思考、と言う前に、一番の弱い場所と奥に熱棒を叩き込まれ、甲高く上がった嬌声は、最早恋人の名前と母音しか紡げなくなっていた。

余談ではあるが、その可愛らしいマニキュアは、爪の保護用に伊月へプレゼントされたが、当然ながら使う時は森山と色のある夜を共にする時だけになったのは、然るべき措置であろう。

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初出:2013年5月1日 02:43

深夜のテンションこっわぁ。

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全くです(みゆボイス。

20141231masai