血みどろに染まった地面から、魔物の鳴き声が聞こえる。











今吉探偵と伊月助手と花宮助手とクトゥルフ神話。E












クライマックス行く前に、と高尾が指差したのはキャラシート。
「えっと、SANがどこまで減ったか確認しますねー。」
「ああ、吉本は33取られとる。」
「月人は27ですね。基本数値が55なんで余裕まだあります。」
「げ。雨宮29取られてやがる。基本数値は35か・・・変なもん見れねぇな。」
「一応初期値はクトゥルフに従って99にしてありますけど、その基本数値超えたら碌に動けない設定は付けときますよ。」
「KPがルールなのだよ。」
「もう既に吉本と雨宮はガッチガチなっとっておかしないな。」
「あとはクトゥルフ技能も4まで増えてますんで。」
「いらん・・・。」
「凄くいらない・・・。」
「あとは今まで成功した技能も成功した分増えてますんで、よろしくでっす☆」
「あ、それはまあありがたいか・・・。」
ってなわけでー、とにやぁっと笑った高尾にプレイヤー三人は背筋が伸びた。緑間は優雅に紅茶を飲んでいる。
「シナリオ最終章、いっきまーす!!」
「「「まってましたー・・・。」」」
「気の無い返事っすね。」
「たりめーだ・・・。」
「はい、井戸注目っすよー。螺旋状に柱が伸びてます。燐光が発されてるんで、周囲は仄明るいです。」
「ペンライト消す。電池の消費考えんとな。」
「淡い燐光のような青白い輝きが発せられ、光は脈動しているかのように揺らいでいます。柱の質感は、不純物を多く含みくすんでしまった水晶のようで、見た目からは硬そうにも見えますが、ある部分では波打ち蠢いています。その柱には、無数の何か、まあ井戸にいたアレっす。付着しています。」
「逃げる!!」
「幸運ロールで。」
「21で吉本成功!」
「34!月人成功!」
「幸運低いんだよ雨宮・・・36!!ほら失敗だ!!」
「あらま。その変な物体はよく見ると、それらは半分めり込んで同化しています。太さは1m程度しかないというのに、その柱は風に揺れることもなく、垂直に天を目指し伸びていきます。」
「どこまで逃げれた?」
「まだ辻の小屋ってとこでしょうね、雨宮失敗したんで。」
「お前か!!」
「悪いのはダイスだろーが!!どこに逃げる!?」
「まずは港。水野に船修理させてやな。どうせ自分で部品抜いたんやろ、吉本らが逃げんように。」
「わーもう何も言いようもねぇメタ。じゃ引き続き幸運ロール。」
「23!吉本成功や。」
「あ、月人も23で成功です。」
「おいこら思わぬ偶然って顔してんな二人とも。26で雨宮成功!」
「はい、じゃあ無事港に辿りつきました。その柱はかけて400mほど伸びたところで停止しました。島のどこからでも確認出来ますよん。柱は動きを停止すると、無数に付着していた何かに次々と裂け目が出来ていきます。そして、それは一斉にプチンプチンと裂け始めます。内部には、人間によく似た目が入っています。」
「うわあああなんかそんな映画知ってるううううう!!!!」
「だいだらぼっちか!!」
「柱に無数に現れた目は、大きく見開かれ、無遠慮な視線で島中のありとあらゆるものを高みから見渡してます。同時に柱の頂上にも変化が起きます。放射状に無数の枝が頂上部から伸びて、傘の骨か、木野子のように水平に広がっていきます。それは島全体を覆い尽くそうとするほどの勢いです。」
「・・・木野子と聞いて一瞬桜井を思い出した俺は悪くない・・・。」
「更に、その放射状の伸びた枝の途中から、また枝分かれをするように、ゆっくりとですが下に向けて垂れ下がってくるモノがあります。非常に粘度の高い液体のようなもので、柱に近い位置ほど垂れ下がるスピードは速いようです。」
「やっべ、それ触ったらPOW吸われるあれだろ!?」
「正解す。この柱と垂れ下がってくるモノの正体は、あれやそれやの触手ですね。そして、垂れ下がってくる液体のようなモノは、突起物と同じものです。貴方方が寝床に通じる涸れ井戸に火が投じたことで、神の関心をひいてしまったみたいっす☆SANチェックどーぞ!」
「ぎえ。」
「うーあー。月人5!」
「雨宮6・・・って、おい。」
「吉本は6やな。暫く凍って走り出す、て感じか。」
「ですね。松坂理母娘は、柱を崇めるように見上げ、聞き慣れない歌を口ずさんでいます。それは皆さんの知るどんな言語ともかけ離れた歌詞であり、音階です。それは美しい旋律のように耳に聞こえますが、正常な御三方の魂にとっては、どうしようもなく不快に感じるものです。柱と枝に付着している物体も、その旋律を輪唱し始めます。やがてメロディーは天を覆い尽くし、島全体に満ちあふれます。やがて、松坂理恵子と愛香は、天から降りてきた突起物にちゅるりん☆と飲み込まれてしまいます。まるで人間の形をしていた袋に詰まっていた水を一気に抜き取り、勢い余って袋まで吸い取ってしまったかのような、そんな非現実的な動きによって、二人の身体は突起物の中へと入っていきます。」
「ちゅるりんて何それシュール!!」
「SANは皆さん大丈夫ですか?」
「吉本と月人はまだいける。雨宮もう無理やろ?」
「あー、やっぱし。」
「ファーストセッションで精神崩壊で死んじゃうの嫌ですよねー。月人の応急手当どっすか?」
「いいのかよ。」
「今回は俺がルールなんで、どぞ?」
「46で月人成功。」
「そんじゃ、1dだけ回復どうぞー。」
「4だな。」
「さて、『どないして逃げるか。触手に捕まったらワシらもちゅるりんコースやで?』。」
「んー、『筏なんかは時間掛かりそうですね。ハマ婆さんのがらくたも有効っぽいですが、先ずは水野国彦!』。」
「はい、りょーかいでっす☆ 見晴らしの良い場所に出れば、島のあちこちに突起物が垂れ下がっているのが見えます。その動きは柱から遠いほどゆっくりではあるようですが、中には柱から離れているにもかかわらず、すでに地表に達しているものもあります。その動きに規則性はないと見て良いでしょう。地表に達した突起物は、今度はすべてを飲み込みつつ地表に広がっていきます。幸運ロールどうぞ?」
「またか!」
「64!って月人失敗!?」
「35っ、雨宮成功。」
「22で吉本も成功や・・・。」
「隣に立ってた木がちゅるりん☆」
「「「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!!!!」」」
もう絶対失敗すんな固まって動く絶対幸運ロール成功させる!!と伊月が花宮に泣きついた。ほれと手を広げた今吉には首を横に振る事だけで応じた。
「ほんじゃ港でしたねー。港に着くと、船には明かりがついています。」
「やった、『水野さんいた・・・!』。」
「また、港の近くにも突起物が降り始めており、非常に危険な状態でっす☆船の中には、水野国彦がいます。彼は船から抜き取った部品を戻して、出航しようと準備しているところです。井戸から遠い位置にいた彼は、何かの影響をあまり受けず、生存本能に従い、島から逃げ出そうとしているのです。」
「『ちょぉ、乗せてんか!』で。」
「吉本の存在に気付くと、水野国彦は銛を使って攻撃をしてきます。」
「なんっでやねん!!ああそうか島民全員グルか物理説得いくで!」
「じゃあ、水野との戦闘方面で?」
「・・・引っ掛かる言い方やな。ちょぉ待て?雨宮忍び歩き取ったな?船に忍び込んで救命ボート盗ってくるんは可能か?」
「振ってみる。35。失敗だ。」
「月ちゃん応戦頼む!」
「えっと、こぶしでいいのかな?16!成功!」
「吉本忍び歩き54で成功。戦闘回避や。」
「わーぁお。このひとら敵に回したくねー。」
「水野の船は出航しましたが、島から1km程度離れたところで、船は急停止します。突起物が船を取り込もうとしているのです。突起物は均等に放射状に伸びてるように見えるのに、この船を捕まえようとしている突起物だけは長く伸びています。そこから、突起物は船を捕らえようという明確な意志を感じます。何でしたら聞き耳どうぞ?」
「聞き耳か・・・44。吉本失敗や。」
「あ、23で雨宮成功。」
「じゃー、雨宮さんの耳には、オヤジ、という単語が耳に入りました。」
「成程?島民の中身はそのバケモンの子種か。」
「とっとと出航すんぞ。こっちも。」
「そっすね、そうしないとそろそろ幸運ロールのお時間ですし。」
「うぎゃあ!」
「はいはいボート広げて海に運ぶ間にどーぞ。」
「ううう45!月人成功したぁ!」
「13で雨宮成功な。」
「31で吉本も成功や。」
「じゃあ、触手は水野をちゅるりん☆ってやったところで戻っていきます。ちぇー。」
「ちぇーじゃない!!あ!月人は一応『ハマ婆さんも気になります!』。」
「一応尋ねるくらいの時間はありますが?」
「ちっ。イイコちゃんが。また幸運ロールさせられてーか。」
「それはやだ!『早く出航しましょう早く!迅速に!!』。」
「我が身可愛さの怖さよ・・・。」
「脱出するとき、海に面した高台にある小屋が見えます。やがて巨大な突起が小屋の近くに降ります。突起が放つ燐光が、小屋をシルエットに照らすと、そこにハマ婆の姿が見えます。彼女は突起物に照らされながら、まるで探索者を見送るように踊っています。その踊りは、この島に来るときに船長に見せてもらった踊りによく似ている気がしますが、その直後、ハマ婆は突起物にあっけなくちゅるりんされてしまいます。」
「あああハマ婆さんちゅるりんされちゃった・・・。」
「つかあの踊り伏線だったのか。」
「せやね、『船長さんが踊ってはったんとよう似とる。あのひとはやっぱり高山イチやったんやなぁ・・・。』てとこか。」
「島にそそり立つ柳の大樹のような柱が、ゆっくりと沈んでいくのを皆さんは海にぷかぷかしながら目の当たりにします。無数の突起物が地表に降り立ち、島を覆い尽くすように柱は低くなっていきます。島全体が淡い燐光を放つ何かに覆い尽くされると、今度は徐々に島の内陸部に光が退いていきます。島にあるものをすべて飲み込んでいってますね。最後に、これまでで最大級の局地的地震が島を襲います。そいつは地下世界へ還ろうとしているんすね。涸れ井戸のあった場所を中心に、島の三分の一が大陥没を起こし、海面下に沈みます。」
「うわ・・・。」
「島消えた・・・。」
「朝になると、喜多島は地表のすべてを削り取られ、黒っぽい火山岩の地表をあらわにします。そこには、あの美しかった島の面影はまったく残されていません。」
「『夜が明けたか・・・。』。」
「『枕崎までこのまま漕げます?』。」
「『まあ、流されとってもどうにかなるわ。どっかに漂着でもするやろ。何やったら貴多島に戻ってもええし。』で、これで冒険はお終いか?」
「なんか順調に助かっちゃった面白くねーっすね。」
「シバキ倒すで?」
「はいはい、シナリオはエピローグですよ。翌朝、海を漂流する探索者は、島を襲った局地的地震の調査にやってきた政府や民間の船によって救出されます。喜多島の崩壊は、火山が原因のひとつであろうと推測されるだけで、その真相についてはうやむやとなりました。また、喜多島のいなくなった住人についても、戸籍と適合しない人間がいたなどと噂されるものの、結局、騒ぎ立てる親族がいなかったため、そのまま忘れ去られてしまいましたとさ。」
「横井は?あいつは身元はっきりしとったやろ?多分吉本は警察に届けるで?」
「ああはい、横井治については結局行方不明となりました。」
「まあ、島自体が壊れたからな。死体があっても埋まるかどうにかしてやがる。白江もだな。」
これでめでたしめでたしおしまいおしまい、と高尾はティーカップを取って笑った。
「そんじゃ一応セッションボーナスいっときますねー。島から無事に脱出した探索者は1d+10の正気度ポイントを獲得します。」
「ん、吉本13ゲット。」
「月人は14です。」
「おめー、メンタルつええな。16か、悪くない数字だな。」
「また、松坂理恵子の言葉に言葉対抗したのは誰ですっけ?」
「俺の記憶が正しければ吉本と月人なのだよ。」「ほんじゃ、追加で1d+6正気度ポイントを獲得っす。」
「ん、9やな。」
「えっと、あ、9だ・・・。」
「女神のお茶目〜☆」
「これでセッションは終えるのだよ。」
「お疲れさんでした〜。お付き合いどうもでっす☆」
「もう☆にツッコむ気力もないわ・・・。」
「結構早いクリアだと思いますよ。」
「どんくらいかかるの?普通。」
そっすねぇ、と高尾は顎を摘まむ。
「俺のシナリオの進め方っていつもは結構遊ぶんすけど、今回はいまよっさんと花宮さんのメタのせいでかなり短縮しちまいました。」
いつもは真ちゃんの出番ももっとあるんすよ、なんて。ころりと羊羹の中の栗を抜き取り、行儀悪い、と指摘されつつ。
「もっと脇道に逸れるもんなんすよ、普通は。準備もアレですしね。」
「まあその辺の設定はそのまま持って行っちまったしな。」
珈琲を啜りながら花宮は賽子を玩ぶ。
「だっていらねぇ情報はいらねぇし。もうちょい島内観光してもいいかとは思ったが。」
「もう白江の行方不明事件で思考がそっちいっとったからな。無駄なことしとる暇は無かった。」
「そうそう、もうね、事件の話聞かなかったら普通に観光して横井が死ななかったら普通に帰りましたよね。」
「まあ、二日目に横井が死ぬシナリオではあるんで。」
でももうちょい導入で遊んでもよかったかなーでも助手有能すぎたなぁ、と次に用意するならあのシナリオだよなぁ、と高尾はひとりで反省会をやっている。
「あとさ、もうちょい誰か理恵子に引っかかってもいいじゃないすか。」
「せやってワシ月ちゃん一途やしー。」
「だな。こいつらに色仕掛けはねーわ。」
「まこっちゃんは?」
「少し興味はあったが、初日夜の愛香を見てやべぇと思ったからな。」
「あー、あれはやばいね、悪い意味で。」
「あれ放置してる女とかまじねーわ。」
珈琲お代わり、との声で伊月は立ち上がる。高尾と緑間と自分のカップにも新しく紅茶を入れる。
「まあ、暇は潰せたから礼は言うわ。ほな。」
「はいはいこちらこそ、それではKPは俺、高尾和成とー?」
「サブKPおよびNPC、緑間真太郎。」
「で、お送りしました!お楽しみ頂ければ幸いなのだよー☆」
「ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末様―。今度練習試合組むかも。合宿先また被るでしょ、多分。」
「でしょね。そんじゃ、また遊びにきまーす。」
「くんな!」
それでは、と夕焼け色に染まる玄関の扉を緑間が開け、さっみ、と高尾が肩を竦ませた。伊月の見送りの声に事務所扉を出た階段を五段、彼らは下る。このまま路面電車に乗っていつもの家に帰ると今日は終わりだ。明日からは休暇中の学校に、また部活がある。
「高尾クンと緑間の長男やん。」
「あり、天野さんじゃねっすか。いまよっさんに用事ですか?」
「んー。ほんなとこかな?伊月か花宮おった?」
「両方揃ってましたよ?」
んー、とその人物は少々悩んだ様子だが。
「なんや、おもろい事でもあった?」
「ああ、ちょっとダイスの女神とお茶目な遊びを。」
「TRPG?シナリオは?」
「『まれびとの島』っすよ。天野さんも今度ご一緒に?」
「あはは。自分、推理系TRPGはメタが過ぎるゆうて昔に止められてん。人狼も初日に吊られるんが常やしな。理由も何考えとるかわからん、ってな寸法や。」
「ああ、俺も天野さんが狼でも狂人でもなんでも初日に吊っちゃいますわ。」
「俺もなのだよ。」
けらけらと笑い合ったのは夕焼けの中の路面電車の停留所である。結局探偵事務所行きより高尾と緑間との談話を選んだそれは、また下りの路面電車に二人と一緒に乗り込んだ。
「で?三人はどんなシナリオで島から逃げ出したん?」
猫のような眼が一瞬、獰猛に蠢いたのに、二人は気付かなかった。そうですねー、なんて長閑に笑いながら、路面電車に乗り込んで、帝都の一等地から去って行った。


今吉探偵事務所、本日も平穏に運営しております。
出来れば暇潰し程度の気軽な御依頼辺りで是非どうぞ。

***

これにておしまい!!ほぼ座談形式「www」とか出てくる。楽しんで頂ければ幸いです。お付き合い本当にありがとうございました!!ちょっと物足りなさはあるかもしれませんが、これにてクトゥルフTRPGはおしまいです。SANチェックは勉強が甘かったですね。精進します。ってもう多分やんないけどwwwシナリオはひきだしの中身さんの「まれびとの島」をお借りしました!!@→novel/1837640

2013年01月03日 19:55初出。

最期の天野の登場で読者さまからの阿鼻叫喚頂きましたw

20130118masai