松/本/洋/子先生の「見/知/ら/ぬ/街」のパロディです。



















  初夏の風はもうすぐ雨を連れてくるだろう。梅雨入りは明日か明後日か、とニュースは告げるが、その日はとても晴れていた。
しっとりとした空気は梅雨前線が近づく証拠だが、黒子はそんな街中を、合宿に待つ皆の元にほてほてと歩み、集合時間を携帯電話の背面ディスプレイで確かめながら、横断歩道の信号を見た。ちかちかと、横断歩道の合図に、少しだけ早足になった瞬間、エンジン音に気付いた。彼自身の影の薄さと急いた運転手が招いたのだろう、危うく撥ねられるところで、というかぶっちゃけリュックを持って行かれそうになって、歩道に顔から突っ込んだ。強かぶつけた鼻は、内部は無事だが皮膚を削られた。
「こ、こわかった・・・!」
今更血の気が引く音を聞きながら立ち上がり、ぽすぽすと土やら埃やら叩き落として、飛んで行ってしまっていた携帯電話を回収。げ、と目を瞠ると、駆け出した。
集合場所では既に、赤司を始め、キセキの世代と呼ばれる五人が集合しており、他の部員は出発してしまっていたらしい。
「遅いっすよー黒子っちー!」
「すいません、途中で事故に遭いかけました。」
「は!?大丈夫かよ、テツ!」
「後で桃井さんに視て頂きますけど、歩いたり走ったりに問題は無いですね。」
「怪我をされては困るのだよ。チームの迷惑なのだよ。」
ちゃきり、と眼鏡のブリッジを押し上げ、言う緑間を。
「相変わらず、みどちんツンデレー。」
なんて、こちらもまいう棒をさくさくとやりながら紫原が称せば、赤司が手を叩き合わせる。
「さ、こっちも六人揃ったことだし、行くよ。」
と、明らかに三軍二軍レギュラー以外の一軍を送迎するバスとは違う、天井に窓まで着いたワゴン車を指差した。ここまでの贔屓ってどうよーと言って見たければ言えばいい。漏れなく外周百倍だ。
「来年の今頃はもう引退なのだな。」
「あ、よっちゃんあたり出た。」
「喉乾いた。」
「合宿中のラッキーアイテムはどうするんすか。」
「引退なんて今から考えても無意味だ。合宿所から五分程で駄菓子屋がある。そこのサービスエリアで一旦休憩。おは朝が見れる時間があると思うな。」
いつもと変わらない面子でいつもと変わらない会話。黒子はETCからこちら、変わりゆく窓の外がちょっとだけ楽しい。高速道路という場所は、田舎の山の中に設備される事が多いので、時折古い民家なども見える。一度高速を降りて、また暫く走る。
「運転手さん、前!」
ねみぃ、と本能に従おうとする青峰さえ、がばと身を起こす、そんな鋭い声が黒子の口から発された。直後に聴覚はブレーキ音に支配され、シートベルトが体に食い込み、激しい揺れに目を回しそうになる。ぎゅっと目を瞑った中、何かが潰れる音がした。

トワノマチ。















「黒子!」
呼ばれて目が覚めた。殆ど気絶するような感覚で眠っていたらしい。ゆっくりと持ち上がる瞼に、緑間は安心したように息を吐いた。
「緑間、くん。ほかの、みんな・・・。」
「全員無事なのだよ。お前が心配する必要は無い。」
そうですか、と突き放すような物言いのくせに心底心配そうな緑間に、大丈夫です、と黒子は重ねた。
「かすり傷ひとつねーとか、ラッキーだな、俺ら。」
「車から出よう。ガソリンに引火して爆発でもすればそのラッキーが台無しだ。」
ふは、と乾いた笑いを漏らす青峰と、何処までも冷静な赤司の提案で、凹み歪んだスライドドアは、半ば蹴り破られるように開けられて、六人はアスファルトに降り立った。
「あ、れ?」
最初に首を傾げたのは黄瀬だった。彼は人の気配や感情に機敏だ。
「こんな派手に事故ったら、野次馬とか来るんじゃねーっすか?」
「ヒトどころか車の一台もない。」
赤司が述べた一言で、ふと青峰が携帯電話を取り出した。
「げ、ディスプレイ壊れた。」
「壊れた?」
黒子が怪訝に近付くと、ほれ、と携帯電話を見せてくれる。ディスプレイは真っ暗だ。自分のは、と取り出せば、こちらも真っ暗。どころか、ひび割れ、部品が幾つか足元にぱらぱらと砕けてしまった。
「事故で、ですか。」
「充電はしてたんすよ?」
「んむー。折角バーコードでビンゴ狙ってたのにー。まいう棒一年分ー。」
「まあまあ、紫原くん。」
「俺のも、か。」
事故のショックで、というのも出来すぎだが、誰も彼も携帯電話が通じる状況でなく、非常電話や公衆電話の使い方も、若さゆえに知らなかった。
「運転手さん、は?」
「あれ、そういや・・・。」
「人でも呼びに行ってくれてんじゃないっすか?」
はあ、と一通り周囲を眺め回して、呆れとも諦めともつかない息を吐き、さてとガードレールに腰掛けようとして、止めた。
「この街、おかしくないですか。」
しん、と響いた声音の後の沈黙が耳に痛いくらいに聞こえる。ガードレールに腰掛けようとして止めた理由はここにある。ガードレールが無いのだ。
ついでに言えば、歩道と車道を仕切るラインも中央ラインも、さらに言えば横断歩道も信号機も電柱も、ビルの会社名を示す看板すら無い。
「だれかーいないのー?」
紫原が珍しく声を張る。お菓子入れて持ち運べば、と黒子が作ってやった巾着がぺったんこなのが主な理由と思われる。
「気味が悪ぃ・・・。」
本能で生きる青峰が、ぽつりと零す。黄瀬は二の腕をさすっており、赤司は何をか考える風情だが、そのうつくしいオッドアイは落ち着きなく周囲を見渡している。
「とりあえず、ここから動こう。何処かに誰かいるかもしれない。」
その声が合図になった。
元々マイペースが服を来て歩いているような連中だ。アルマケドンが起こっただとか皆どっかに避難したとか根も葉もない話をしながら中途半端に完成された街を行く。
「人が居ない理由は、結構な確率で色々当て嵌まるんだけど、ここは何処だ?」
「車ん乗ってたのが、一時間くらいだろ?F市の辺りじゃね?」
「F市ならおばーちゃんの実家あるけどー。こんな場所じゃないよー。」
「映画のセット・・・みたいですよね、中途半端ですけど。」
騒ぎはしないが喋っていないと落ち着かないのは沈黙が怖いからだ。この街は酷く静かで、鼓膜が剥がれそうな感覚に陥る。
「いつまで・・・こうして歩くんすかね。」
「やめろ、黄瀬。」
「誰かがいるかもしれない。何処か分かるかもしれない。だから歩いている。これ位でへばったとかいうなよ、涼太。」
「だって・・・!」
「煩いのだよ、黄瀬。泣くなら俺の視界に入らない場所にしてくれ。」
「真太郎も煩い。」
黒子は眉を寄せて俯く。唇を噛み締めて、考える。運転手の行方も分からない、この奇妙な街で。皆の神経もギリギリだ。試合では脅威のメンタルを誇る彼等にらしくない苛立ち。それでも黒子だって気を抜けば叫び出しそうだ。
「ゆめーだよー。」
ぽやん、と声がこころをノックする。聞き慣れた声の持ち主は、何処から出したかチュッパチャップスをころころとやりながら、うん、ゆめ、ともう一度、今度は言い聞かせるように言う。
「たぶんねー車ん中で今頃は魘されてると思うよー?きっとそのうち誰かが起こしてくれるってー。」
ほえほえと語りながら、にっこり笑う紫原に、さしもの赤司も目を丸くした。リアクションを起こしたのは青峰。ぶはっ、とひとつ噴き出して。
「誰の夢だよ!こんな不完全で間抜けな街作るとか!」
「黒ちんじゃないのー?なんだっけー?読んだら狂っちゃう本ー。」
「ああ、ドグラ・マグラですか。」
「なんすかそれ黒子っちー!」
「中学生の読み物じゃ無いよ、テツヤ?」
「つか早く起きろよテツ!」
「いや、いいところで中断してまして、時間が出来たら読もうかと、下巻は持って来てます。」
「いやあああ黒子っちいいいいい!!!」
「じゃ、これはテツヤの夢かな。責任とって、皆の国語の課題は手伝うことー。」
「理不尽です。」
切っ掛けは紫原のいつも通りぽややんとした言葉だったが、その一言からすっかり調子を取り戻して笑い合う彼等は、いつも通りだ。夏休みの課題の話をして、教師に対する不満や、体育館の風通し、そんなどうしようもない会話で場を繋ぎながら人影を探す。
「うびゃ!」
そんな彼等を遮った存在が、黄瀬の顔にばすりと襲った古新聞だった。
「そういえば、ゴミは一切無かったのだよ、この街。」
珍しい、と黄瀬の顔から緑間はそれを剥がしてやって、眼鏡の奥で瞠目した。
「何の、冗談なのだよ・・・。」
「真太郎?」
「緑間?」
「緑間君?」
それぞれが呼ぶ中、緑間は一言。
「見るのだよ。」
震える声音でそう、古新聞をチームメイトに見せた。ひゅ、と息を呑んだのは誰であろう。見出しには大きく、ワゴン車衝突、と中学生死亡、と書かれてあった。
「午前、十時ごろ・・・F市・・・トラックとワゴンが、衝突?・・・同乗の中学生五人が頭の骨を折る、など、して・・・即死!?・・・う、んてんしゅは・・・肩に軽い怪我を・・・っ・・・遺体の身元確認を急いで・・・え、なんですか、これ。」
「わ、悪い冗談っすよ・・・!」
「じゃあ誰かのドッキリだとでも言うのかい?」
くつり、喉の奥で笑ったのは青峰だ。
「残念だなぁ、紫原。これは夢じゃない。俺たちはあの事故でしんだってさ!見てみろ!街だけじゃない!自分達もだ!車はぐしゃぐしゃ!なのに俺たちにはかすり傷ひとつもねぇ!」
ははっ、と両手を広げて見せる青峰の肩を、がしりと赤司が掴む。
「阿呆だ阿呆だと思っていたけどこれ程とはね、アホミネ。数えて見ろ。いくらテツヤの影が薄いと言っても、し体になればきっと違うだろう。僕達は六人いる。それを忘れるな。」
喉仏に刃物でも突き付けられたような、呼吸を誤れば皮膚は裂かれるであろう、そんな怜悧な声音に、青峰の収縮を繰り返していた瞳孔を落ち着ける。
「んー、前言撤回?ここは生としの狭間の世界ってこと?赤ちん。」
「多分ね。」
口の中でころころと飴玉を弄びながら、紫原のペースは崩れる様子を見せない。
「誰が、しぬ。」
青峰の呟きに、そうか、と黄瀬は気付いた。ここには六人いる。五人は車の中で結局しぬ。ということは、他の五人を出し抜けば生きる事ができる。しなないでいい!
「助かるのは、この中途半端な街から出られた者だけ、という事だけですか。似たような話を読んだことがあります。」
「テツヤの読書遍歴が時々怖い件。」
赤司の若干引き攣った声音に紫原が頷き、そんな本どこで見つけんだ、と青峰は相棒の本の虫っぷりを舐めていた事を知る。緑間は時折読書の時間を共にするので何とも言い難い。
「実験で、迷路に入れられたネズミですよ。アルジャーノンに花束を、とでも言いましょうか。この中途半端な街に放り込まれた僕等を・・・。」
「見ているのが、しにがみ。」
「黄瀬、君?」
無機質な声音に五人は黄瀬に向き直る。
にこり。その笑顔は雑誌でよく見かける笑顔だ。作り上げた、貼り付けた、とてもとても美しい笑顔。
「涼太!」
その変貌に逸早く気付いたのは赤司だ。
「それじゃあ、皆、頑張ってーっすよ。」
そのまま、彼は走り去った。青峰の脚力ならきっと追い付けただろう、紫原の腕なら捕まえる事が出来ただろう。そんな隙も与えず、黄瀬は走り出した。
「黄瀬君!!」
黒子が叫んだのを合図のように、そのまま角を曲がって見えなくなった。
「涼太・・・。」
「どう、しましょうか。」
「出口が見つかれば、生き返れる、とは思う。」
「赤司にしては曖昧なのだよ。」
緑間の声にむっつりと赤司は黙り、ただ、黄瀬が走り去った方向を見ている。どしゃ、と背後で聞き慣れない、聞いた事のない音がした。強いて喩えるならば、大きな土嚢が落ちた音だ。
「きせ、くん。」
その美貌は見えない。頭から落ちたヒトのカラダは、頭の重さで貌が潰れてしまう。脱色されたにも関わらず、さらさらと、きらきらと輝いていた金髪は半分以上血に塗れ、ぺたりと黒子の手のひらを汚した。
「黒子!」
突然降り掛かった仲間の、友人の無惨な格好に無防備に近づき手を述べようとしたのは緑間が抱き抱えるようにしてやめさせた。
「ともかく、出口を探そう。敦、テツヤと行け。」
「んー。りょうかいー。」
あ、と黒子が発する。あかしくん、と。
「テツ、妙な事は考えるな。出口を探せ。」
「僕はこっちへ行く。敦とテツヤはあっち。大輝と真太郎はそっちだ。何か見つけたら大声で呼べ。届かなければそこで終了だ。生き返れ。」
「赤司・・・。」
「あ、かし、くん!」
「異論は認めないよ、テツヤ。」
そのまま赤司は歩き出し、右手をひらりと振って、そのままだった。
「黒ちん、行くよ。」
スポーツバックからタオルを取り出し、黒子の両手を大きな手で包み、拭ってそのまま紫原は歩き出す。
「む、むら、さきばらく・・・!」
「しにんに口無しだよ、黒ちん。黄瀬ちんがどうやってああなったのか、俺は知らないし、黄瀬ちんが嫌がってるのにああしたヤツがいるなら捻り潰したい。黒ちんは違う?」
紫原の歩調で随分と寒い、仲間達から離れた場所に来てしまった。
「紫原君・・・。」
「俺ね。」
ふにゃりと紫原は苦笑の様相で笑う。
「難産でね、窒息でしにそうになって産まれたんだって。小学校もずっとカラダだけはでかくてさ、コワイーって仲間にいれてもらえなかったの。だからね、バスケは嫌いだけどね、赤ちんや黒ちんに声かけて貰えてね、すっごく嬉しかった。赤ちんはあれで結構お茶目な所あるし、峰ちんはあほ峰だし、みどちんはおは朝信者だし、黒ちんは一緒にお菓子食べて遊んでくれるじゃん。黄瀬ちんもお間抜けさんだけど、・・・おもしろくって、好きだった。」
「僕、も。」
ぼくもです、と車道を歩きながら、黒子は泣いた。相変わらず大声を上げることもなく、ほろほろと静かに涙を落として、擦ったら赤くなるよ、と珍しい紫原からの忠告に、うん、と頷いて、そのまま枯れるのも待つかに涙を落としながら歩いた。
ひらり、と紙が飛んできたのはその頃だ。紫原の長い腕がひょいと捕まえて、眉を跳ね上げた。
「黒ちん、衝突事故の記事、変わった。」
どこか茫然とした声音に黒子は見上げ、衝突事故の記事のところに丸く何か、絵のような、写真のような、何か。
「見せて下さい、紫原君!!」
だってこんなのまるで!
顔写真は学生証の物だろう、亡くなった赤司征十郎(13)、黄瀬涼太(14)、と並んでいた。遺影のようなそれに、ぐっと吐き気を堪え、紫原が奪い、破り千切り捨てるのを別世界の物のように見た。
「赤司、君・・・。」
ぼんやりと呟いて、もう会えないのか、と思った。
「黒ちん。」
呼ばれて見上げると、そこは三叉路だった。
「分かれる?」
「い、いや、です!僕は一人だけでなんて御免です!出るなら・・・っ!」
出るなら皆で一緒に出たかった。しかし叶わなかった。生きるなら皆で生きて、合宿所へ行ってバスケがしたかった。
「出るなら、紫原君も一緒です!」
怒鳴るように言い切ると、そうだね、と紫原は笑った。
「まいう棒、一緒に選んで。ね。一緒に出よう。」
手のひらを向けると、意図を汲んでくれたらしい紫原は手を繋いでくれた。何があっても、それこそ千切れても離されないように、強く強く。
テツヤ
「え。」
「なーにー?」
今。
「今、お母さんの声がしました!」
「黒ちんを呼んでた?」
「はい。」
「どっち?」
紫原の判断は速かった。黒子が首を巡らせた方向に、その長い脚で走り出す。
それは唐突に訪れた。街がそこで、それこそ大鎌で刈り取られたようにさっくりとアスファルト舗装もビルもそこで無くなっているのだ。
「黒ちん、行って。」
「紫原君も一緒です!」
無造作に伸ばされた、色素の薄い髪が紫色に乱反射して揺れる。
「俺を呼ぶ声は聞こえなかったもん。つまり、そゆこと・・・。」
「何やってんだ!」
紫原の声を遮って、聞こえたのは青峰の怒声だ。緑間は遠くから自分のペースを守って歩いてくる。
「テツ、早く行け!!」
こっちなんだろう、と途切れた街の向こうに腕を延べた青峰の色素の濃い膚が、破れた。それは悲鳴。痛みから、腕が破裂する情景を見た本人の、相棒の器用にボールを操る腕が目の前に血飛沫を上げて無くなって行く光景の、悲痛さ、悲惨さ。
「あおみねくん!!」
「よばれて、ん、だろォ!?」
三つの手が、よく頭をかき回してくる慣れた手が、テーピングされた指を持つ手が、大きく優しい手が、優しく黒子の背を押した。
「・・・ごめん、なさい・・・。」
「テツヤ!気がついたのね!!」
目の前にいたのは、目の下を睡眠不足で真っ黒にした母親だった。
「おか、ぁさ・・・?みんな、は?」
「あなたが、助かっただけでも奇跡なの・・・!」
ああやっぱり、と黒子は真っ白な天井を見た。自分はもっと何か、何かをひとのために、仲間のために、出来る人間だと思っていた。紫原は、あんな風に仲間を、友人を語ってくれたけど、自分だって、バスケに誘ってくれた青峰への感謝を終えていないし、技術を教えてくれた赤司への礼も未だだった。緑間の解りにくいツンデレや、一緒にお菓子を食べた紫原。全部全部、大事だった。
葬儀はもう終えただろうか。出来れば桃井と一緒に行きたかった。
「皆に、会いに行く?」
「みんなに、あわせて、ください。」
黙って涙だけ隠さない息子に、母親はそう問いかける。ああ、葬儀は間に合った、と黒子は歪みそうになる口元を噛み締める。
車椅子に乗せられて、エレベータの中は耳が痛くなるほど静かだった。
看護師と母親が頷くだけの合図を交わして、ここからは歩いていけますか、と問われてしっかり頷く。打撲が酷かったが今ならきちんと歩ける。
霊安室、と書かれたプレートの下がる部屋は冷気がするすると逃げてくる。手を掛けたその伏せた睫毛がぱきりと凍る。扉を開けて、目を開けたそこに広がったのは、無惨なしたいが白い布に包まれる部屋ではなく、中途半端に完成した、不完全な街だった。
「黒子っち!」
「テツヤ。」
「テツ!」
「黒子。」
「黒ちんー!」
赤司は読んでいた新聞から顔を上げて、それはそれは随分と楽しそうな笑顔だ。
「はい。」
そして一枚の紙面を見せる。隣には、五人がしんだワゴンとトラックの衝突事故がのっており、示されたそこには、中学生死亡、と見出しを作られた、黒子テツヤ(13)がしんだらしい交通事故の記事があった。
「はい。僕はもうあの時、しんじゃってたんです。」
心臓が止まってしまった悲しみはそもに無く、ただ、仲間と、友人と、再び逢いまみえた幸福からの笑顔しか見られなかった。
















***

私はキセキの絆を信じている!!
2012年06月08日 14:38

20120825masai