旬夏周到。




 

「あっついわばかずなり!」

「俊さんひどい!!」

みしっ、と頭蓋骨が軋む音がして、高尾はその細い背に引っ付くのをやっと止めた。伊月の部屋にはエアコンは無い。畳の上にくるくると扇風機が回っているだけで、ぼたぼたと汗を掻いたグラスが氷を既に溶かして麦茶はからりとも泣かない。

月バスを読んでいる背中にぺたっと貼りついて肩に顎を乗せて、このプレイは、あの試合は、とチームの司令塔故か、随分と白熱した議論は、無駄に熱くなった。

しかし最中にやはり、あついから離れろ、とは訴えられて来た訳で、腕を腹に回してぺたぺたと着痩せする体を触っていれば、ついに頭をバスケットマンの本気の握力で握られた訳だ。

「あーうー。俊さんのいけずー。痛いー。暴力妻―。」

「誰が妻だ誰が。はい、和成ここ。」

木目の綺麗なテーブルに雑誌を広げて、並んで覗き込む。一度体温を落ち着かせようと期待で含んだ麦茶は既に常温だった。グラスが空になったのを見計らって、伊月は高尾が持つそれを取り上げ、自分のグラスも持って部屋を出た。バックナンバーそこな、と言外に寛いでろと、そのまま自室を出て行った。

インターハイ本選の近い猛暑日に、何をするでもなく。

エアコンないのが敗因かしら、なんて高尾はその広い視野に部屋の全景を見て、おや、と瞬いた。押入れが少し開いていた。

「・・・布団、だよな。」

和室にローテーブルに今は高尾が借りた座椅子と勉強机。壁には制服のシャツが掛かってあって、スラックスも同じく吊ってある。秋が来るまで学ランは押入れの中だと聞いてはある。隙間に指を指し入れ、すっとずらすとゴムと埃のと伊月の匂いがした。

「バスケットボールにバッシュにユニって・・・。」

俺のクロゼットとかわんねぇなぁ、なんて笑っていれば、おいそこの助兵衛、なんて後頭部にこつりとグラスの底が当たった。

「他人の押し入れ勝手に覗くな。」

「えー?俊さんの秘密は全部知りたい高尾ちゃんでーす。」

「うっざ。」

「ひっど。」

気を許した相手には口の悪い伊月の罵倒を聞けるのは、ある種の特権のような気分で高尾は脂下がった顔を隠そうとせず。麦茶を受け取る。くちびるに転がってくる氷が少し頭に沁みる。

「なんか無いですかー?日向さんも知らない俊さんの秘密。」

「それはこっちこそ。緑間も知らない和成の秘密。教えろよ。」

「そうですねー例えば初恋とかー。」

「聞けよばかずなり。あ、聞けよ危険よキタコレ。」

「つまんねー!」

それでも高尾はけらけらと笑い転げて、押入れから拝借したボールを指先に回す。

「最後のおねしょは小学校一年でした!とか?」

「まじで?」

「どう思います?」

「知らんわ。お前の存在全部が冗談みたいなもんだろ。おお、冗談の情だんキタコレ。」

ひゃはは、と息を吸いながら笑うと言う器用な芸当を見せつつ、そうっすねぇ、と。

「小4。」

「はい?」

ぽつ、と雑誌を覗き込む伊月が発した一言に彼を見れば、耳元がほんのりと紅い。

「しょうよん・・・?」

「教えろつったじゃん。」

手で額を覆って、うー、と少しだけ呻いたようだが、麦茶を煽った耳元が更に赤い。

「・・・初恋?」

伊月は何も言わずにテーブルに突っ伏し、そーですかぁ、と話を振った高尾のほうも、伝播するように真っ赤に赤面し、麦茶を含む。

「あついわばかずなり。」

「・・・俊さんひどい。」




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初出:2013年7月10日 16:27

みったんさん、サムちゃん、鳥目企画ありがとうございます!!SSでもちろっと参加させて頂きます。

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鳥目ちゃんはいつもは可愛くて楽しいです。

20141231masai