サムライブルー。
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「笠松さん、マグ持ち込んでいいです?」 大学の準備が整って、初めて伊月を招いた1DKのアパートは東京の片隅にある。近所にコンビニがあれば駅までは徒歩20分だが大学でもバスケを続けるならそれくらい毎朝走ればいいだろう、と選んだ場所だった。 「マグ、ってコップ?」 「です。」 笠松としても、訪ねてきた伊月相手に紙コップでペットボトルのスポーツ飲料は無いよなぁ、なんて考えていたところで。 「まあ、いいんじゃね?お前用に。」 「ありがとうございます。」 深々と頭を下げた伊月は、フローリングに三角座りで折畳のベッドが畳まれたそこにちょこんと座り込んで、誠凛の特集が組まれた月バスが乗っかっているローテーブルから目を背けた。 「・・・笠松さん、この号好きですよね・・・。」 「俺らの結果も載ってっし?」 「ひゅーがが半泣きでしたよ。インタビューの時はクラッチ入ってましたけど、普段ヘタレなんで。」 「お前は特に裏表ねーよな。」 「そうですか?」 裏表なんて無さそうな、生真面目そうな態度に笠松は自分の後輩やら同輩やらを顧みずにはいられない。 「裏表がないのは笠松さんのほうでしょう?」 「あ?」 「試合中も勉強中も、私生活だって男らしくてでもどこか生真面目。」 「そうかぁ?」 「PGなんて連中は、誰でも腹に一物あるでしょ。」 桐皇の今吉さん然り、なんて伊月は随分と楽しそうに笑う。 「笠松さんは、その裏表が割と綺麗に融合してるっていうか。」 「あー、解らんでもない。」 割と大雑把に物事は進める性質だが隅の埃は見過ごせない。素直に豪快に笑う事もあれば、何かを企んだかのようにも口の端を吊り上げる。 「ねえ、笠松さん。」 「何だ?」 「俺が、あなたと同い年だったとすれば。」 「タラレバは好きじゃないぞ。」 「知ってますよ。だからこそ。もしも俺と笠松さんが同い年であるなら、まず、笠松さんって呼びません。」 そりゃそうだ、と笠松はなんだかんだと愛着のある伝統のサムライブルーのマグからインスタントのコーヒーを飲む。注いで何時間経ったのか、既に冷え切って苦い味しかしなかった。 「セーブしてる駄洒落だって殴られるまで言い続けるんでしょうね、俺。」 「おいおい。」 「解ります?」 「何がだよ。」 「笠松さんのそういう素直なところ、俺好きです。」 「お前は臆面も無くす、き、とか言うなっ!」 「素面じゃ告白できない笠松さんが好きです。」 「シバくぞ。」 窓際にすっかりと突っ立ってむっつりと黙り込んだ笠松に、伊月はまた大層に楽しそうだ。桜の花が綻ぶ様子にその笑顔は似ている。あまく馨ったかと思えば知らない内に消えてしまうんだろう。 「笠松幸男は、伊月俊の事を、どこまでご存知です?」 もしも数ヶ月の時間差が無かったことになれば。 もしも同じチームであったなら。 もしも。 もしも。 「ちょっと待て。」 「それじゃあ、そろそろ失礼しますね。」 そういえば森山と小堀と生活環境が整った大学進学祝いの打ち上げでも、と笠松のアパートで一晩騒ぐ約束の時間はそろそろだ。 もうそんな時間だったか、と笠松は腕時計を確かめる。 「ねえ、笠松さん。」 「どうした。」 「マグカップ、持って来て良いんですよね?」 「ああ、インスタントしかねーけど。」 ええ、とそのまま伊月は春の夕闇に姿を消す。数日後に伊月が持ってきたマグカップは、笠松のそれとそっくりな、爽やかな海の国の青。 「どっちがどっちのだよ・・・。」 マグにコーヒーを注いでやって、どうでもいい話を上げ連ね、伊月が帰宅したとある夕方に、笠松は流し台の前で項垂れることになる。そして、はたとあの日の問答が蘇る。 「ああ、お前も適度に腹に一物、ってか。」 次にこのマグカップを出してやる時は、わざと間違えて出し与えて反応を楽しんでやろう。笠松はそう、何とも下らない決意をする。 |
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初出:2013年4月4日 16:38
笠松さんを初めて見たとき、なんっじゃこのかわええ子おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!と思いましたと白状しておきます。4月5日ですので。
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キャプテン月フライング作品。
20141231masai