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伊月は温泉宿で起こった事件に関しての報告書を纏め、それを鞄に、いつも通り、水色のラインが入った学生服にインバネスコート姿で今吉探偵事務所を訪れた。
今吉探偵、風邪をひく。 火傷を新しい皮膚が覆いつつ、幸いながらも大きな傷は残らなさそうだ、との言葉を医師に貰い、地味に作成していた報告書と共に、退院の挨拶も込みで訪れた帝都の一等地のとある部屋は、酷く静かだった。 「あれ、花宮。翔一さんは?」 「おあ?伊月・・・退院おめっとさん。」 「はいはいありがとー。今回の報告書。他にすることある?」 「古橋旅館から詫び状と感謝状が来てる。」 「まーじで。気にしなくていいのに。」 「あっちも客商売だからな。」 とっとと返事書け送っといてやるから、と新聞を興味なさげに捲って行く動作は伊月が背を向けると、その背中に負った傷によって不自由していないか、と探るようで、少しだけ微笑ましい。 「花宮、俺にイーグルアイがあるの、忘れてない?」 「簡単に背後取られるような奴の視野なんて高が知れてる。」 「気ぃ抜いてただけだもん。で、書類に不備は?」 「こっちの穴埋めしとけ。」 差し出された書類は古橋旅館で起こった事件の、警察からの調書だ。二つの事件と一つの事故と古橋家の関連性について、カリカリと万年筆を走らせた。 「はい、終わり。」 「ん、お疲れ。」 「え、終わり?」 「お疲れ。」 「え?え?」 「だから!妖怪いねーから、終わり!」 妖怪呼びは兎も角として、思わずぽかんっと目を点にした伊月に、だーかーら、と花宮は重ねた。 「あの妖怪、風邪ひいてダウンしちまったんだよ!どーせ風呂上りに一杯月でも見ながら寝ちまったんだろ。熱はねーけど客の相手出来るような状態じゃねーってこった。昨日電話あったし。」 なんか簡単に想像出来ちゃって悲しいな、言うな悲しい、と二人で顔を見合わせて。 「つー事だから、伊月、お前は帰れ。本調子には程遠いだろ、邪魔。」 「あ、花宮ってツンデレだっけ。」 「喧しいわ!!」 今吉ほどがっつりではないが、花宮も一定のラインを超えると上方訛りが出る。それに少しだけ笑って、まあ確かにまだ籠球禁止だしカントクの手伝いだけでも途中で帰らされちゃったのは事実だし、と苦笑して、じゃあお言葉に甘えて、なんて伊月は事務所を出た。一応花宮がいるので休業看板は出さなくていいだろう。 そのまま伊月は路面電車に乗った。自宅とは逆方向であるが、コートのポケットを探って、問題無し、と一人で頷くと、座っても背凭れは利用出来ないし、と前の座席は妊婦に譲った。 「まだそんなに膨らんでないのに・・・。」 「お腹、庇ってるみたいに見えたんで。丈夫な子に育つといいですね。」 「ありがとう。」 そんな風に雑談を交わし、降りた駅は下町の、割りと雑多な場所だった。薬局店は無いが、駄菓子屋が漢方薬を幾つか扱っていたので、その店の硝子戸を開ける。 「おや、月ちゃん。」 「あ、どうも。葛根湯あります?あときな粉棒。」 「はいはい、待ってねー。」 だいぶ腰の曲がったお婆さんが、近所の子供等の籤引きの景品を出してやりながら笑った。 「あ、シュン兄じゃーん!」 「どしたの、今吉おじさんの所に用事?」 「風邪ひいたってゆってたー。」 「今週のブック読んだ?」 「読んだ読んだ。てか暇だったからさー。」 入院してて、とは言えずに誤魔化して、学生帽を小脇に抱えてきな粉棒を貰った。景品を出し終えて、後ろの抽斗を探って、お婆さんは、三回分でいいかね、と言うので、じゃあ一先ずそれで、と財布から紙幣を取り出し、お釣りを貰う。袋に入った錠剤を丁寧に小瓶に入れてくれるので、どうもと頭を下げた。 「じゃーねー月ちゃん!」 「気を付けて遊びなよー。今吉おじさんみたいに風邪ひかないようにー!」 あはは、と甲高く子供等が笑って、お婆さんに小銭を渡すと帰って行く。 「ここから通って行くかい?」 「いいえ、ちゃんと裏口お借りします。」 また違う子供等が、月ちゃんいるー!と騒いだので、またね、と笑って駄菓子屋の脇から小径に入る。店の裏手に階段があって、その階段を上がれば幾つかの扉が並んでいる。一番奥からひとつこちらの扉の前で、ブザーを押すのはひと呼吸だけ躊躇って、コンと扉を叩いた。 「翔一さん、起きてますか。」 まあ、返事が無くともコートのポケットから出した合鍵で開けてしまうのだが。 「お邪魔しますねー。」 八畳一間、キッチン付きトイレ風呂共用の、駄菓子屋のお婆さんが大家を務める、オブラート無しに言ってしまえばボロアパートが、今吉翔一が住む家だった。 少しだけ開けるのにコツがいる軋む扉を開けて、小さな玄関に靴を脱ぎ、新聞や同人誌に埋れて煙草箱や専門書なんかも置いてある部屋は少し空気が篭っていて、やっぱり埋れている布団を跨ぐように進んで、窓を開けるとやっぱり軋む。 秋の夕方の風がさんわりと部屋を通って行って、また来た道のりを戻って、扉を閉めて鍵を落とす。 「よい、せ、っと。」 古新聞くらいスクラップ終わったらゴミに出せよと思わなくもない。窓を半分程閉めて、座り込んだのは文庫本を片手に布団に埋もれている黒髪の隣だ。 「うそつき。」 寝返りを打って落ちたのだろう、ぬるくなった手拭いを拾い上げ、眼鏡を踏まないようにまた慎重に歩いて台所へ。水で濡らしてまた戻って来て、側頭部に乗せた。完全にひき込んでいるなら葛根湯は役に立たない。 普段は何を考えているのかさっぱり分からない上司は、眠っているとどこかのやんごとない血筋でも入っているのかという程精悍で、でもどこかあどけない。薄く開いた唇からは穏やかな呼吸が漏れているが、額は確かに熱を持っている。つめたい指先に眉根が僅かに寄った。体毛は濃くないが不精髭が生えているので、丸一日以上は布団の住人なのだろう。 伊月は立ち上がり、また台所へ向かうと、コンロにある小さな土鍋を開けた。からからに乾いた米に水を足して、コンロに火をつけた。 「どんだけ前のだ、これ。」 くつくつと音が立ち始め、指先に掬った塩を粥に溶かす。蓋を落として、冷蔵庫を覗き込む。沢庵と梅干しがあっただけでもいいほうだ。いつもの稼ぎは一体何処へ行っているのだろう。 「んー?」 コートを脱いで、単が掛かっている隣にハンガーを借りて、人参の蔕を落として、さりさりと包丁を操って皮を薄く剥がして、一口大に切ると、水と砂糖で煮込んだ。生憎割烹着やらエプロンなんて上等な物はこの部屋には無い。鍋の中でころころと人参を転がして、吹きこぼれるぞと叫んだ土鍋の火を止めた。 「・・・しゅ、ん?」 「あ、起きました?無防備に誰か部屋に入れちゃうとからしくないですよ、翔一さん。」 爪楊枝で人参をひとかけら摘まんで、ふむと頷いた伊月の後ろ姿に今吉は起き上がった。 「ああ、起き上がれます?」 「なんで、おんの。」 「昨日退院したんで。傷も殆ど塞がりました。お粥食べます?一応葛根湯とか飲んどきます?」 手際良く盆に粥の入った茶碗と梅干しと沢庵の入った手塩に、人参の砂糖煮込みを小鉢に入れて、ポルノ雑誌を蹴り飛ばして、持って来た。 「これ見よがしに蹴りよったな。」 「まあ、どうせ青峰が持ち込んだんでしょ。埃積もってますもん。」 「おう、正解や。」 けほん、と一度咳き込んで、濡れた手拭いでざっくりと顔を拭う。 「食べれます?」 「月ちゃんの手作りやろ、食う食う。」 「食べたら薬飲んで寝てください。」 「んー、月ちゃんにちゅーして貰うてから寝るー。」 「無精髭にキスは御免です。」 はい、とその辺にあった同人誌をある程度に積み上げて盆を置いた。卓袱台が壁際に畳んであるが、広げられる場所が無い。 「ちょっと窓開けますよ。」 「んー。・・・味がせん・・・。」 「味覚イっちゃってますね。熱測りました?」 「いや、でもまあ、死ぬほどやないやろ思うて。」 「そうですね、微熱程度かな。あった!薬箱!・・・ってちょ、風邪薬くらい常備して下さいよ。はい、検温。」 古新聞を纏めて、その辺にあった紐で縛る。本を箪笥の上に置いてあるブックエンドに立てかけて、やっと畳と薬箱を発見するも、薬の類は殆ど入っていなかった。思わず項垂れたが水銀体温計を投げ渡して、伊月は鞄から出した砂時計をひっくり返した。 「ん、これ旨い。」 「甘すぎません?」 「いや、丁度ええよ。」 「やっぱ味覚イってますよ。」 極力埃を立てないように古新聞をゴミに出せる状態に纏めていき、あ、そっちまだ済んでへんねん、こっちのは捨ててもうてかまんよ、と今吉の少し掠れた声に教えて貰ってかなり歩きやすくなった部屋は、畳がまだらに日焼けしている。 「あ、体温計。」 「微熱やな。」 「俺がこの数字叩き出すときはぶっ倒れてますけど?」 「月ちゃん平熱低いもんなぁ。」 「お茶頂きます。」 「窓閉めてええかー。」 「寒いようでしたら。」 酒飲みながら月見の一杯と洒落こんどったら風邪ひいてもて、なんてくしゃくしゃの黒髪を掻いた今吉に、空になった食器を下げて、手を付けられなかった沢庵は冷蔵庫に戻し、手際よく洗ってシンク脇に伏せた。駄目だこのひと、と思いつつも世話を焼いている自分は恋愛が得意でない事を自覚している。割と何でも卒なくこなす性質ではあるが、きっと失敗するなら恋愛面だろう、と常々思っているし、花宮や赤司辺りにも同じように思われているだろう。 「そんじゃ帰ります。葛根湯飲んで、あっためて寝て下さい。」 「え、帰るん?」 「他に用事ありますっけ?」 退院報告もしたし、気休めだが薬も食後に飲ませた。喉の様子も診たら、腫れも引きかけていた。もう暫く休んで眠ったら治るだろう。明日の放課後また来よう、と伊月は考え、コートを取ろうと衣架に向かう。 「俊、背中見せて。」 「ああ、だいぶ治りました。」 「見せなさい。」 「ちぇー。」 確かに激しい運動は止められているが、もう新しい皮膚が覆って、あと一週間程度、食後に抗生物質を飲んでいけば膿む事も無い。学生服のファスナーを下して、シャツの釦に指を掛けると、今吉の熱い手が覆いかぶさって、あれ、と切れ長の目を瞬いた。 「髪の毛、少し切ったん。」 「焦げてたんで。姉さんが見かねて病院で毛先だけ整えてくれました。」 「左様か。似合うとるよ。もうちょい長いほうが好きやけど。」 「伸びますよ、髪なんて。」 ぷつり、とゆっくり外される釦に、肩から襟が肌蹴られ、するりと伸びた背筋を晒す。さらりと撫ぜた手が、慈しむような手つきがなんだかくすぐったくて、伊月は笑った。肩甲骨の形を確かめるようになぞり、焼かれた皮膚が剥がれた場所が新しい皮膚で赤く透けて見えるのを、熱い指先が辿る。 「よかった。」 ほ、っとうなじに掛かった吐息に伊月は肩を竦め、抱きしめられてどきりとした。 「あ、の?」 「ほんまよかった・・・。ワシんトコ来てから、傷ばあい増えよる。今回は入院までさして、籠球も休ませてしもうた・・・。」 「だ、大丈夫、ですよ?もうこれは治る一方ですし、えっと、カントクの許可降りたら試合も出来ますし、目も訓練してますし!っていうかああの・・・。」 膚に触れる指先が、手のひらが熱くて、それこそ焼けそうだ。いつもより低く掠れた声に直に触れる耳元が熱くて、抱き竦められる格好に気付いてしまえば、そのまま首筋まで真っ赤になった。 「月ちゃん、真っ赤。」 「うるさい妖怪。」 「妖怪!?」 そのまま首を巡らせて、不精髭の生える顎先に伊月はくちびるを当てた。離れた時に鳴ったノイズが、やってしまった、と後悔させる。 「ど、どうして、くれんすか・・・!」 「それ、ワシの科白や・・・。」 すっと腕を解いたかと思えば、そのまま手を導かれた布団の中に、伊月は目を丸くする。 「え、なんで、ちょ、ほ、ほんっと、ばか!」 「いや、傷見ようと思っただけやねんけどー。」 理性と本能って別もんやなー、なんて笑って寄越すから、熱く硬度を示す性器を握り込んでやった。うわ、と声を漏らした様子はちょっとだけ愉快だった。伊月は畳んだ学生服を一瞥し、今吉の手を払いのけてシャツを羽織ると、布団を捲り上げた。 「ちょ、月ちゃん。」 「布団、ちゃんと被ってて下さいよ。冷えるでしょ。」 そのままもぞりと布団の中に、今吉の足の間に入り込んで、寝巻の黒い浴衣の裾を割ると、布団の中にすっぽりと隠れた。 「うわ。」 やわらかく粘膜に包まれる感触に思わず唸って、胸まで上げた布団の中に手を入れて、さらさらとうつくしい黒髪に指を通した。耳を擽ってやれば、不自然な布団の中身は小さく揺れた。 くちゃくちゅと微かな、粘ついた水音に全身がぐっと熱を上げる。腹筋に力が籠って、くるりと擽られた睾丸に腰が跳ねた。 「・・・っぐ!」 喉の奥を突かれてくぐもった悲鳴が上がり、甘い倦怠感に今吉は身を震わせた。 「・・・。」 「あのー、月ちゃん、ワシ何日風呂入ってへんのかー、すまん、数えたないわー・・・。」 「・・・俺も、別に知りたくないし・・・。」 もぞりと今吉の脇の下に顔を出した伊月は親指でくちびるを拭って、その額に今吉がくちづけたのを艶っぽく笑って肩を竦めた。 「って、飲んだん!?」 「布団汚すじゃないですか。干すのアレでしょ。窓も閉めちゃったし、もう日も落ちますし・・・っ。」 そろっと腰骨をなぞった指先に非難の目が向けられる。 「気付いてても言わないのがマナーじゃないです?」 トイレ行ってから帰りますよ、と連れない言葉にするりとスラックスの背骨が凹んだ隙間に指が入り込むのに身を捩るのと同時に今吉の胸に縋って頭を振る恰好が、どうにも嗜虐心を突いてくれる。窓は閉めた。壁は薄いが両隣は夜遅くでないと帰ってこない。 「ちょ、ほんと、翔一さんっ。」 「なあ、月ちゃん?」 真っ赤な耳を食んでやれば、びくっと痩身が跳ねた。尖った乳首を爪で掻いてやれば、睫毛に雫が浮いた。無理矢理押し倒しても良いのだが、と新しく柔い皮膚の張り始めた背中を思い出し、布団の中で器用にスラックスと下着を脱がせた。 「ちょ。ちょちょ、ちょっと!」 「ちょっと待ったってな。」 太腿で擦ってやれば、子猫のように高く上がった嬌声に、伊月は口に手を当てる。今吉は指先に唾液を纏わせ、片手で性器を扱いてやるのと同時に後孔に指を這わせた。会陰を撫でれば大袈裟なくらい肩が跳ねた。 「しょ、いち、さ。」 弾んだ息で呼ばれ、切羽詰ったように胸に爪を立てられる。 「もうちょい、待ち。」 「ひあっ。・・・くぅ。」 前立腺を押した指先にびくんと撓った体はそのままくたりと今吉の腕の中に崩れた。 「我慢せんでええよ?」 「こえ、そと・・・っ。」 かつん、と足音に今吉は指を止めた。隣人にしては帰りが早いが、そのまま近づいてくるのに意識を向ける。ぎゅう、と緊張に若い体が強張って、拡げる指先を締め付けた。 おばちゃんやな、とその耳元に囁いてやったら、ずるずると布団を引き上げた。いやばれるやろ、と小さく笑って、きゅっと摘まんだ胸の赤味に悲鳴を噛み殺す必死な様子が可愛らしくて、更に前と後ろを同時に嬲った。コン、とノックの音に、伊月は今吉の袷に食らいついて嬌声を殺す。暫くの沈黙の中に小さな水音だけが布団の中でいやに響いて、足音がまた去って行ったのにもう一本指を増やした。 「し、んじらんな・・・っしょーいちさんの、ばか・・・っ!」 「めっちゃ締まった。」 「なんでそう嬉しそ・・・っ、あ!」 ぐぐっと奥に入り込んだ三本の指が中でばらばらと動いて、もう片手が軟肉を外から開くので、放りっぱなしにされたペニスが跳ねた。摺り合った場所が腹に滑って、うわ、とちいさく伊月は呻いて上体を起こそうと今吉の胸に手を突き、その体を跨ぐように起き上がった。空が紫から藍色に染まる瞬間を見た。 「よそ見?」 ぎゅっと根元を握られ、ぴくりと肩を震わせると今吉は低く笑った。 「挿れんで。拡げとき。」 指を抜いて、くぱくぱと筋肉が収縮するそこに突き付け、尻を伊月自ら広げる様子に喉が上下する。角度を定めて入口に充てると、吸いつくように入った。 「俊、どないした?」 「しょ、いちさん、だ、め。きもち、よすぎ・・・っ!」 細い腰を強く掴めば薄い胸板が大きく上下して、亀頭を飲み込んだそこはきゅるりと蠢いた。いや、と啼いた体を引いて、一気に挿入してやれば、こぶっと白濁が落ちた。 「早いやろ。」 「あ、あぁ、あ・・・。」 揶揄のように言い放たれて、花色の身体は涙を零して拭われる。 「きもちええ?」 「しょっ、しょういちさ、だめ、らっらめ、いや。」 緩く何度も首を横に振って、動かさないで、と訴える情人に、従えるなら一度は従ってみたいものだ。 「ぃあっ!」 ぐんっと腰を揺らしてやれば、蠢く内壁を隅々まで堪能できる。きゅうきゅうと甘えるように締め付ける内壁のある下腹をそろりと撫ぜてやれば、先程射精した性器は半勃ちまで取戻し、とろりと透明の液体を零す。伊月は震える指先で浴衣を汚さないように帯を緩めて布地を払い、そのお蔭で汚れたのはお互いの腹だけだ。 「あっ、また、でそ・・・。」 「うん。」 「んんっ・・・!」 ぶるっ、っと震わせた痩身は、今吉の手に導かれ絶頂を迎え、ぎりっと食い千切りそうな勢いで後ろも絞めた。 「っは、あ、ん・・・。」 貫かれたまま、恍惚に啼いて、崩れそうな体を自ら揺する。 「うごいちゃ、や、だ。」 手のひらを今吉の目の前に突き付け、はっ、と息を呑んで、そのまま手を腰に移動させ、ゆっくりと腰を上げる。 「気が、狂う・・・。」 なんだか、そんな本を、眠る前に読んだ気がする、と今吉は呆然と思った。飢えているのか、病んでいるのか、それとも。 「うあ、あっ、あー・・・。」 愛して、いる、から。 ずるずると飲み込まれていく様子を見せられて、淫蕩に乱れる様子を見せつけられて。 「俊、好き。」 「しょういちさ、あ、んっ。ぅん、すき。すごい、すき。」 涙に揺れる黒曜石のような瞳は真っ直ぐに今吉を射抜き、ゆるゆると腹の上で踊る白い体に腕を伸ばす。 「あっ、うあ、やっ、くるっ!」 きゅっ、と腰に置かれた指先が握られ、ぎゅうっと持ち上がった膝が、白い靴下に包まれる、まるくなったつま先が、絶頂を越す。 「しょ、しょういちさ、しょーいちさんっ!」 ぶるぶると震えながら吐精もせず伸びてくる手を今吉は受け止めて、傷に障らないように抱きしめた。 「あ、あっん、あー!」 肩を捕まえて突き上げれば、あられもなく女のような声が上がって、傷をシャツで隠した背が反った。 「ふあっ・・・ぅ、・・・っく、あ。・・・あ・・・・っは、ん。」 震える痩身に熱を注ぎ込めば、苦しそうに喘いで、しかし内壁は待っていたように歓喜で泣いた。 「あつ・・・ぃ。」 そう、ぼんやりと呟いた首筋にくちびるを押し付け、汗ばんだ黒髪を梳いて、耳の裏をぢうっと吸った。紅く鬱血が残って、そんな刺激にもぴくぴくと肩が振れるので、愉しそうに今吉は笑う。 「風邪か?」 「それは・・・しょーいちさん・・・。」 「ん?起きとるか?」 「おきてますよ・・・てか、帰ります、から・・・。」 ぬいて、とがっちりホールドされている肩の指先を突けばそのまま指を絡め取られた。 「ちょっと・・・。」 「うん、もう少し。きもちええから。」 「もう相手しませんよ。うわ、腹ぐちゃぐちゃする・・・。」 気持ち悪い、と呻いた伊月の腹を、枕元にあった手拭いで拭いて、自分の腹も拭い、深く繋がったそこに宛がい、ゆっくりと引き抜いた。少しでも動かすたびにあまい声が漏れるものだから、賢明に理性を働かせ、どろりと白い腿に伝った液体も拭った。ぐぷ、と後処理の姿はこれからの自己処理に使うとして。 「ちゃんと帰れるか。」 「帰れます。」 ええよと声を掛けた今吉の浴衣を一回脱がせて、新しい手拭いで甲斐甲斐しく汗を拭って剰え汚れた下肢を綺麗にして、浴衣を着せ直して帯も結び直してくれる姿はもういっそ、もう一度襲ってしまえばよかったと今吉は思った。 どうしてこうなった、とぶつぶつ言いながら服装を整えた伊月は、黒いリボンが結ばれた合鍵を一度放ってキャッチして、コートのポケットに仕舞うと、鞄を下げた。足を引きずるように気怠く歩くのに、泊まっていけばと提案すると、ばかですか、と噛みつかれた。 「おお、月に吠えるつもりが吠えられてもうた。」 「朔太郎ですか。月を見ながら一杯なら、今度は俺も誘ってくださいよ。」 インバネスコートに、きゅっと学生帽を被ると、そのまま鍵を開けて、扉を開ける。 「それじゃ、お大事に。」 「月ちゃんも。」 「ばーか。」 ぎしっ、と仕舞った扉は、がちゃりと外から鍵を落とされ、やっぱり少し引きずる足音はそのまま遠ざかって、階段を下りて、消えてしまった。 「今夜も、月が綺麗、やんね。」 熱はきっと下がっている。それでも熱に浮かされるように呟いて、カーテンの無い窓の外に、今夜の月が顔を出すのを待ってから、今吉は目を閉じた。 今吉探偵事務所、明日からまた通常運転予定。 砂を吐かない覚悟のある依頼主、どうか来たれり。 |
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温泉旅行の後日談的なえろ。風邪ひいてるのも私ですよちくしょう!!PCの隣窓なんだよ喫煙者にはキッツイ季節がそろそろ来ちゃうよ我が家の俊ちゃんおにちく!!
2012年10月25日 23:39初出。
これぞやおいw
20121114masai