ノーイトル。 









無冠の五将、花宮真を知ったのは中学時代。

一つ下の学年にキセキの世代なんて大仰なものがあったので、優勝タイトルを一切与えられなかった選手の五人。

MVP、にはなってたよね、確か二年の時。」

「よく知ってんな。」

ベッドの上で眠ったように動かなかった伊月は、す、とその薄い瞼を持ち上げて、無駄なものを一切取り払ったような美貌で微かに笑った。

「三年次はキセキの独壇場だったからな。てかお前、俺の事知ってたんだな。」

「そりゃ無冠ですから。すげーPGがいるって。俺もPGだもん。」

「なるほど。」

素っ気ない態度は片手間に春期休暇のホームワークついでに次の学年の予習なんてしているからだ。勉強は好きではないと言いながら。

「中学ではラフプレーやってなかったよね。」

「ラフプレーがそんなに嫌いか。」

やはり、伊月の身体は眠ったように動かないが、その切れ長の目の眼光は何時になく鋭い。

「木吉の膝、許してない。多分木吉が一番お前を恨んでるけどね。」

上等、なんて吐き捨てれば返されるのは嘆息。ああもうこいつしょうがないな、なんて考えてやがるんだろうな、と花宮は聞いてきたように思う。

「お前のプレー、好きだった。ひゅーがの次に。」

「そこでメガネ出て来るとか信じらんね。」

「本当の話だからね。」

そこは仕方がない、なんて微苦笑気味に声が震えている。

「高校上がって、木吉と同じチームになれたことは幸せだったけど、絶望もした。」

「・・・絶望。」

望みや希望を一切失う事。

「花宮と同じチームで戦って見たかった。」

「俺とお前なら交代要員だろ。前半お前がラフやって、後半に俺と健太郎で蜘蛛の巣張ってくわ。」

「そこで瀬戸が出て来るとか信じらんない。」

「おあいこだろ。」

公式を眺めるのも飽きたのか、花宮がベッドの縁に凭れかかるのでその黒髪を嫋やかな、というには少々粗雑な手つきで撫ぜたのは伊月の手だ。

「タイトル、欲しかった?」

「貰えるなら貰いたかったね、とでもいうかバァカ。」

「花宮は素直で解りやすい。」

頭を撫ぜていた手が、よ、とシーツに滑って、起き上がろうと寝返りを打ち、ゆっくりと起き上がって猫のように伸びをする。誠凛の旧ジャージは寝巻に丁度いいらしい。洗面所で顔を洗って、すっきりと覚醒すると次に向かうのはキッチンだ。

「晩御飯なににする、まこ。」

「なめこ汁。」

「お前たまに年寄り臭いよね。」

「和食の趣味はお前譲りなんだけど。」

さよですか、なんて伊月はちいさくくちびるを尖らせ、冷蔵庫を勝手知ったりと獲り漁る。

「で?」

「んー?」

「続き、あんだろ。」

「ああ、それ。」

そうだな、と出汁粉末を鍋に散らしながら。

「真は、才能って言葉知ってる?」

「知ってるけどキライ。」

「逆は?」

「努力か?努力は裏切らねェかんな。」

「そ。努力は裏切らない。無冠は努力の才能の塊だって、洛山にいる三人を見ても思うよ。」

「努力の才能、ね。」

「俺は才能無いから。」

「だが、努力の天才ではあると思うぜ。」

はえっ、と随分間抜けな声でキャベツを刻んでいた手を止めた。

「無知は嫌いだが、無垢は武器だ。お前はまさにそれ。一年時はてんで無能のPGだったが。」

「わかってるよ!」

WC予選、あんときは焦った。」

「・・・悪童が!?」

大層驚いたように切れ長の目は真ん丸に見開かれたが、あんだよ、と眇められる目は相変わらずだ。

「一年時は、木吉とメガネと潰せりゃ勝てた。で、一年ちょっと待って見りゃ、なんだよPGが大層優秀じゃねェか。人任せのゲーム展開を全部把握して、指示もきっちりしてた。」

まあ多少頭に血が昇ってたのは否定してやんねーけど、なんて。

「蜘蛛の巣、お前のための戦略だったって、知ってたか?」

一度包丁を俎板の上に置いて、伊月は真っ直ぐに花宮を見る。

「それは、随分光栄な話じゃないか。」

身体を壊すくらいに努力を重ねた彼が考え出した戦略は、全て自分を潰すための物だったなんて。

***

初出;2013年4月4日 16:07
そういえば花月きっちり描いたことねぇんじゃねぇかなって。折角4月5日だし。
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キャプテン月の日でしたので。

20141026masai