今宵寝待月の下で。












 
背景は満月に雲が浮かんでいた。黒いスラックスに上半身は胸に赤黒い塗料でブランド名『A-MEN』。素肌にファーのついた黒いコートを羽織って木製の大きく細い十字に作られたセットを抱える。腕は包帯で縛られた。首には幾重もネックレスを巻かれて、表情は作らない。そんな街頭写真が、大手デパートの看板として作られた。

「ボートク以外のなんでもねっすね、これ。」
「つか、ライトのアレけっこ熱いな。」

『A-MEN』とは最近のサブカルチャーファッションを身につける若者をターゲットにして立ち上げられたブランドである。元々はパンクロックインディーズバンドが運営していたが、それを大手のアパレルが買い上げたのだ。そして、そのイメージモデルが今をときめく黄瀬涼太、通称キセリョ・・・に、したかったのだが、彼は実は別部門での契約が成立しており、同じ企業内での無益な競争も頂けない、という企画部の所を丁度通りかかったのは、黄瀬でもあった。

「でも、天然でここまでの黒髪は勿体無いし、赤司っちは意外と身長伸びちゃったし。」
「喧嘩なら買うぞ。」
「中性男子小柄!って聞いたら真っ先に浮かぶのはやっぱ伊月さんだったんで!」
「お前の物騒事スルースキルと対人スキルだけは買うわ・・・。」

そしてスタジオに連れてこられて、同じ企業なので撮影もほぼ一緒だから問題ないッス、とメイクやスタイリストの中に放り込まれた結果、現在は真っ白なロングワンピースの裾に霧吹きを当てられ、他人にネクタイを結ばれるという動物的本能に若干肩を強張らせる伊月はシルバーのリングと血色に染まった包帯を手に巻けば完成だ。

「つめたっ!」
「もうちょっと我慢してー。コンテ確認してね、シュンくん。袖汚してー。」
「え、プールとか無いでしょう流石に。」
「まあさすがに?」
「合成ッスね。下着透けない?」
「脱いで!前張りだけする!」
「ちょまっ!!自分でしますー!」

頬に血糊を塗りたくられたり、割と際どい衣類に寒々しく、折角だからコラボもしとけ、とばかりにちょっと小綺麗な黄瀬のリボンタイを伊月が、伊月のネクタイを黄瀬が、結び合ってる写真や背中合わせもあった。使い道はプロに任せる、と歯車背景に臍が見えるダメージだらけのタンクトップにローライズのジーンズ。手には腹から綿の出ているウサギのぬいぐるみ。

「視線こっちよこしてー。」

実は、伊月が一番困った指示はこれだった。
切れ長の目は少しだけ印象がキツイ。頬に『A-MEN』と描かれた彼は、片目を包帯で隠し、真っ白なドレスを着て、顎は少し上げ気味。背景は夕焼けだか朝焼けだかで空からは真っ白な羽根が降ってくる。そのくせドレスの腹部は引き裂かれたように真っ赤なペイントと縫い目。

「うん、女王様っぽい!」
「そっちで無言で笑ってるヤツ殴らせて。」

そう、問題は、このブランドの大多数の衣装が女性向けなのだ。そして女王様のようにカメラを睨む美人画。これはもう仲間に見られでもすれば笑いの種だ。
最初はカツラでも被せちゃう?という意見もあったが、伊月本人を見てそれは一斉に無しの方向で。なので本当に、胸元の隠れない裸ジャケットやタンクトップなら助かるが、ブラウスやドレスでは本当に、男か女かよくわからない生き物が出来上がっているのだ。
黒に白のフリル、白いヘッドドレスに黒いリボンの破壊力はスタイリスト組やカメラマンの心臓を撃ち抜いた。

「少し笑って見てー?あー、いい感じ!涼太思いっきり睨んでー?いいね!はいオッケー!次の、涼太も入って。」
「抱きしめちゃう感じで!?」
「合成でシュンくんには羽根が生えるからその辺考慮ー。」
「指先からいきますかー女王様ー?」
「調教すんぞまじに。」
「お、マニキュアが黄色!俺カラー!!」
「個人的には赤か黒だなー。」
「黒子っちと赤司っち?」
「ばかか。誠凛のユニだよ。」
「あ、自然な感じもよくない?」
「まあ撮っとく。その辺は広報編集に任せる。二人とももうちょい近くーシュンくんは女王様でいいからー!」
「ちょっ、これ以上近付くって無理無理無理無理赤司っちにコロされる!」
「あいつも仕事にまで文句は言うまい。俺のこと抱ける?」
「え?」
「黒子に昔やったみたいな。」
「ああ、抱くってそういう・・・。」
「どういう意味だと思ったんだはっ倒すぞ。」
「おおっ!?伊月さんかっる!軽い!なにこれ!」
「涼太カメラ!」
「はいッスー!」
「シュンくん、少し腰捩れる?あ、それ、その感じ!!」

そんな感じで凡そ10着もの撮影やらなんやらこなして、黄瀬が自分の仕事を終えた頃には休憩用のテーブルで半ば屍になっている伊月が発見された。

「久々に合法的に稼いだんじゃねッスかー。」
「昨日は大坪建設でバイトだった。」

残念でした、と撮影小道具だったモデルガンを突き付け、少しだけ遊んだ。

「大坪って秀徳でいましたよね、センターで。」
「うん、建築現場でバイトしてたら声掛けられて。大坪さんも現場監督見学みたいだった。あ、最近は余所の建築会社に就職内定したって。」

部活を引退して、家出も同然だった伊月は工事現場の日雇いで主に稼いだが、どうしても手術した膝に懸念があったので時間制限があった。そこを偶然実家の手伝いで見にきていた大坪に見つかった。
だったら、と鷲の目が活きる作業は現場だけでは無い、と設計士の真似事をバイトとして預けられたのが主に今の表向き稼ぎになっている。

「え、実家は継がないで?」
「社長の曰く、武者修行?建築会社って名前だけど、左官とか大工魂っての?そんな親父さんだからじゃない?」
「ナルホド。そろそろスタジオ閉まりますけど今夜は?」
「適当に稼いでー、今夜はネカフェか。」

モデルも案外面白いな、とギャランティの入った封筒をウォレットに挟んで、スタジオを出る際に使用した衣装が数点、紙袋に、おみやげ、なんて笑って寄越された。まあ着れるなら貰っておく。黒のドレスが入っていたのに伊月は頭を抱え、じゃあこれ俺欲しいッス、と黄瀬が手にとったのは当初使う筈だったウィッグだ。

「どうするつもりだ黄瀬・・・。」
「や、黒子っちに画像添付でメルったらkwskって返信来たんで。」
「着てやれと。」
「黒子っちはタイヘンな受験生ッスよー。たまには癒して上げないと!」
「仮装と癒しがどう繋がる。」
「そこは仮装じゃなくてじょそ」
「去勢するか?」

その美しい笑顔に黄瀬ふざけて作った笑顔のまま凍りついた。
まあ、街頭写真やファッション誌、そして一時はファッション界をも賑わせた、『A-MEN』の専属モデルSHUNだが、その写真だけが存在した証のように、次のシリーズにもう一度姿を見せただけで、他にはついぞ行方を見せなかった。

「ああ、綺麗だねぇ、可愛いねぇ。」

今夜の客はどうやら相当の変態だった。香水のきつい、年のいった男で、勃起に時間がかかったのも伊月にとってはちょっと辛い。

「っは。・・・ぁ。」

白いワンピースには白いレースがふんだんに使われており、襟に綺麗な形で結ばれたリボンがちょっと苦しい。奉仕を強いられた顎は唾液がだらしなく垂れるので、口を放して拭った。

「苦しかったか?可哀想に・・・。」

やらせたん誰だ、なんて悪態は一度飲み込んで、けほっと咳き込んだ薄い肩を撫ぜる手に伊月は指を置く。

「なんで、こんなの着せるの?」

安いカーペットにぺたんと座った格好に白いストッキングに覆われた膝小僧が出るのを恥ずかしげに寄せれば、男は低く笑った。

「女の子になる気分もいいじゃないか?」
「いいの、かな。」

ぴくっ、と肩が振れる。前金で八万。気持ちよければ事後に足す、と条件に、変態が差し出してきた鞄の中には、ワンピース、ガーターストッキング、白い紐パンは所謂O字。高額の合点がいった、と伊月は風呂場で頭を抱え、もう二度と前払いの客は取らない、と決意する前に振り払う。前払いは何かと都合がいいのだ。無茶苦茶に抱いてそのまま逃げられるパターンだって現在進行形で何度かあるのだから。
そして、褒めそやして、後ろを解して、とその間に男はストッキングにリモコン、そのまま中にローターを仕込んで風呂に入った。これの相手すんの素面じゃちょっと、と紙片を一切れだけ飲んだ。

「そろそろ、スイッチを入れよう?」
「あの、ちょっ!」

スカートが捲られるのを思わず抑えて熱が集まる耳元に、ほら、と囁きが落ちてきた。

「やばい。恥ずかしいこれやばい。」
「そうだろう?」
「お、女の子には今度から優しくしよ・・・っ!」

びりっ、と内部を食い破る勢いで暴れる玩具に肩が跳ね上がり、腰が撓った。

「あっ、やっ、やだっ!つよ、強い、です。まって・・・っ。」

徐々に静まる体内のモーター音に、一度深く息を吐き、脇に手を入れられる擽ったさにひゃんと子猫のように啼いた。そのままベッドに転がされ、真っ白な肢体は黒髪を艶やかにシーツにばら撒き、姫袖は顔を隠した。

「ふあ、ぁ・・・っ。やだ、やぁあ・・・。」

擦り合わされる膝を割るのに、男は舌舐めずりを隠さずに獣のように唸った。腰のところに撓んでくる布地をそろそろろ捲り上げられ、尻に塗めったローションに、指を絡ませローターが押し込まれる。

「やっ!」

ぼろ、と切れ長の目が見開かれて雫が落ちた。

「ここが気持ちいいんだよね。もう少し強くしても平気かな。」
「やだっ、やっ、やめっああああああ!!」

大きく身体をしならせシーツを蹴った爪先は丸くなって男の肩に上げられた。甘い悲鳴が室内を満たし、吐精の無い絶頂に痙攣が止まらないのを伊月は泣きそうに見下ろした。クスリの副作用に近い。絶頂感が長くて気が狂う。

「あっ、うぁ、ああ、らめ、きもち、い・・・っあ!あ、あぁあ!」
「君は女の子みたいにイっちゃうんだねぇ。」

勃起していない若い性器はそういうことかと男は納得し、中をズルズルと玩具で掻き毟る。シーツを握った真っ白な関節を撫ぜて、ひゅぅっと息を呑んだ気配に前立腺に押し付け、振動を最大まで上げた。白い布地に埋もれる柔肉がピンク色に蠢いて指先を締め付ける。

「いやぁああああああ!!たすけ、たすけてっ、ゆるし、てぇっ!」

ぶるぶると震えながら男に手を述べ、すっかり開いた脚は男の腰に絡む。

「もっと?」
「ちが、んっあ。んーー!もぉやだぁ!」
「やめて欲しい?」
「んっ。やめ、やめてぇ・・・!あたま、こわれる・・・!」
「そうかぁ。」

ずるりと熱い存在に割り込まれて、赤い唇は、うそ、と呟いた。ずぶずぶと、コードの感触まで鋭敏に伝えるそこは、波打つ血管の、それが押し込まれる再奥に、吐き気が来る直前に去った。

「いやぁあ抜いてぇっきもちわるいー・・・っ!」

そうやって泣き出した相手を、本当に女の子にでもするように、男は優しく頭を撫ぜる。それは性交渉の相手と言うよりももっと、娘やそんな存在にする様子に近いだろうけれど。泣きじゃくる伊月のしゃくりあげる仕草を拾い取っては、涙を拭って花色の頬を撫ぜ、リボンを解いてやれば伊月はほっと息を吐く。

「きゃぁっ!」

中をぐるりと走った衝撃に伊月は身体を竦め、荒れた呼吸で男の手を見た。モーター音が止んで、ふらふらと揺れるそれはショッキングピンクにてらてらと安い照明の下に光っている。

「あ、ぁ。」

感極まったかのように声を漏らし、猫か不器用な子供のように男の胸元に擦り寄る。ぐいと揺さぶられる衝動に、頭の中を真っ白に染められた。

「あ、の?」

意識を飛ばしたのはほんの一瞬だったらしい。きゅっ、と襟元のリボンが結び直され、しかし後孔から垂れる液体に眉を寄せると、フラッシュが焚かれた。

「え、カメラ・・・?」
「うん、可愛いからね。あ、脚は広げて。」
「や、はずいって・・・。」

とろり、ドライオーガズムに馬鹿になった括約筋は中に出された白濁を零し、ひっ、と伊月は喉を引き攣らせた。

「あ、顔は・・・。」
「うん?隠したい?いいよ?」

汗ばんで貼りつく可愛らしい生地が時折肌を透かせて、ふわふわのスカートの形を男は整え、膝を揃えてやれば安堵の息がシーツに落ちた。

「ちょっと体制変えるよ。」

股を伝い落ち、膝裏に溜まる感触に伊月はくちびるを噛んだ。

「ふ、ぁ・・・ん。」

鼻に抜けた声音に男は少しだけ笑って、薄い肩を抱き上げた。

「お風呂まで歩ける?」
「あ、ちょっと肩をかして貰えれば・・・?」

足を運ぶたびにスカートの裾が揺れて、中がくるくると揺られて気持ちが悪い。そのまま湯船に入れられて、目を丸くしていると上から湯が降ってきた。

「さあ、脱いで洗ってしまおうか。」
「え、あ、はい。」

体は自分でどうとでもなるが、服は返さなくてはいけない。未だ絶頂の余韻で震える指先にリボンを解いて、ボタンを外して袖を抜いて。

「すいません、ちょっと向こう向いてもらっていいっすか。」

流石に自分でも直視に耐え切れないそれを、男はそのまま湯船に手を入れて外した。パンツとストッキングは使い捨てのようだ。

「すいません。」
「手伝おうか、処理。」
「いや、そこまでは・・・って、いいです、って!」
「まあまあ。」

脇に手を入れられ、ぐにゃりと入り込んだ指に伊月は身を震わせ、男の肩に縋った。

「ふ、や・・・っ。」
「はい、全部出たかな。ちゃんと温まって出なさい。可愛かったから、あと二枚出してあげよう。」
「・・・それは、どうも。」
「変態だと思った?」
「・・・えっと。」
「まあ、思うよね。」
「・・・はい。」
「ははは!正直だ!お湯も溜まったね。ちゃんと百まで数えるんだよ。」
「あ、それ俺逆上せるんで。」

ひらひらと手を降った伊月だが、正直まだもう少し腰の様子がおかしいのでこのままいる訳にはいかないのが本気でマズイ。

「あ、写真見る?」
「えー。」
「大丈夫、防水だから。それにこれ、ファイリングしちゃうから、嫌だったら言って。」
「ええー?」
「失礼な。変態という名の紳士だよ。」

かちかちと時間を遡っていくと、結構様々な角度から、しかしブレは一切無く撮影されている。

「あんたプロか。あ、やば。今の忘れて。職業とか基本聞かないことにしてるんで、俺。」
「別にいいよ?」
「あ。」

零れた声音は只管穏やかだった。
いつになったら俺以外映ってんだ、と半ば興味本位になってきたところ、街頭写真が写った。茂みの中の野良猫が写った。真っ青な空が写った。夕焼けの中の飛行機雲が写った。祭囃子が写った。金魚が写った。海が写った。満月が写った。そして白い服の少女が写った。

「可愛いだろう、娘だ。」
「あのー・・・。」
「まあ、縁を切ってしまったけど。」
「難しい話ですか。」
「多分、誰にでもあるけれど、無い話だ。」
「ま、身の上なんてそんなもんですよね。」
「うん、そんなものだよ。」

世間は兎角、なんとやら。

***

NO犯罪!YES萌え!!今回もモブ月で指定です気をつけて下さい。あと女装ネタ。いい加減赤司にいい思いさせてやれよと思いながら、なんかこのシリーズのえろは自分の変態度をどこまで試せるかみたいな感じになってるばかか私は。ひたっすら赤月がいちゃいちゃしてんの描きたいなんで描いてやらないw我が家の俊ちゃんはばいはの映画を見たいらしい。一緒に行ってくれる彼女作れよ・・・。ああいるのか液晶の向こうに。赤司がいい思いを出来るってなんだろうな?っていうかこのシリーズで幸せになる方法があんまりこう見つからないw自分でパラレル設定作って置いてからにwww

2012年09月28日 00:54初出。

参考ファッション雑誌は5.6年前のもの。もうこのブランドないんだよなーって描きながらちょっと切なくなったw













20121114masai