夏の熱い陽射しの中で、その天使の輪が彩る黒髪の綺麗な青年が姿を消した、というのは一週間前から囁かれていた噂で、今年も懲りずに浪人生なんてやっている日向はやっと。

「いづ、き?」

その真偽を、確信した。

中学から馴染んだあの声は、駄洒落は、聞けない。
どういうことだ、とストバスのコートに屯する連中に聞いて回れば、知らない、判らない、と首を横に振られ、高校時代に横の繋がりで手に入れていた今吉への番号を携帯電話で呼び出す。

なんであいつはケータイを持たん、と学生時代によく手遊びしていた風景は今でも鮮明に思い出せる。

なんかね、おちつく。この向こうに、あいつがいるんだって思ったら。

好んで選んでいた青いガラケーは時代遅れもいいところであったが、高校を卒業して解約。自慢の記憶力のみで彼は、伊月俊は、自分のテリトリーを楽しそうに遊んでいた。
同時に嫉妬もした。時折奇妙な場所に怪我を作ってくる伊月の白い肌もそうだが、それ以上に強い意志を持った黒曜石のようなうつくしい瞳で鷲の目と呼ばれた鋭い眼光で、周囲を魅了した存在は、ある日を境に消えてしまったのだと、日向は唐突に理解し、その場に膝から崩れ、宮地や森山、火神や津川に心配されつつ、操られるように誘われて、その日はバイトのシフトまでバスケに興じた。
まるでそれだけしか考えられないように。

なんと薄い繋がりであったのだろう。
伊月、と叫んだ声に、応えるあの優しい声音は、無い。


***


「やあ、木吉。」

北海道の高速道路のサービスエリア。花宮の運転で各地のグルメや特産品を巡っていた男の肩を叩く手の持ち主に、声を掛けられた男は瞠目した。

「ぶっは!何それ無精髭にあうー!」

沸点低めの笑声に、げぇっ、と呻く声に目をやればトイレから帰ってきた花宮がいて、よ、と軽い挨拶もしてやった。

「い、伊月?」
「随分と久しぶりだね、木吉。花宮も。元気だった?」

言葉が出ない。
頭の回転が阿呆みたいに速いはずの花宮と、マイペースを擬人化したような木吉のこんな反応は楽しい。実に楽しそうに伊月は笑ったあと、俊さん、と決して大きな声でないが存在感の強い声に呼ばれて、おう、と応えた。

「伊月っ!」
「うん、ばいばい。」

ひらひらと手を遊ばせ、そのまま伊月はサービスエリアの関係者用の裏口に、ゆったりとした歩調で歩いて行った。

ばいばい、と伊月は言った。
高校時代の部活終わりを木吉は不意に思い出す。
また明日な。
彼は絶対に、そう、言ったはずなのに。


***


「俊さん。」

こうやって赤司から声が来るのは割と珍しい。

「どうした?」

二人がそれぞれ疾走するのは所謂ロードバイクというやつで、あの公園に無用心に置いてあったのを二人で拝借してきた。
見つかれば間違いなく警察沙汰で、ロードバイクの価格を知れば、それなりに驚くだろうが、そんなことはもうどうでもいい。

「どこへ行くの。」

うん、と語尾を上げた伊月の貌は、まるで悪戯を思いついた子供のそれ。そんな仕草。
キャップを被ってドリンクホルダーにスポーツ飲料。

「お前と、二人っきりになれる場所。」

ちゅ、っと頬に掠ったくちびるの感触に赤司は指をやって、目を細める。

そんな場所、世界中を探しても、あるはずが無いのに。

「北海道の、街道!キタコレ!」
「空が広い・・・。」

二人で見上げた爽やかな空色は、一点の曇りもない。

「あ、ケータイこまめにチェックしろよー?」
「今吉からの不在着信が・・・20件?弁護士って暇なの?」
「やっぱ鬼かお前。GPS切っとけ。」

そうだなぁー、と伊月はタンクトップから露出する健康的な白さの腕を伸び上がらせて。

「なあ、征十郎?」
「なに。」
「その辺の裏通りでエスとか手に入んないかなぁ。」
「交番前とか、意外と。」
「ああ、いるよなー東京だったら上野のアブアブ前とか渋谷の宇田川・・・とか。こっちもそんな感じかな。あとストバスのコートとかあったら最高。」
「ホテルは?」
「征十郎の奢りなら、ちょっとご奉仕してあげる。」

ぱち、と幼さの残る頬に、赤味の混じった睫毛が上下する。鮮血のような瞳と夕陽のような色の左右で違った瞳は、毎日見ていると意外と気付かないらしいが、時折黄金色に輝くのが伊月は好きだ。赤司本人ですら気付かないかもしれない、些細な外見の変化。

「伊月さん。」
「ん?なんか久しぶりだね、その呼び方。何かな、赤司?」
「結婚してしまいましょう。」

今度は伊月がその切れ長の目を丸くする番で、眦から、耳元が淡く甘い色に染まって行くのを、見つめられてそのままくちびるをくちびるで塞がれて舌を絡めて、田舎の人通りの少ない自販機の前に、ふにゃりと座り込んだ。

「・・・人気、なくってよかった。」
「青姦でも?」
「せめっ、せめて、トイレかホテル入ろう!な!?」
「どうしてその二択・・・。」

名前も知らない相手と体を結んで金を得るような商売をしているくせ、赤司に対する伊月は随分と初心な反応を見せてくれる。
それは堪らなく嬉しくて、幸せで、勝利ですら味わう事の出来ない、至高。

「俊さん、かわいい。」
「蹴られたくなかったら放しなさい、征。」

そうして彼らは、その日を境に。






今宵月が消えた真に。












***

NO犯罪YES萌え!!最終話です。待ってる方がいらっしゃったら僥倖ですが、これで一旦シリーズピリオドです。二人の今後はどうなるのでしょう。伊月先輩がハタチになる前に終わらせたかったんですよね。■あとあの、お気に入られ500ありがとうございます!なにがあったんです?■ブクマコメありがとうございます!ちゃんと完結まで描けて安心と、読んで頂けた幸せでいっぱいです!!(7/19

初出:2013年7月16日 01:04

完結までお付き合いありがとうございました!

20130903masai