それは静かで清らかな狂気。
| 下校の小雨の中、スニーカーもつま先に当たったのはピンク色にネコが描かれたちいさな鞄だった。 「ん?」 小雨とは言え、長い時間降り続いた雨の中、ずぶ濡れのそれはエナメルのぴかぴかした鞄は新品に近く、何だこれは、と伊月は首を傾げた。地獄の練習メニューの後に自主練をこなした身体はあちこちが疲労を訴えており、家に帰りたい半分、この鞄を放って置くのもなんだか、姉と妹に挟まれる長男は気が引けた。 30秒程悩んだ後に、結局導き出された結論は、近所の交番に届けておこう、だった。そこの街灯の下に落ちていた、品物自体が新しいので落し主が現れる確率も無きにしも非ず、もしかしたら中に持ち主の身元が知れる何かが入っているかも知れない、と期待を込めてのその判断は極々常識的と言えよう。 家に帰って風呂に入って、遅くなった夕飯を食べて、宿題は授業中に終わらせておいたとして、今日の練習メニューでの反省点をノートに綴る。昨日のページを捲って、今日の練習で克服出来たと思っていれば、一応チェックは付けて置く。 連携シミュレートも幾つか走り書いて、この辺はカントクとキャプテンに要相談、とかつり、シャーペンの先がノートを叩く。一度目を閉じて、深く深く、意識しての深呼吸。今夜もよく眠れそうだ、と伊月は布団に仰向けに寝転んだ。 ケータイのアラームに叩き起こされ、血が上るのを暫くだけ待つ。毎朝の睡魔との闘いの時間勃発である。何度も瞬きを繰り返し、ぼやっと見慣れた自室が浮かべば両手を突っ張って起き上がる。まだもう少し視界が回って、唸るようにのそのそとふらつきつつも立ち上がり、習慣づいた、押入れに布団を突っ込む作業に移る。洗面所で歯磨き洗顔のルーチンをこなし、制服に着替え、この辺りから徐々に正確な思考回路を取り戻し、飯食ってガッコ行って朝練、一限から体育とか死ねる、なんて取り留めもなく考えて、居間に降りると甘い香りの新米と鰹出汁の味噌汁に完全覚醒する。 「おはよう、母さん。」 「おはよう、俊!今朝から新米なのよ!おいし、んまい!」 「それ頂き。いただきます。」 「はい、召し上がれー!」 我が母親ながらいつまでも若々しいなぁ、と思わなくもない。 「新米ってどうしてこう甘いんだろうね。はっ、アマチュアには甘い新米を食わせろ!キタコレ!」 「アマチュアと新米を掛けたのね!」 そんなこんなで家を出て、通学途中の日向や相田と合流。途中で何かを蹴り飛ばした。 ピンク色の、エナメルの鞄だった。 「え・・・?」 「どうしたの?」 「何じゃそれ。」 何だ、とは伊月本人が聞きたい。この片耳に赤いリボンがくっついたネコは全国的に有名なキャラクターだし、類似品という線もあるのだが、その子供向けの短い肩紐が不自然に足に絡んでいる。 「なにこれ。」 「聞かれても。」 「えっと、じゃあ職員室にでも届けておくから、その間に日向くん、伊月くん、準備や柔軟中心に進めといて。簡単に身体は解すくらいで。怪我の無いようにね。」 「おう。」 伊月はしゃがみ込んでそのエナメル紐を解き、相田に渡すと申し訳なさそうに頭を下げた。肩に背負う自分のエナメルバックが妙に重たかった。紐が絡んだその場所は、数日赤く残った。 放課後の部活を始める直前、いつもは一年が主体になって準備を進めてくれるのだが、体育館内は奇妙な沈黙に包まれていた。 「え・・・ナニコレ。」 異変に真っ先に気づいたのは小金井で、水戸部に目配せすると、その視線を追って、体育館の隅にある、目に痛いほどのピンク色にオーバーオールのネコが描かれたちいさな鞄が鎮座していた。テツヤ二号が警戒心の塊のような格好で睨み付けているのが、唯一の現実味だった。 「え、カントクが職員室持って行ったって・・・?」 「俺らに処分一任したってこと?」 相田はそんな部員の様子をぱちくりと見やり、体育館の隅にある鞄に嘆息した。 「帰りに交番にでも届けましょう。」 そうやって、その日も地獄の練習メニューが始まった。 「黒子寝んなぁ!」 「五分休憩!水分しっかり採って!」 スクイズボトルとタオルを持って、そろりと近寄った伊月に、黒子はゆっくり起き上がった。 「はい、タオルとボトルな。」 「ありがとうございます。」 「これから冷えるぜー?汗はちゃんと拭いとけ。はっ、秋に焦って汗だく!キタコレ!?」 「来てないです。」 暫く眉を下げた伊月だったが、その広い視界を持つ眼を一度瞬いた。鞄が無いのだ。二号もいつも通り土田と福田が転がすボールとじゃれている。 「伊月先輩?」 「い、や。なんでも・・・。」 伊月が目を向けた方向に黒子も目をやった。しかし彼には変化らしい変化が無かった。 翌朝、伊月は風紀委員の仕事で校門脇に立っていた。新設二年目の学校は校風があまり定まっておらず、しかし社会常識として、華美な装飾、目に余る制服の着崩しは注意対象だ。 「そこ、ピアス。生徒手帳出して。はい、チェック終了。」 「伊月、陸上の助っ人頼めね?」 「すまんがバスケ一筋だ。はい、ファスナー上げとけよ。」 「ういよー。」 どうせ教室に戻れば元通りになっているのだろうが、口頭での注意、目に余るようなら生徒手帳のチェック、と風紀委員の腕章を着けた彼は鷲の目を有効活用して、次々注意対象に声を掛けて行く。 「木吉?何その鞄。」 「お、風紀委員かー!朝から偉いな!」 大きな手にわしわしっと朝日の中に耀く黒髪を撫ぜた木吉のエナメルバックの隣には、子供向けのちいさなピンク色のエナメルの鞄が引っかかっていた。 「え?」 「え?」 「いやいや・・・。」 「え?え?」 「その、鞄・・・。」 どこで、と紡がれる前に、伊月は口元を抑えた。 明らかにこの現象は異常だろう、と喉の奥の苦味を無理やり飲み込んで、木吉を見上げるとまた頭を撫ぜられた。その肩にはもうピンク色の鞄は無かった。 「なんだ、これ。」 四限、ついに伊月は授業終了のチャイムと共に崩れるように倒れた。昏々と眠り続けた彼は、低血圧の視界が定まらない中、枕元にピンク色の鞄を見た。放課後の部活はカントクとキャプテンの指示により、見学と相成った。 元々自覚していたとは言え、伊月は夢を見ない眠り方をする男だった。 まあ、正確に言えば覚えていないだけなのだろうが。 しかし、その見学だけで終わった部活の直後からそれは一変した。視界の端には絶対にピンク色の鞄が存在した。いつも昼休憩の昼食に利用する屋上の一角に見かけたそれに、小金井や一年トリオが手を掛けようとするのを全身全霊で止めた。 摩耗する神経に向き合って気遣ってくれる水戸部や黒子には、何でもないと首を振りながら、それでも、気をつけて、と忠告は忘れなかった。 夢の中の部屋は、只管可愛らしいコーディネートをされたそこだった。自室が畳に布団の伊月には珍しい物ではあったが、姉妹のある彼には、可愛らしいなぁ、くらいしか印象は無かった。 つぶらな瞳のぬいぐるみは壁際にうず高く積まれていて、それは、飾るというより何かを隠しているようにも見えた。 『おにいちゃん。』 例えるならば、チャンネルを間違えたラジオのような、そんなノイズの混じった声だった。 『ねえ、遊ぼう?』 それでも無邪気に語りかけるのは、ピンク色の鞄を斜めに掛ける、十にいくかいかないかの少女の声だ。 「ごめん、疲れてる。」 伊月はいつもそうやってあしらった。きっと遊んで遊んで飽きられてはぬいぐるみの中に隠される。少女はいつも、ハート形のローテーブルにココアとクッキーを用意していた。飲む気にも食べる気も起きなかった。お腹空いてないよ、と言えばそれで済んだ。 起床、夢の中身は完全覚醒までにはすっかり忘れてしまう。一応交番には、持ち主が分かれば一報頂ければ、と連絡先は渡してある。 日々のルーチンを崩さず、家を出れば、つま先に何かが当たった。 ピンク色のぴかぴかしたエナメルの鞄には、有名なネコのキャラクターが描かれていた。 「おはよう。」 蹴り上げたその鞄は、ごしゃりと何かが潰れるような音と主にアスファルトに落ちた。 『おにいぢゃん、あぞぼう・・・?』 そんな、幻聴がいつまでも離れていかない。 ピンク色のエナメルの鞄には、そろそろうんざりしてきた。 |
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こういう狂ってんのか本物なのかっての好きです。ホラーに片足突っ込んでる系。腐向けではないつもりですが描いてる人間が腐り切ってますんでそういう描写に見えたらっていう注意程度で。後は好きに弄ってくださいー。恒例我が家の俊ちゃん!下ネタ注意!!「下の毛処理しょったらーwww」「おまwww夏場の女子かwwww」「tnkの根元ざっくり四センチくらいざっくりwwww」「あーるじゅーはちじーwwww」「めっちゃ血ぃ出たwwww」・・・こういうのって基本男の子同士の会話だよね私って何時の間にか兄になったの?masaiさんちって姉弟じゃなかったwww?私いつのまに兄なったのwwwwwまあおかんには「私って男二人産んだんやっけ?」と真顔で聞かれましたけどもwwwwおかん自信持ってやーwwwwww!!■おわっ!目を離した隙の一瞬のタグありがとうございます!これで自信持ってホラーだ!と言い切れます安心wしかし一番のホラー要素はキャプションと本文のギャップだと思いましたwww