それはのお話。









とくとくと、心臓の音が煩くて眠れない夜だった。
部屋の調度品は季節の色に変わっただけでなく、漆塗りや螺鈿が美しい新品に入れ替えられている。
明日。正確には明日の夜、日向がここに来る。
いつものように無駄話をするわけでも、友人として酒を飲むわけでも世間話を交換するためでもなく、自分たちの絆を契るために。
いつも焚きしめるはずの香はいつものそれなのに、どこか新鮮な薫りがした。
正直眠れない、と伊月は上掛けに顔を埋めて、艶やかな髪を滑らせた。
さわさわと、遅くまで準備に駆け回る舎人や女の童の存在が落ち着かなくて、ぷはっと顔を上げる。当然だが真っ暗である。
真っ暗。それはおかしい。
年季はあるが、薄ぼんやりといつもは天井が見えるのだ。態勢を整えようとした身動きが、いやに、重い。
「・・・だれ。」
紅を刷いてない赤いくちびるが発したのはそれだけだ。瞬間、口を塞がれ、抵抗に突き出した腕を取られて頭上に纏める力は男のそれだ。獣のような熱い吐息が顔に掛かって、ざわっと嫌悪が背を駆ける。
「っ!」
脚には脚が絡んで封じられ、暴れるにも叫ぶにも叶わない。口元を覆っていた手が外れ、滑った何かが這い回る。不快感に肩が跳ねた。
「んぐっ。」
顔を背けるとそれは耳を這った。舐められた、と瞬時に悟った。悲鳴は恐怖のあまりに声にはならなくて、ざらざらと首筋を這って上掛けを捲り、袷を肌蹴て揉まれる乳房にきゅっと唇を噛んだ伊月は、またくちびるを舐め回す舌から逃れるために顎を引く。柔らかさを堪能するように、胸元のまろやかなラインを乱暴に揉み込む動作は痛くて、伊月は身を捩る。声が出せない。口を開けたら入ってくる。顔も知らない男の体が。
瞬間、びりっ、と背筋を食んだ衝撃は、乳首を引っ掻かれたそれだ。
「ん、んん!」
ねっとりと肌に貼り付く唾液に、嫌悪感から鳥肌が立つ。
きたない、きもちわるい、こわい、たすけて。
こりこりと弄られる乳首に気持ち悪くて、身をくねらせたのが男には誘っているようにしか見えなかったらしい、下肢に伸ばされる指に、涙が落ちそうになって、目を閉じた。ずりっと押し付けられた男の熱に、ひっと喉が震えた。
「誰だ貴様ァ!!」
ガッシャン、と几帳台が倒れる音がして、のし掛かる重みが消えた。
「あ、アレックス、さ・・・!」
「本当は!私なんかに!仕事がないのが!良いんだけど!!?」
「アレックス、ころさない程度に。後でタイガに迎えに来させるから。」
最近増えてるんだよね、ああいうの、と伊月の衣装を整えてくれたのは氷室のたつ姫で、方違えでたまたま伊月の屋敷にいたのは好運だろう、最近良家の姫君を狙った一夜の男がいるという噂は警戒に値する程被害が多かった。未婚既婚問わずだが、基本的に婚儀を控えた姫を狙うことが多かったために、折角だとばかりにたつ姫の護衛であるアレックスが水干姿で屋敷内を警備してくれていた。
「わし姫、大丈夫?」
「こ、こわ、こわかった・・・っ!」
「大丈夫。もう大丈夫。タイガが今夜は宿直だった筈だ。すぐに検非違使に引き渡す。手水を!」
たつ姫はぎゅっとわし姫を抱き締めて、舎人が照らす松明から火を貰って灯台に火を灯す。
「気持ち悪かったろ?身体拭いて、忘れて寝ちゃおう?ね。」
女房達が倒された几帳を新しいものと入れ替えて二人を囲う。ばしゃりと水を被ったわし姫に女房は目を丸くしたが、男はアレックスに首根っ子を掴まれ引きずられて行った。
「こわかった・・・順平・・・っ!」
衣を握る手は関節が白くなるまで握り込まれてあるのにかたかたと震えてあって、白い顔は真っ青で、かちかちと震えが止まっていない。冷たい水のせいだけではない。
「誰か、日向の中将に連絡してくれる?文だけでも寄越して貰えれば違うと思う。どう?」
最後の疑問符は伊月に向けられたもので、すっかり蹲った彼女はちいさく肯首するだけだった。
予想に反したのは日向の行動で、文でも言伝でも何でもなく、夜道を馬丁が引き止める前に駆け抜け、勝手知ったるとばかりに厩に馬を預け、そのまま伊月の部屋にやってきた。きてくれた。
「伊月!」
「ひゅ、・・・っが!」
あちこち舐められた場所は特に念入りに洗って、髪だって半分程重くなってしまった伊月はそのまま、日向に向かって立ち上がろうとして、そのまま制された。正しくは、腰が抜けて立てなかったのをたつ姫が助けた。
まあ日向さまお騒がせを、わし姫さま無理をなさらないで、と女房の声は無視して、いつもの調子で真っ直ぐにわし姫を見た日向にたつ姫は肩を竦め、手を叩き合わせると、アレックスに指示。火神からの先触れが来た。
「わし姫、日向に言い難いことだったら遠慮なく言って。」
「ありがとう・・・。」
ゆるゆるとたつ姫の衣を握っていた手を解き、わし姫は呟くように言った。
「大丈夫か、伊月。」
言葉に気をつけないところすよ、と下がり目尻に眼光が光ったのに日向は息を呑んだが、そっと手を述べその細い肩に指先を落とすと、びくりと怯えた視線を向けられ目を見開いた。
「い、づき?」
「ま、待って。さわんないで。俺今、汚い、カラ!」
自分の行動に動揺した声音は最後に引っくり返ってどこか痛ましかった。
「下がって貰っていっすか。」
わし姫の女房にそう告げた彼は、膝を褥に下ろし、彼女の肩を抱いて抱き寄せた。
「洗ったんだろう?こんな時間に苦労して。大丈夫。伊月は綺麗だ。」
安心させるように肩を叩いて、心臓の音が聞こえるように抱き竦める。女房達は頭を下げるとそろそろと下がって行った。灯台の淡い光の中で、二人は暫く口を開かなかった。
「・・・落ち着いたか。」
そう、日向が尋ねれば、こくんとちいさく頷いた伊月は、ぎゅっと握りしめていた胸元から力を抜いた。
「ひゅーが、ぁ・・・!」
そのままぽろぽろと涙を狩衣に吸わせて、こわかった、と続ける。
色々言いたいし言わなければいけないのに、纏まらなくて口から零れるのは嗚咽ばかりで、彼女は切ないという感情を噛み締める。だって目の前に日向がいて、日向が抱き締めてくれて、剰え真夜中に駆け付けてくれた。
「ひゅうが・・・。」
甘えるように呼ばれて、その身体を抱く腕に力を込めると、耳元に微かに涙に滲む笑声が聞こえた。
「日向の手、あったかい。」
「・・・そうか。」
「うん、あったかい。」
湯を炊く時間も惜しくて水を被って拭いた身体は、いつもの冷たい手から更に体温を奪ってあって、明日からの三日間のために椿油で磨き上げた黒髪はきらきらと水滴が光っている。
「俊、他に寒いところは?」
「ん、手ぇ冷えた・・・あと肩。と、胸元。冷たい。」
「水被ってんだぞ。当然じゃねーか。」
「だって気持ち悪かった・・・。」
ちゅ、っと軽い音で合わさったくちびるに伊月の目が大きく見開かれる。
「ここまでつめてーよ。」
「え?っと・・・!?」
流石に何が起こったか理解して、ひゅっと喉が鳴った。ちゅ、ちゅ、っと小鳥の囀りのように涙の跡の残る頬とこめかみに、くちびるに。
「んく!」
噛み締められる唇に、いやか、と日向が囁いた。
「っ。」
ふあ、と泣きそうな声でちいさく開く淡く色が戻ったくちびるに、少し長い口吻け。薄い舌が逃げるので、後頭部に指を差し込み引き寄せ、ぐいと絡めて吸った。
「んあ。」
ふるりと揺れた痩身は、飲み下せなかった唾液に頬を赤らめ、それを舐め取った日向に怯えるように身体を離した。
「無理か。」
「・・・び、吃驚、した・・・。」
「大丈夫か?」
「・・・だ、だいじょう、ぶ。」
「まずかったら言え。」
それってどういうこと、と問いかけた切れ長のうつくしい目に浮かぶ涙を掬い、もう一度唇を交わす。ちゅるりと響いた水音に、長い睫毛が瞬かれ、日向は目を細めてそのまま閉じた。
「んっ、・・・んー・・・。」
くたりと褥に落ちた白い手を取って絡めて、首筋と袷から微かに覗いた鎖骨。はあっ、と甘い呼吸を零して艶やかに横たわった女のまろやかな体に、つんと主張する赤みを見つけてそっと指先に触れるとびくり、その身体は揺れ、ぎゅっと手を握り返す。
「いや、だった・・・。」
「俊。」
「順平以外に触られるの、嫌だったぁ!」
決壊した涙腺からぼろぼろと涙を零し、伊月の細い腕は日向の首に回る。
「忘れさせて、やろうか。」
「え・・・。」
「どうされたい。」
ひくん、と嗚咽を漏らしたくちびるに指を添わせてなぞる。ぴくん、と肩がちいさく揺れて、あつい、と呟いた。
「順平の手、熱い、ね。」
「お前が冷たいんだよ、ダアホ。」
「ふにゃっ。」
膨らみの片方をぎゅっと握りこめば、衝撃に耐えられなかった声が上がった。
「な、なんか、へん。い、痛い・・・?」
「さぁな?」
衣の中のそれをきゅっと摘ままれて、んっ、と伊月の喉が反る。
「そこ、痒い・・・っ。」
「もっと掻くか?」
「ひ、ぃんっ!」
夜着の中に滑り込んだ熱い手は、かり、と充血を始めるそれを掻いた。抓んで引っ張れば、刺激の度に伊月は息を詰め、握り合ったその手にきゅっきゅと力を込める。
「あつ、い。」
「どうした?」
蕩けた呼吸に日向を見上げ、擦り合わせた膝は無意識だろうか、さらりと流れた髪に指を通して、汗が浮いた額に口付けた。
「俊?どうした?」
「熱い、んだ。・・・んっ。」
う、とちいさく甘くも呻いて捩った身体の奥で、ちゃくりと水音がした。うそ、と小さく叫んで、自ら足の間を曝け出した伊月の指先は日向が止めた。
「熱い?ここが?」
「待って、月の・・・。」
「それが終わったから明日からの予定なんだろうが、ダアホ。」
どこまで知っているのか、と思わず笑いそうになったが、ちょっと待ってろ、なんて言い置いてその蜜壺の周囲をなぞる。
ぶるりと大きく肩を震わせ、あまい呼吸を荒らした彼女は眉を寄せて、とろりと這った男の指先にぎゅうっと手を結ぶ。
「痛いか。」
「・・・っ!く、んー!」
一直線に脳に来た刺激に背が反って、ぷるりと乳房が夜着から零れた。
「っあ、な、なにこ、れ!じゅんぺ、ちょっあ、あ、あ!」
愛液を絡めた指先が掠ったそれに、腰が跳ねて、刺激に勃ちあがりつつある幼い性器を擦れば悲鳴が立て続けに上がった。こぷんと中から押し出されてきた粘液にまた擽った。
「ま、・・・て・・・ぇっ。それ、あっ、や・・・っ、ん!」
擦って撫でて、くにと揉んだ瞬間、脚が蹴り上がった。抑え付けることはせず、露わになった脹ら脛をじっくりと舐めてやった。香と肌と汗が薫って、日向は帯を解く。
「俊。」
呼んで、赤い舌を食んで、握り合っていた手を背に回させ、とろとろに融けた目尻から伝う涙を拭う。
「大丈夫か、俊?」
「っ、順平、俺、おかしい・・・。」
「気持ち良くはなかったか?」
「きもち、い?」
なんつーかな、とこつりと額を合わせて、混じる汗がどこか倖せだった。
「なんか、へん、に、なった。」
「そうかよ。ところでお前は痛いのは平気か。」
「え、平気なわけないじゃん・・・?」
呼吸の香りは未だに甘い。ぬりっと秘所を掠ったそれに、ぴくりと絡んだ腕が震えた。
「痛かったら、止めて欲しかったら言え。言えなかったら爪立てろ。」
ここ、と細い指が絡む首筋をとんと弾いて、あ、と声を零した伊月の顔を覗き込む。その入口は亀頭を飲み込み、うく、と苦しそうに喘ぐ貌にまた質量を増した。
ぬるりぬるりと茎を、腫れた筋を擦って結局肉棒を収めてしまった。
「おい、俊、大丈夫か。」
「しんじ、らんなっ。あっ。」
これ今日することじゃないじゃん、なんて呻いた伊月は、一応知識としては知っていたらしい。きりきりとその爪先で首筋を引っ掻いて赤く歪な線を残した。
「あ、ぅ、うごか、ないで・・・っ!」
「おま、痛い。痛いのか?」
「い、ぃた、くは、あんまり・・・っ。でも、くるしっ・・・ぃ?」
「そりゃ、俺入ってんだし。」
「ほかにっ、いい、かた・・・ぁ!」
びく!とやわらかな細腰が揺れ、ふあ、と高く鋭い嬌声。
「あっ、あ!じゅんぺい、だ、めー!」
縋られた肩に食い込んだ指先が、揺れた腰に押し付けられる感触と、うねった内壁に、持って行かれそうになる。
「どうした、おい。」
「いや、らめ。おかし、おれ、おかしいっ!」
ぎゅうっ、と引き絞るような中を振り切って、突き入れれば忽ち甘い悲鳴が上がって、ぴんと弾いた乳首にいやと叫んだ女を放っておけようか。どうせ明日からは自分の妻だと割り切れば早かった。ごつりと奥を叩けば蠢く膣壁が歓喜に絡み、んぅ、と喉を鳴らして伊月は啼いた。
「あっ、は、んぁ!んっ。あぁ、じゅんぺ、ぃ、まって、へんなの、くる!」
「なあ、俺のもんにしていい?」
「ひっぃ、ん!順平!あたま、おかしく、なっちゃ・・・!」
「なあ、俊っ!」
「っして・・・!」
生まれて初めての快楽に翻弄され、どっ、と胎の中に注がれた熱に伊月はぎゅっと日向の首に回る腕に力を込め、ぽろぽろと涙を零してままならない呼吸に口吻けを求める。
「じゅんぺ、い。・・・順平・・・!」
「おう?」
「・・・すき。」
少しだけ、言葉を選んだ素振りを見せたが、そのまま、彼女は告げた。
「明日、もう一回言ってくれ。」
「・・・ん。」
不満そうに膨らんだ頬を突ついてやれば、ぷすーと空気が抜ける。
「このままいるか?落ち着いたか?」
「女の準備、盗み見るとか・・・ふ、ぁっ。」
ごぽっ、と引き抜かれたそれには確かに赤い筋が絡んであって、さっくりと身なりを整えて、日向は褥から起き上がってしまう。
「さいあく・・・余韻とか・・・。」
「そういうのは明日から。」
フライングしちまった、なんて頭を抱える男の背中、首筋に歪な赤のライン。伊月は裾と袷を整えて上掛けを羽織って隠した身体の内腿を、伝う気配が夢でないのに実感して、こっそりと笑う。
「ね、ひゅーが?心臓の音が煩くって眠れない。」
おー奇遇だな、なんて日向は後ろ頭を掻いた。
「俺もだ。」
成る程知らせ一番に来たわけだ。
翌朝、筒井筒で夫婦になるはずの二人が、まるで子供の頃に戻ったように同じ褥で手を繋いでぐっすりと、恥も外聞もなく眠る姿が氷室のたつ姫に目撃される。
「こいつらって結婚してもしなくても同じじゃない?」

ごもっともでございます、氷室のたつ姫さま。
とは、わし姫付きの女房たちの声に出さない本音である。

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なんていうかもう・・・すいません!モブ月無理やりあります苦手な方は見ちゃダメです!!方違えってどうやるんでしたっけ?(調べ直せよ!(そんな気力ねーよ!!*というわけで間違った知識いっぱいですから!!個人的には赤司と黒子の話とか描きたいんだけど肝心の黒子の通り名が思いつかないっていうねーwwwあと、今月の場合は開発しまくるけど日月の場合は最初っから体の相性ばっちりだと萌える。私が。お前がな。表紙はまたもや novel/1369105と同じく user/571533さまからお借りして文字入れさせて頂きました。タイトル弄りました。・・・なんか直接的すぎるけどこのタイトルwwwまあいっか!!■素敵タグありがとうございます!!パラレルばっかですね次は何のパラレル描きましょうねw

2012年09月07日 02:39初出。

もうなにもいうまい。

20121115masai