| くれないの襲に椿油で磨き上げた真っ黒な長い髪を、さらりと掬い上げた男の無骨な手が、我慢、出来なかった。 それは恋のお話。 「で、夜這い男を蹴り飛ばした、と。鷲姫、嫁き遅れるぞ。」 御簾の向こうに扇を口元にやって、むっつりと黙る伊月家の鷲姫と呼ばれる少女に、筒井筒の仲、日向順平はすっかり呆れ果てた様子で侍女が用意してくれた菓子を齧る。 「いいか、想像しろよ、日向。誰とも知らない、歌をひとつ交わしたくらいの顔も知らない男に、髪を漉かれて口付けられて、首ってのは人体急所なんだぞ。そんなとこ舐められて着物ん中弄られて・・・。」 「わるっ、悪かった止めて!止めてください!!」 ひゅーがのばか、なんて御簾を挟んだ仲になっても、その雰囲気は穏やかで、黄瀬のすず姫とは系統は違えどもその美貌は宮中での評判は一二を争う伊月の姫君は、幼い頃は日向家や木吉家の嫡男と庭を駆け回っていたという環境のせいか、割りと屋敷の中で大人しく琴を弾いているより舎人や女の童を巻き込んで騒ぐほうが性に合う、なんて公言して憚らない。 そのくせ、筆を持たせれば漢字も平仮名もうつくしく操って、歌の合わせは緑間のさな姫と腕を競うほど。 普段は宮中で奥を仕切る手伝いなんかをしているが、たまの宿下がりにはこんな感じだ。 初秋の庭には手入れの行き届いた季節の花々が美しくも華美にならぬ様子が伊月自身のようで、日向には好ましい。 「木吉呼ぶ?今夜は星が見事だよ。一緒に星見酒とか。」 日向の所作に、そんな言葉を気軽に寄越すのが伊月の好ましいところだと、彼は思う。彼女はどうも、周囲に意識を配るのが上手い。頼れる先輩女官にも、迷う後輩女官にも、そうやって手を差し伸べて行くのだから、彼女を慕うひとは少なくないし、またそこから評判を呼んで、伊月の鷲姫は、と男共の口の端にも上がる。 伊月は可愛くて良い奴だぞ、なんて、下心満載の輩に木吉は天然ボケを炸裂させてくれるものだから、また今朝のような不機嫌なお姫さまが出来上がる。折角の宿下がりを夜這いに邪魔をされた彼女は、ぷくりと頬を膨らます。 「そうだな、木吉と、水戸部にも声掛けてみるか。コガが来れたらいいな。」 小金井の末の姫と伊月は仲が良い。その黒目勝ちの切れ長の目を瞬かせ、きらり、輝いた瞳は、破顔する。 「土田は奥さん命だもんなぁ、来てくれるかな。土田の北の方とは文の遣り取りしかしたことないんだ!あ、火神は元気?黒子のと上手にやってる?さな姫は仕事で無理か。笠松さんは?すず姫がそろそろ我慢できなさそう。」 ふふと、どこか企むように笑った伊月に日向も笑った。どうやら気は紛れてくれたらしい。声はかけてみるけど都合重なったらどうする、と問えば、物忌みにでもなってやるさ、なんて不良な発言が帰ってきて、また笑ってしまった。 きょと、と伊月が扇の向こうで視線を巡らせた気配に、つうと一筋の汗が背を降りる。 「きて。」 その桜色の爪を持つ白魚の指先が御簾の下に泳ぐ。それを日向の指先が捉えてやるのがいつものことだ。こうしないと、拗ねる。 「邪魔、するぞ。」 「どうぞ。」 本来控えている侍女を下がらせた伊月は日向が御簾のこちらに来たことに花が綻ぶように笑みを浮かべ、するりと絡んだ指先に、薄い皮膚をとくりと心音が弾く。 「早く、上がって来い。」 その、真っ直ぐな声音に、戦慄っとする。 伊月家は大臣家に次ぐ名家だ。日向の母親は、その乳母をしていた繋がりが今でもこんな風に二人を繋ぐだけで、日向の官位は実のところ伊月と比べればまだ低い。日向本人の気性は荒いほうではない。しかし、出世欲が低すぎる。木吉は何だかんだと順調に官位を上げているが、日向自身は後輩の育成に手一杯で自分の出世にまで手が回らないらしい。というのが、現在日向と同じく武官を務める土田の見解だ。 日向は決めている。 自分の肩書きが追いつくまで、と。 「早くしないと、木吉に嫁ぐよ、俺。」 「そんな話出てんのか。」 「花宮がゆってた。」 ぎ、っと甲に刺された爪に、日向は眉を寄せる。 「赤司はまだ、様子見だって、文を寄越したよ。好い加減にしてよ、日向。」 早くしないと俺が誰のものになるかなんて俺にもわかんないよ。 潤んだ声音に、そっと肩を抱いて、抱き込んで、鈴が鳴るようにうつくしい黒髪が衣の上を滑る。ちいさな頭を何度も撫ぜて、しゃくりあげるように跳ねた肩を、強く、強く抱きしめる。 「おめーは、さ。」 はぁ、と溜息に、伊月の肩が怯えるように震えたが、ぎゅっと日向の狩衣に縋り、ひくんと喉を鳴らした。 「ひゅーがの、ばか。」 ******* 「・・・あ。」 んー?と身を捩れば、がっちりと腰を抱かれて身動きが取れない不満を、目の前の胸板に爪を立てることで訴えた。 「順平?」 「いってーな。」 目元を眇めた彼に、ふふと伊月は笑った。 「懐かしい、夢、見た。」 「・・・夢?」 ふふと、笑う口元をなぞれば、ふにとやわらかな感触が返ってくる。これは夢じゃない。 「俊?」 「・・・わすれた。もったいない。ひゅーが、かわいかった。」 とろとろと、微睡みにとろける声音に口付けて、ぱちん、と長い睫毛に頬を擽られた。くすりと零れ落ちてきた笑い声に伊月が小首を傾げると、額にぷちゅっと唇を押し付けられた。 「ん。」 黒々と、相変わらず京一の美しさを誇る黒髪を梳いて、耳朶に軽く歯を立てると、肢体が細く震える。食らうように口の中で舐め、吸って、甘く噛むと胸元を弱く震えながら押す、華奢な手がある。桜色の爪に白魚の指。絡め取って、甲を撫ぜて、恍惚に染まる頬を撫ぜてやれば、ほうっとあつい息が零れる。 「俊、可愛い。」 「ん、ちょっと・・・。」 寝巻きの中を探る指先は、的確に柔らかな膨らみをなぞって、そのてっぺんは丹念に濡らされる。 「・・・あっ、やめ、っ。」 きゅっと抓られたもう片方に、ぶるりと白い肌は揺れ、細い足は褥を蹴った。 「いい格好。」 てらてらと滑る胸元を肌蹴る単衣の帯を解き、細くて白い脚の間に日向は割って入った。 「ちょ、ちょっと・・・?」 「煽ったのは俊。」 「せっ、責任転嫁甚だしっ・・・。」 存分に湿った淡い繁みの向こうにある筋を指先がなぞり、割開く。つんと可愛らしくも淫らに勃起した陰核を摘ままれて伊月は喉を仰け反らせて言葉を失う。 「濡れてるか。」 ちぷ・・・っ、と入り込んだ中指が熱い内壁を撫ぜて確かめ、親指が核をくんにゃりと押し潰す。 「きゃ、あっ、あは・・・んっ!」 強すぎた性感に一度昇り詰め、浅い呼吸で男を呼んだ彼女は、その硬い髪が下腹に触れるので思わず上体を起こして逃げにかかりそうになるが、まず肘に力が入らなかった。 「ん!ぅん、んー!」 溢れた粘液を啜る音に薄い皮膚が燃え上がるように感じ、ぴくん、ぴくりと命令系統のしんだ身体が痙攣を繰り返す。 「・・・っは。」 「ばかぁ・・・っ。」 「これ、好きだろ?」 「蹴り潰すぅう。」 「本気で蹴り潰したら困るのお前な?」 くつくつと低くに笑った日向の手は、伊月の想いを汲んだかにまた絡め、白い肌を食い尽くすように舐めた。 「あ、ん。」 この、むず痒いような、優しい愛撫が伊月は好きだった。日向は時折出世に貪欲になった反動で一定条件の下、人格が変わるようになったが、本質はいつだって、幼い頃から一緒に遊んだ、優しくて頼れる日向順平でしかなくて。 「すき。」 「知ってるよ、ダアホ。」 ちゅ、ちゅっ、と囀るように口付けを繰り返し、すっかり飲み込むのが遅れた唾液にどろどろになった口で、深く交わった。 「は、ぷ。」 「・・・ん、挿れるぞ。」 「んっ、ぅ。」 ぬるり、亀頭が女陰を嘗めた熱さに伊月は堪らず声を漏らし、きゅ、っと日向の肩に縋った。ぬち、ぬちゅりと充分過ぎる程に濡れたそこに挿入される熱量に、あ、とあえやかな声を漏らし、くるりと血が動く。 「あ、じゅんぺ、はや、もっと、ゆっく、り・・・っあ。」 ずっぷりと貫かれた真っ白な体を日向の大きな手のひらが撫ぜて、くんと突き上げた。 「あぁ、ん!」 「わかる、か?」 「なっぁ、に・・・?」 細いその手を導いた下腹を、内側から歪に突き上げる形に焦点の怪しかった黒い瞳がぱっと涙を散らした。 「へ、へんた、い!あっ、だめ!」 そのまま、ずるりと抉るような抽送は繰り返され、ぴんと脚が張った。 「わぁった。」 ふ、と熱い吐息を逃し、自分だけの女の腰を抱え直すと、肩に食い込む爪をそのまま、細い背を起こしてやった。自重で奥を突かれ、ひ、っと息を呑んだ伊月の脚が無意識に日向の腰を巻く。 「動いていいぞ。」 「い、ぃや、むり。」 ずくりと腰に溜まる甘い痺れに伊月は日向にしがみつくのが精一杯で、ぞわぞわと背を這う快楽が、中をうねらせ、無意識に腰を押し付けている。 「あのな、確かに気持ちいいんだが、それだけじゃぁ俺がイけねんだよ、ダアホ!」 「いっ、あ!あ、あっ、ああ!」 下から突き上げられた衝動に、黒くうつくしい髪は乱れ、一番恋しい香りがする首筋に伊月は顔を埋める。 「ひあっ!」 局部から、只管淫らな水音と皮膚を叩き合う音と感触に、まず耳から犯される。膚がじわりと侵食されて、ぱっと花開く。 「動き辛い。脚開け、俊。」 あられもない格好と、自分の中に出入りする男根に、伊月は羞恥と快楽に泣きじゃくり、ぼろぼろと、うつくしい涙を流しながら褥に横たわった。 客観的に見ればどんなに滑稽だろう、綽名の由来になったそれを試そうとして、強引に唇を奪われ、ぎゅっと乳首を引っ張られた。 「んっ、ぁん、んむう!?」 「・・・てめ、余所見すんな。」 「あっ、だめ、も、っう、順平、おねがいぃ・・・っ!」 喘ぎに混じっての半ば悲鳴めいた声音の懇願は受け容れられたらしい。にぃっと口の端を吊り上げた日向に、腹中はあつく蠢く。 「もうちょっと、な?」 「あ、あぁ、あんっ!・・・っひ、うあ、あふ、あ!んっ、ぁんーー!!」 強く揺さぶられて眩暈に似た熱がまた涙腺を刺激して、日向はその美しい目元を宥めるように撫ぜてやり、喘ぐ薄い唇から覗く真っ赤な舌を食んだ。強く抱きついてきた細腕は細い肢体がごと幾度も痙攣し、中は男から搾り取ろうと淫らに誘う。 言われなくとも孕ませるつもりだ。日向は腕の中に気を遣った伊月を抱き直し、萎えた自分を取り出した。こぷんと溢れ出た白濁を単衣に受けて、慌てて畳紙で拭った。 「俊。」 返答はまだ。 「俊、好きだ。」 どうしても手に入れたかった、お姫さまは、今は、今でも自分の腕の中。 |
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誕生日おめでとう私!!つってもこの年になったら誕生日は祝う日でもねーですが。前作、閲覧評価ブクマありがとうございます!!ブクマ数が私にとってありえんことになってたので残しときますだから気が弱いんですよ私はもう皆さん追いつめないで!!というわけで折角の誕生日なので暴走した。趣味詰め込んだ。平安時代っぽいパラレルで伊月がお姫さまですつまり伊月先輩含めて数人が先天的女の子です。細かい男女分けは最後のページにちょちょいと妄想っとね!表紙はuser/571533さまにお借りして文字入れさせて頂きました!素敵な表紙台無し感はんぱねぇ!!そんで恒例我が家の俊ちゃん!私に届いた菓子折りの中からロールクッキー(あの、ラングドシャ?をくるって巻いてるアレ。)を大量にくすねて行きました。流石に悪いと思ったのかエ◯ァスナックの未開封をくれました。■他CP〜タグありがとうございます!いいですね、ちょっと描いてみたいです!!特にその二組は波乱に溢れてそうですwww特に木花www氷室さんと花宮の通り名前が決まったら描くかもです!!そう、問題はそこ!本名はままなんですが、平安を下敷きにした以上は女の子には外向きのお名前が必須!何か良いお名前あったら案下さい!切実。ミラージュと火神とひっかけて「かがみ姫」とか?蜘蛛の巣で「雲姫」とか?wwwネーミングセンスはどこで売ってますかー!?■一緒に楽しんで下さいお願いします!w■わ、素敵と言っていただけて嬉しいです!これも自分誕生日に爆発wしたものなので反応頂けると嬉しいです!!(9/19
2012年08月22日 00:42初出を再構成。
自分おめでとう!作品でした。頭のおめでたさが露呈した作品ですw
20121115masai