月夜。

















 
教室で話をする夢だった。
そんな要素は何処にあるのか、拙い世間話に冗談を混じらせて笑い合うような、そんな夢。
目覚めて日向は撃沈した。年頃の男子は多感であるが、そんな中でも五指には入るであろう現象を示す、下着の違和感にだ。
てかあれ誰だ、相田と話してた奴か、とバスケにしか興味のない中学生は考え込んで、朝の教室に踏み込む際に挨拶されてちょっと挙動不審になった。ちょっと日向くん感じ悪いー、と相田のブーイングがあったが、彼女はまあまあと笑っただけだった。
部活動で体育館を使用する女子バスケ部に目を向けると、長く伸ばした艶のある黒髪を高い位置で一つに纏めた彼女は、仲間とパス練習をしながら談笑し、外周に擦れ違った日向にその涼しげな切れ長の目を細めて、汗と柑橘の爽やかな香りを散らして笑った。
何度も何度も夢を見た。毎晩毎晩彼女に会った。
学校の教室であったり、自宅の居間であったり、部屋で、剰えベッドで体を触り合うような不埒な事もした。
罪悪感に押しつぶされそうになりながら、時折相田と何をか真剣に話をしている横顔であったり、視界の端を掠める美しい黒髪に、白い肌に痛いくらいの心臓の音を聞いて、時には休み時間突如トイレに駆け込む羽目になった事だってあった。
勝てなかったバスケは捨てた。女子バスケ部も同じ日に引退式で、その黒曜石みたいな瞳を涙で潤ませながら、勝てなくってごめんなさい、と後輩に頭を下げていた。
「何で謝ったん?」
「俺、眼がいいんだ。」
体育館を出たらタイミングが被って、少しだけ話が出来た。
「リコにも相談乗ってもらって、鍛えたんだけど、なぁ。」
うん、勝てなかった、と俯き加減に彼女はそのまま歩いて行ってしまった。相変わらず艶のある黒髪は柑橘のすっきりとした香りがした。
その夜、初めて夢の中の彼女を抱いた。
そこからは怒濤の受験生として、幼馴染の相田と志望校が一緒なのに呻いたが、それ以外は別段興味の無い、ただ、サイズの合わなくなったバッシュが棄てられなくて未練がましいなぁと、思ったりはしたけれど、そのまま桜の咲いた通知に安堵して、新しい制服に袖を通して、真新しい校舎に通うようになって、ちょっと困った事が幾つかあった。まず、得体の知れない大男にバスケをしていたことが暴露たのと、隣の席の女子がその男の話に妙に乗っかっていた事。
バスケ部志望がちゃくちゃくと集まって、女子マネージャーに猫みたいな奴がバカみたいに喜んで、結局日向は乗せられた。
女子バスケ部は興せる人数が無かったらしい、結局時折邪魔にならない程度にミニゲームに混ざって、その眼でたった三人のチームから穴を見つけて針に糸を通すような的確なパスとゲームメイクは凄まじいの一言に尽きた。
「何で、お前、勝てなかったんだ。」
部活の帰り、相田の作った地獄の練習メニューでぼろぼろになってる身体は彼女の作る氷嚢や水分で帰り際に生き返らせたそれだ。
切れ長の目が、ぱちんっ、と大きく見開かれた。
「お前の眼と技術があったらもっと上狙えただろう。」
「・・・っ。」
ぱしん、と乾いた音に、ブレた視界に日向は絶句し、目の前に一粒の雫が舞ったのだけを、宝石みたいだと、呆然と思った。
赤くなって重くじんじんと腫れる痛みに視線を降ろすと、街灯の下にきらきら耀く黒髪が、するっと肩から落ちた。
さらさら、柑橘の香りと彼女の匂いが混じった香りはなんとも言えなくて、日向は目元が潤んだ。
「すま、ん?」
「これ以上怒らせないで。」
「え、っと、本気で、マジ、気に障った事言ったんなら悪い!」
徐々に増す語気に、彼女はひくんと喉を震わせた。
なんだか雪の中を革靴で走っているような、そんな汗が背を滑っていくのに日向はぎりぎりと苦しい心臓に、止めてくれと酸素を送る。
「ひゅーがは・・・。」
そうやって彼女に舌足らずに呼ばれるのが。
「いいよね、男子は。」
日向は、とても好きで。
「木吉の声掛けで人数も揃った。リコのメニューについてけないから、って同好会も出来た。俺が、・・・ッ!」
震えるちいさな肩からはいつも綺麗な髪が流れていて。
「どんな思いでミニゲームに混ざってるかも、知れないでっ!」
ぴんと伸ばされた背筋から綺麗なうなじを辿って。
「どんなに、絶望してるか、も・・・。」
形の良い後頭部に結ばれる黒髪が。
「何を切望してるかも。」
視界の端を横切るたびに香る柑橘の甘過ぎない香りが。
「何で、・・・男に生まれたかった・・・。」
「好きだ、伊月。」
時間が止まった気がした。

































続くわけがない。

***

男の子に生まれたかった伊月さんの話。もう伊月先輩ならなんでもいい。伊月先輩下さい。ついに吹っ切れたキャプションとか言わないで下さいw伊月先輩欲しいんです

2012年10月20日 23:49

うちの伊月先輩って厭世気味だなぁとw

20121114masai