海の上の絆の物語。
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「あ"ぁつーい!」 甲板を駆け回った声音に彼はことりと視線を落とし、笑った。 「海水でも被ってついでに甲板掃除もやっとけー。」 「え!良いのー!?」 「コガが自力汲み上げて水浴びする分には全然俺は構わない。」 「自力!?伊月酷い!!」 甲板よりも海賊旗に近い、空高くに設置された見張り役は、指笛で大鷲を呼び寄せた。世界で一羽だけの、世界の最後の一羽の大鷲は、彼によく懐いた。専門機間で大事に大事に遺伝子から育てられたそれは、伊月が指笛ひとつで攫って来てしまった。太古時代からの箱舟に乗せられた大鷲は、今日も今日とて伊月の肩に作られた鉤爪台という名の衣類の重ねに降り立つ。猛禽の鋭い鉤爪は、伊月を傷付ける事は絶対にしない。 「だって今月赤字なんだよー?旗掲げたのはいいけど、獲物がとことん寄って来なくなっちゃったんだもん。」 「エンゲル係数半端ないもんなー水戸部!ん?ああ、そろそろメシ?」 『船員連絡っす!』 水戸部が頷いたのと同じくして、船内連絡に張り巡らされた鉄管から声。エンゲル係数上昇原因であり、水戸部の次に料理の腕もある火神の声だ。そして続くように今度は女性の声。こちらは管制室。 『昼食、ローテーションはいつも通り。伊月くん、外はどう?』 「はい、伊月。目測1キロに大型ガレオン。五日前から変化なし。」 『了解よ。私と交代でお昼ね。』 「はーい。」 全く手出しするならさっさとしてくんないかねぇ、なんて綺麗な黒髪を肩口で縛った彼は、さらりとそれを海風に流し、擦り寄ってくる大鷲に目を細めた。 昔は地球温暖化、なんて呼ばれていたらしい、地球氷河期が終わって地球はすっかり変わったらしい。らしい、というのはそれは書物の中でしか語られない話だからだ。地殻には多くの罅があり、その隙を海水は見逃さずに飲み込み、水の星の人類は多くの地殻変動から地軸移動から助かった、僅かな陸地と海軍が管理する海上300m、海中20kmの特殊施設に住んでいる。 「ん?」 ちかり、視界の端に揺れた光に、今日とて安定していない羅針盤を確認する。方角が正解することは稀だが、立体的に組み上がったそれは影の角度で時刻が確認出来る。 にぃ、っと。その秀麗な美貌は口角を吊り上げ、好戦的に笑った。 「来るよ、カントク。」 『降旗くんの読み勝ち!働いて来いよ野郎共!』 おお、っと船内の声に伊月は長い黒髪を結い上げる。高い位置で纏めて編み込むと、上がった肩に大鷲が不満そうに周りを飛び回った。 「仕事だぞ、相棒。」 デザートイーグルの照準は、髑髏の横顔を描いた海賊旗。 「誠凛、行くぞ!」 タン、と上空に響き渡った銃声は、肉眼で旧式拳銃とは思えない正確さで旗の真ん中を撃ち抜き、向かって来ていた砲弾は、福田が機械の巻き取りから奪った錨を宙に回せて撃ち落とす。急速な取り舵に掛かるGは各々近くにある壁や床にしがみつきながらも軽く走って、頭上に梯子を使わず革手袋とワイヤーで滑り降りた伊月を受け止めようと手を延ばしたのは船長の日向で、しっかりと腕が腰を掴んで固定してくれてあるのに、着地を待たず、もう一度発砲。 「二撃、来ます!」 「ツッチ、近付けて!」 「ああもう!こっちが遠距離苦手だと思いやがって!本当だけど!」 「向こうの船籍まだか!?」 「船号、確認出来ません。パターンはイエローなので無断船舶使用には違いないです。」 「つまりは同業者、って事だろ!」 管制室からの声に木吉が笑えば、まあそうですけど、と黒子も苦笑気味に応じた。 「伊月は見える?」 「ちょ、無茶ぶりすんなよー。頭文字のSWしか読み取れない。」 「読めてんじゃん!」 腰にじゃらりとマガジンを巻いた小金井は一つを予備と称して伊月に投げた。向こうは逃げる。こちらは追う。疲弊させてから奪う算段なのだろうが、と管制室で相田はにんまりと笑う。 「甘いぞ、SWとやら!」 船内の全電力出力変換、と操縦プログラムを変更。船尾にあるエンジンが一度静まり返る。各々が身構えたのをしっかりと確認して、キーオープン。遠くから見ると、一瞬船が飛ぶようにも見えるらしい。ピィ、と鋭い指笛に大鷲が高く高く舞い上がって、船を追ってくる。 「怪我すんなよ!」 「おうよ!」 鋭いGと疾風の中、彼等は何時の間にか相手方の船の甲板にいた。ブーツの踵が綺麗な音を弾いた、なかなかに上等な広い甲板は、怒涛の人並みに荒れた。 「っらぁ!」 明らかに骨が折れた音は火神の力技だ。遠くで上がっている悲鳴は黒子の影に気付けなかった哀れなひとかげ。 「ターン、C-3・00。木吉、ひゅーが!」 「鬼かお前は!」 「伊月は人間だぞ、日向!」 「知っとるわダアホ!」 言いながら、日向は背中のホルダーからコルト、肩口からワルサーを構え、木吉が拳を構えるとその手の甲からは鋭く刃が生える。前衛で構えたひとりの膝を伊月は撃ち抜き、その発砲音が合図のように甲板は乱戦に飲まれた。背後も見ずにその照準は合わされ、見事に関節を撃ち、木吉と日向の後姿を見送り伊月が向かうのは操舵室。甲板の人出から、即座に弱点を見抜いた彼は、予想通り操舵室に一人残っているプログラマーのこめかみに銃口を突き付け、血みどろの海に生きる男とは思えぬ程美麗に嗤う。 「俺に逆らうのと俺に従うの、選んでいいよ?《銀薔薇》や《赤海の欠帝》やに比べれば全然、まーったく優しいだろう?」 そんな、宣告をしながら。オートにされていた操舵はギアが落とされ、プログラムは警告音を鳴らせるとストップした。 「伊月!」 「お疲れ、コガ。操舵室占拠完了。作戦終了。カントク、音声届いてる?」 『あら、早かったわねー。こっちもハック完了。日向くん達がころし過ぎない内に水と食糧と、うーん、運が悪かったわね。金品、賞金首も貰って行くわね。』 えげつねー、と小金井は苦笑気味に、甲板に戻って、伊月も続く。 「俺の名前を知ってるなら、それは無駄な足掻きだって、判るよな?」 靴底に隠してあったナイフを探ろうと屈んだ男に、その美しい黒髪の男は振り返らずに笑った。 「はる!おいでー!」 指笛を合図に降り立った大鷲は、そのかいなでうっとりと目を細め、顔写真を照合して回っている仲間に、花のように笑った。
以下設定?《》は二つ名です。厨二と笑うが良い。だ●みつっぽく。 《不主の大鷲》伊月俊。 元海軍中佐。作戦斑。因みに作戦名C-3の00は作戦計画者が重要を叩きに動くから他は殲滅に当たれの意。髪の毛は腰にかかるくらい。願掛けとはいえ伸ばし過ぎたなぁ、とか思ってる。 《アンインストールクラッチ》日向順平。 元海軍中佐。遠距離狙撃斑。海賊になってからはもっぱら2丁拳銃装備。一応船長。ヘタレ。 《マインド・アイアン》木吉鉄平。 元海軍特別大佐。作戦斑だが白兵参戦のが好きだった。海賊《誠凛》創始者。《マインド・バッド》に膝やられた後遺症引き摺りながらもなんだかんだ楽しそう。天然。 《ファイアタイガー》火神大我。 元海軍少佐。戦闘斑。軍では特に後ろ盾も導き手もおらず燻ってた。 《カゲロウ》黒子テツヤ。 元海軍特別中佐。赤司斑。暗殺系とゆで卵なら負けません。 《狼少女》相田リコ。 元海軍大将の娘で元海軍中佐。軍学校教授とかしてた。カントク呼びはその名残り。機械弄り大好き。人間育成もっと好き。副船長。景虎さんは軍引退後、リコちゃんからの便りのためだけに心血を注ぐ。 《海猫》小金井慎二。 元海軍中佐。戦闘斑。何でも出来るしやるけどイチバンにはなれない器用貧乏。 《凪の嵐》水戸部凛之助。 元海軍中佐。戦闘斑。弟妹は海軍の生活保護施設。 《回生マリオネット》土田聡史。 元海軍中佐。戦闘斑。《誠凛》唯一の妻帯者。軍の保護施設にはちょくちょく帰ってる。もうすぐ一児の父。 トリオは民間から。 海賊集団《誠凛》。 中型ガレオン船で生活する、元海軍人が作った海賊集団。短期白兵戦を得意とした精鋭であったため、一気に名を上げ、去年クーデターのあった海軍からはいろんな意味で特別視されている。 結構最近に黒子テツヤ、火神大我をはじめ、腕に覚えのある奴だったり偶然出会ったりで(降旗曰く「ぶっちゃけ終わったと思った。」)新メンバー加入。更にわんこ(テツヤ二号)も増えた。因みに伊月が飼ってる大鷲の名前は「はるいちばん」。由来は昔日本という島国で春の訪れに吹いた突風。 割りとのどかーに海にぷかぷかしてる。 元海軍赤司斑。通称《キセキ》。 クーデターの際に解体されてもう無い。メンバーもあっちこっち散らばった。作戦斑、戦闘斑、狙撃斑、遠距離狙撃斑、解析班、その他と所属合計は表向き六人だったが、黄瀬が配属される前に追い出された灰崎とか、暗殺斑な黒子だったり割りとミステリー。赤司斑というのは統制してた赤司征十郎君からもちろんのこと。キセキと呼び始めたのは誰だかわかんない。 わっふるだったら伊月受け中心の赤月着地で行くんだろうなーと思ってるw 世界観としては、本文で触ってるように遠未来の海の上のお話です。 以下、セリフのみ抜粋。 「《不主の大鷲》、ね。捕まえ甲斐ありそうじゃね?」 「まさか、《アンインストールクラッチ》とはあの男・・・。」 「借りを返すぜ、《マインド・アイアン》。」 「やっぱ実物見ないと駄目だわ俺。俺の天使の邪魔する奴は、炎の虎でも流してやるっての。」 「懐かしい顔だ、黒子テツヤ。」 「ほな、一戦やっとこや、折角やし。」 「・・・104号、が、生きて・・・!」 「その名を知るなら、喋らないほうが賢明かもね?」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー海賊綺譚・開幕? |
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初出:2013年2月12日 02:47
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時間軸はテニプリと同じころですね。黒バスでの海賊ものの題材は「ループ」なので、黒バスの中で狭く、おお振りまで広く、物語脳内展開させて独りで遊んでましたw
2011203masai