| 俺がバスケを好きになった理由を思い出せないように。 |
ぼくたちはうまれた。 |
| 部活帰りに寄ったマジバで黒子の名前が呼ばれたので振り返ると、赤いカチューシャの鷹の目が笑っていた。 「奇遇ですね。」 黒子はいつものように淡々と返し、あっち、と指差された席には緑間が確認できた。 「折角だし、火神もどーよ。つかあいっかーらずスゲー量!」 けらけら笑いまくる高尾に、半ば強引に席を進められ緑間も視線を寄越すので、座るしかねーか、と火神は腹を括ってバーガーの山をテーブルに置いた。 「あまり・・・感心しないのだよ。」 「だって日本のってちーせー・・・。」 小さい、という単語に黒子の手刀が脇腹にめり込んで、また低い沸点で笑い声が出た。この間の試合の後といい、こいつは物理的な視野の広さでなんだかんだ楽しんで他人を転がして生きてきたんだろう。火神は、伊月が中学時代に物の見え方が他人と違う事で悩んだという話をふと思い出した。 「8月2日は火神の誕生日なのだよ。」 「え、そなの!おめっとさん!」 「あ、プレゼント持ってこようと思ってたのに・・・。」 明日渡します、と黒子は呟いて。 「お誕生日、おめでとうございます。」 ぺこん、と丁寧にお辞儀をして、またシェイクに戻ろうとして。 「緑間くんも、おめでとうって言いたいみたいです。」 「な!」 「ツンとデレの対比は大事だよね、テっちゃん。」 「ですよね、高尾くん。」 なんでなにを分かりあってんだ、と火神が首を傾げたので、また高尾は吹き出し、黒子はふふと口元に手をやった。この二人はよく似ている。パスを捌くポジショニングとエースを立てる立ち位置だろう。同族嫌悪な出会いだったらしいが、黒子の来るもの拒まず、というか辿り着くまでが大変な影の薄さを除けば黒子は目に見える嫌悪を示さないし、高尾に至っては社交スキルが高く、広く浅くそして楽しく精神で、何時の間にやら何気に気が合う。 「そもそも!つんでれとやらに祝われても嬉しくねーし!」 「火神くんは熱血なクーデレだと思ってましたが。」 「俺はキセキたらしだと思ってた。あ、テっちゃんはキセキホイホイね?」 「そんな役職いらないです。」 「因みに俺は真ちゃんの相棒!どやっ!」 「どやっ!とか言わないで下さい。それを言うなら僕は火神くんの影です。」 そもそもどやと言うのは犯罪者が隠れやすい簡易宿などを意味する放送自粛用語で云々かんぬん。どうだって意味の関西弁を関西のテレビ局のニュース番組発信でドヤ顏って云々かんぬん。お前らが何の話をしているのか俺にはさっぱりなのだよ。そう言えばこの間の教えてもらった本が面白くてあの作家さんの云々かんぬん。本の趣味だけは合うなそれなら云々かんぬん。お前ら仲いいな、と火神は呟き、まぁね、と笑ったのはやっぱり高尾だ。緑間が徐に立ち上がり、いてらー、なんて高尾が手を振れば、やかましいのだよ、と一蹴された。 「だうー、とか泣いてみよっかなー某キセリョみたいに。」 「残念ですね、高尾くんも黙って座っていればジャニーズも真っ青でしょう。」 「黙っては兎も角座る限定?」 「ヒントは腰の位置です。」 「ちょ、真ちゃんと比べるのやめてー。身長的な意味でー!」 「何を言います。僕は中学時代からこちら、相手を見れば首が痛くなり、顎置き場にされ、撫でられですよ、嬉しくない。」 「あ、ジャニで思いだした。バク転出来るよ俺。」 「もう事務所に履歴書送ればいいと思います。」 そんな応酬を聞きながら、火神は通常通りバーガーを齧り、やっぱ足んねー冷蔵庫に肉あったっけ、と考えながら手元を見れば、ころんと一つが転がってきた。確かに残り一つだったそれが、今は仲良く二つ並んでいる。そして、それを見る火神の視線を遮ったのは野菜ジュースのパックだ。 「あ?」 「やるのだよ。物足りなさそうだからな。それから、野菜も採れ。」 「んお、thank.」 「My pleasure.」 ぱちん、と緑間曰くの何を考えているのか分からない瞳は、一度大きく瞬いた。 「あの作家の真髄は、ミステリーに見せかけて根底は人間ドラマなのだよ。」 「あ、ええ。そうですね。安易な三本柱ではなく、肉肉していた噛みごたえがありました。」 「テっちゃん本食うのかよ!」 レベルたっけぇ!なんて笑いながら、高尾は緑間に百円玉を渡しているので、これはこの二人からの心ばかりのプレゼントだと思っていいのだろうかと思いつつ。 「じゃあ、遠慮無く戴くわ。」 イタダキマス、と改めて手を合わせ、店内のBGM、相棒の声、ライバルの声に耳を傾ける。緑間の返しが少しだけ、少しだけ擽ったくて、火神は少しだけ笑ってしまった。 「本は食べ物じゃありません。こころの非常食です。僕が噛むのは村人です。」 「ちょ、狼来たこれ。やる?やっちゃう?汝人狼in夕方のマジバ!役職欲しいから誰か呼ぼうぜ!」 「黄瀬くんはなかなか強いんですよね。今度人数集めてやりますか。」 「ナンジジンロウ?何なのだよ。」 「イタリア発祥でしたっけ。テーブルトークゲームです。緑間くん好きそうでしょう、こうゆうの。」 「村に人狼が迷い込んだから退治しようぜ!っての。最低でも占いと狂人は欲しいな。」 「僕は猫又が欲しいです。GM誰に頼みましょうか。」 コアだなーと高尾が笑い、黒子が輝いている、と的外れな印象を緑間と共に抱きながら、火神はジュースのパックにストローを突き刺して。 他人が出会って僕たちは生まれた 誰かを信じる遺伝子で出来てる こころに芽生えた温もり抱きしめて 有線放送の歌詞が、そっと閉じる。また店内がざわついたかと思えば、次の曲で静かになる。音楽聞くのか、という素朴な疑問を以前に零したところ、ヒトの喋る声をスピーカーからの音楽で相殺している、という雑学が黒子から披露された。風呂敷の広い男である。 「かがみくん?」 冷房が効きすぎた店内に二の腕を摩った黒子の髪の毛をぐしゃっと撫ぜやって不機嫌の形に微かに変わった眉の角度に笑ってしまって。 「ジンロウ?やるなら混ぜろな!」 にかりと、夏に生まれた暑い男は自分の生れ日にそう笑った。 |
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2012年08月02日 22:41 火神生誕祭2012にて。
火神くん誕生日おめでとう! 歌詞はNot Alonから。
20120825masai