広くて美しいその庭は、セイリン王国の中央ほどにある、王族のお城にありました。










の王子様。











誰の趣味だか綺麗に整頓された庭にはバスケットゴールがあり、そこに一人、遊ぶ姿がありました。名前を伊月俊。真っ白な雪の彫刻のように綺麗な肌と、真っ黒な月の輪色に耀く髪が綺麗なそのひとは、継母からの嫉妬に毒リンゴで狙われそうになったり天邪鬼とリアル鬼ごっこを繰り広げたり求婚者に無理難題を吹っ掛けたり赤い魔法使いの詛で眠りの紬針を神回避したり、なかなかに強かな人生を送って来ましたが、今は二年前に仲間たちと一念発起して立ち上げたこの、セイリン王国でのびのびと暮らしておりました。
「あ。」
ドライブのスキルアップに転がしていたバスケットボールは、するりとすっぽ抜け、てんてんと、こちらも見事に設えられた池にぷかりと浮かんでいます。
「あー・・・。」
そのまま結構岸から離れた場所で、どんぶらこっこと沈んだり浮かんだりを繰り返しているボールに、手を延ばしますがどうも無理でした。財政難ということは今のところありませんが、国の財布を握る自らが浪費することも憚られ、どうしたものか、と岸辺に座り込んでいると、おい、と声が掛かりました。
誰だ、ときょろきょろ見渡しますが、自分に声をかけたと思われる人物は見当たりません。
「ボールを取ってやってもいいのだよ。」
「ぎゃぁっ!」
足元から聞こえた声に、意図せず飛び上がった伊月は、ばくばくと暴れる心臓に呆然と座り込み、岩の上にぴょこんと乗っかった蛙の姿に悲鳴を上げてから、言葉を無くしました。
「ボールを取ってやってもいいのだよ。」
もう一度蛙は言いました。
「・・・まじで?」
二重の意味で発された一言に、ちょこんと蛙は頷きます。
「俺を婿にするなら取ってやるのだよ。」
「・・・はい?」
「了承を得たと判断するのだよ。」
「えっちょっま、え?えーと、・・・うん、まあいいか。よろしく。」
一瞬恐慌状態に陥ったものの、蛙のぱっちりした瞳は疑いも知らぬように言い募るので、口にした通り、まあいいか、で伊月は返事をしてしまいました。ぶっちゃけ、桐皇の今吉や海常の笠松と渡り合うにはそれ相応の腹芸が出来なくてはならないので、駆け引きに対する事象には強かった、とだけ表記しておきましょう。腹黒い訳ではありません。ええ、多分腹黒い訳ではありません。ええ、きっと。あっ、でも腹黒い伊月先輩萌えます。
「約束を反故にすることは許さん。」
ちゃぷんっ、と蛙は池の中に消え、ぽぉん、とボールは異常に長くて高い位置で放物線を描き、ぽすんと伊月の手に収まりました。そこからの伊月の行動は実に素早く、そのままボールを小脇に抱えると蛙が池から顔を出す前に鷲は姿を消してしまったのです。
夕方の食事の席で、ちょこんと伊月の椅子に座っている蛙には、流石にびびりました。池からどんだけ距離あると思ってんだ、と思わず怒鳴ると、どうした、と王様に声を掛けられました。
「かくかくしかじかなのだよ。」
「リアルにかくかくしかじか初めて聞いたわ。」
「なるほどな。」
「通じんのかよ!」
「それは伊月、お前が悪い!!」
ドギャン、と集中線を背負って伊月を指差す王様は、言い含めるように続けます。
「口約束だろうと契約書だろうと、約束は約束だ、ダアホ。国政に関わるヤツ自ら約束事を破ってどうすんだ。オマケにボールを取ってもらったっつー恩もある。命令だ。蛙と結婚しろ。」
「横暴な王様!キタコレ!」
「黙れ伊月。」
白いドレスを着せられ神の前で蛙との誓いのキスをさせられ、そうしてヒトと蛙の奇妙な夫婦生活が始まります。伊月の食器から蛙は食事をし、政りごとには的確な助言もくれました。気分転換にバスケットボールを転がせば、異常に高いループで正確に手の中に帰ってくるのです。一緒のベッドで眠り、蛙は肉食だったよな献立大丈夫か、と戸惑う料理長には、伊月さんと同じものなら何でも食べるのだよ、などと徐々に城内での好感度も蛙は順調に上げて行き、伊月もペットに餌でもやる感覚か、と思えば食事を共にするのは苦ではなくなり始めました。名前は、と聞いても不自然に黙るので、ケロ助の愛称で蛙は皆に親しまれていきました。
「居心地が悪いこともないのだよ。」
「つまり、居心地はいいんだな。」
しかし、どうしても慣れない事がひとつ。
それは夜の、同じ床での就寝です。
下手に風呂に入れて茹で蛙になられても後味が悪いし、蛙本人?は沐浴として池で水浴びをしてから床の用意をするので、ベッドの中は毎晩がどこか生臭く、就寝の時間はいつもが伊月にとっては苦痛でした。
更に加えて、いい加減慣れて背中を向けて眠れるようになった頃、ぺたり、と湿った蛙のてのひらが白い膚に貼り付くようになってから、それは特に顕著で、伊月は蛙が満足するまで寝たふりを続けました。
だいたいヒトと蛙で結婚で俺が嫁ってよく考えろよ普通におかしいだろう、と日に日に鬱憤を募らせながら、蛙に吸い付かれて紅い痕が残った白雪の肌を隠して、伊月は仕事もこなして後輩の指導もして、となかなかに忙しい日々を送って行きます。そんな様子すら、蛙は好ましく思い、時には相談事に助言もくれてやるのです。
ブチン、と何かがブチ切れる音を聞いたのは、その奇妙な夫婦生活が始まって一月後の夜でした。ついに蛙は伊月の下腹の、際どい場所に腹を載せたのです。
「いい加減にしろよ。」
自分でも驚くほどの低い声が出ましたが、そのまま伊月は勢いよく起き上がり、ぴょいんと跳ね飛ばされた蛙をタップパスの要領で壁に叩き付けたのでした。正に蛙が潰れる音が耳に届き、蛙はそのままずるずると絨毯に落ちました。
直後、ぽんっ、となんだかコミカルな音がしたかと思えば、蛙が潰れたその場所に、緑の髪の青年が座り込んでおり、えっ、と伊月は眼を瞬かせ、その後に響いた悲鳴に、隣の部屋に寝ていた王様が驚いて駆け込んできて、こんな事ならもうちょい早く叫べば良かった、と伊月は場違いに感動し、月明かりのしたでその上等な衣装に身を包んだ青年をしっかりと見下ろしました。
「緑間、真太郎・・・?」
大昔、この一帯を支配していた国の、今は体制が分割された国にいるはずの、そして更に言えば、半年ほど前から姿を眩ませている青年、そのひとでした。
「ええええええええええ!?」
「・・・ああ、戻りましたか・・・。」
緑間は眼鏡の向こうにぱさりと睫毛を動かし、くん、と腕に鼻っ面を押し当て、生臭いのだよ、と呻くと、そっと顔を上げました。整った鼻梁は優しく微笑みます。
「伊月さん。」
「はひっ!?」
「あなたのお陰で、赤い魔法使いの詛が解けました。礼を言うのだよ。」
「は、はぁ・・・。」
「蛙になっている間は理性も薄かったようなので、ご迷惑をおかけしたと思う。そちらは詫びもさせていただくのだよ。」
「え、ああ、気にしないで・・・。」
日本人の条件反射、詫びられると申し訳ない、が発動され、蛙って緑間だったのか!と大騒ぎになった城内で、隣のシュウトク共和国への駿馬を飛ばし、翌日には自称下僕の高尾が大量の金品やら国宝級やらを軽トラに乗せて運んで来ました。
「真ちゃん!ちょう久しぶり!嫁さん出来たってホント?」
どんな菩薩様、と茶化した高尾の目の前に、ずいっと差し出されたのは伊月でした。周辺国家会議でよく顔を合わせる相手に、流石のコミュ力カンスト男も一瞬固まりましたが、上着を羽織っただけで夜着姿の胸元を引っ掴み、がばりと開いたのです。勿論悲鳴が上がりました。そして殴られたのは当然でしょう。
「高尾!?」
「真ちゃん、これちゃんと責任とんなきゃ大坪さんに絞られるぜ?」
あーあ、なんて肩を竦めながら、この度は緑間真太郎がご迷惑をおかけしました、と胸に手を当て膝を付いた彼は丁寧に感謝と詫びを述べ、そっちの処理が終わったら連絡下さい、と緑間を軽トラの助手席に載せようとしたが、そうはいかないのだよ、と緑間自身の声に首を傾げてしまいます。
「俺は既に伊月さんと婚姻を結んでいる。おいそれと帰ることは出来ないのだよ。」
「あー、だよなー。緑間だもんなー。」
先程ひん剥いた伊月の胸元には紅い鬱血が幾つも刻まれており、察しの良い彼はすぐにそのまま、荷物を国庫に運ばせると、また後日、とセイリン王国を去って行っきました。
「順序を、些か間違えたのだよ。」
「気にすんな、赤い魔法使いの詛だろ。」
シュウトクから貢がれた緑間真太郎保護の礼の品リストに目を通しながら、ひょいと言いやった伊月を、どこか憮然と緑間は見やり、その長い腕で白い痩身を抱き込み、黒い髪から微かに薫った白桃の香りにうっとりと目を細めます。
「伊月さん。」
「ん?いい匂いするね。風呂入ったから?」
男のそれとは思えない程綺麗に手入れされていた指先は、蛙になっていた間も健在だったようで、するりと優しく幼さの残る頬を撫ぜ、紅を飾らないのに艶やかなくちびるをふにゃりと擽りました。
「俺と、結婚して下さい。」
「・・・ろ・・・っ。」
「え。」
二人は、書類を取りにきた王様に発見されるまで、今更顔を真っ赤にして、近くで見ていたお庭番の少年曰く。
「二人して結婚式のやり直しをしてました。」
とのことです。

「あれっ、これいい人材じゃね?」
赤い魔法使いの水晶はそんな二人を映し出し、ふむと彼を唸らせました。
「涼太は野獣にしたんだっけ?敦は三年に一度しか働かないし、大輝は岩山に押し込んだ・・・。うん、いいんじゃないかな、これ。うん。」
こーしてあーして、とシミュレートをしながら、コツリと靴底で床を叩き、ふうん、と水晶にきらきらと耀く二人の姿に魔法使いは笑うのです。
「僕は、ハッピーエンドが大嫌いなんだよね。」


END・・・と表記しても良いのでしょうか?

***

大好きな方の童話パロ読ませて頂いていいなー童話パロいいなー童話いいなー!と枕元の童話考察本を手に取ったら色んなもんが爆発したw数ある伊月受けの中でどうしてこうなったw伊月先輩可愛いですね下さい。我が家の俊ちゃんはエビちゃんが欲しいそうですwwww姉と妹に挟まれてると男の子はどこか必死さが滲む!!あざとい感じは無意識が燃えます。萌えます。多少腹黒いほうがなんか燃えます。萌えます。姉妹のあざとさを無意識に習得しゲームメイクで腹黒さを養うとか伊月先輩可愛いですね下さい。


2012年11月12日 23:58初出。

私どんだけ緑間君のあの蛙好きなんだっていうねwww

20121206masai