伊月サンが好きだ。

真っ黒なのにきらきらしてる髪の毛はさらさらしてて、切れ長の目元は穏やかな笑顔が似合う。

伊月サンから貰うパスは、黒子のパスのような仰天出来る物ではなくて、それでも誰より正確に受け取るひとの手にすっぽりと収まるように、走りながら受け取るのにそれでもファンブルなんて絶対しない、出来ないパスだ。

パスを受ければなんだか選ばれた気分になって、どきどきして、わくわくして、兎に角嬉しくなって、絶対決めてやる、って気分になる。伊月サンからのパスをゴールに繋げない、なんて選択肢なんか無い。

そういえば、大型ルーキーなんて言われて一瞬壁を作られた俺に、変わらず話しかけてくれたのも伊月サンだったと思う。常に俺や黒子や他の一年にも気を配ってくれてる。

俺は伊月サンが好きだ。

 

 

「病は気から、って日本語、知ってる?」

火神の告白を受けて、伊月はそう切り替えした。

「えっと、病気だと思えば病気になる!ですか!」

「はい、まあまあ合格点なお答え。じゃあ、パブロフの犬は?」

「鈴を鳴らしたら唾液が出る、って犬の実験・・・ですか。」

「はい、合格。」

さて、とやわらかい関節の指先を、線の細い顎に持って行った伊月は、火神に対して、真っ直ぐ、その身長差とカミングアウトと告白に、大して動じることなく、ふむふむと頷いて。

「お前、バスケしないでどきどきわくわくとかねーよな。」

こてん、と小首をかしげる仕草に、う、と火神は喉を唸らせた。

「火神の脳神経は、もう多分そうゆう風な反射ついちゃってると思う。パブロフの犬ね。バスケットボールやゴール見るたび、わくわくしてどきどきして、ゴール決めてやるって反射ついてる。パスを寄越すのが黒子でも木吉でも降旗でも、お前は絶対に決めるし、俺たちと勝つんだ。脳神経は反射によって鍛えられる。」

「・・・あの、でも・・・。」

まあ待て、と白いけれど硬い手のひらを突き付けられて、取り敢えずは黙らざるを得ない。

「火神がファンブルってのは、まあ、よっぽどじゃないと無いとして。だってほら、手の大きさ比べてみ?」

促されるまま、ぺたっとくっつけた手のひらは、火神のほうが関節一つ分飛び抜けていて、おお、と伊月は感嘆の声を漏らした。逆に火神はそのつめたい体温に驚いた。

「バスケはフィジカルのスポーツだよ?お分かりかな?」

「う、っす・・・。」

「因みに俺の顔や髪は日本人に多いぞ?所謂醤油顔ってのかな。まあ、俺の顔は母親譲りだから、若干女っぽいのは否めない。でも、氷室だって黒髪に、あっちのがよっぽどキレーな顔してるじゃん?それとも見慣れて麻痺してる?」

「・・・タツヤはオトコ侍らせてた事がある、です。」

「まじでか!」

「まじだ、です。」

世の中小説より奇なりとはよく言ったもんだわ、なんて耳元にかかっていた黒髪を伊月は漉いて、耳に掛けた。

「あとはまあ、気に掛けたのは俺の役割だから、ってのはあるな。カントクが押して、ひゅーがが引っ張って、木吉が支える。その取りこぼしが無いように見回すのが、鷲の目の、俺の役割。」

「いや、あの。」

「そう見えないから今焦ってんだろ、せっかちは嫌われるんだぞ。」

嫌われる、と聞いた途端に借りてきた猫になった火神に伊月は思わず噴き出して。

「病は気から、って日本語は、確かに病気を気にしてると病気になるって解釈なんだけど、逆に健康を気にしすぎても病気になる。どういう事か解る?」

「思い込み・・・ですか?」

「うん、そういうこと。そろそろ核心を俺は言う。お前は正直になればいい。」

「はい。」

「それは、気にし過ぎた俺の存在を恋だと勘違いした、恋愛感情だと思い込んだだけじゃないか?」

まっすぐな、オニキスのような瞳の奥は、静かに熱い。怒っているのか、苛立っているのか、哀しいのか、憂いでいるのか、それは火神には判らない。

ただ一つ、確かな事が。

「伊月サン、好きだ。」

火神の口から、それ以外が述べられる事はなく、太い腕が鍛えられた痩身を抱き締めて、野生の虎のような男は野良の黒猫に飼い馴らされる訳もなく、骨の芯まで貪り尽くした。

「俺を愛してるって言えるなら。」

「愛してる、伊月サン。」

詭弁に躍らされずに真っ直ぐ述べた火神の広い背中に、伊月は爪を立てて、にゃあ、とひとつ、啼いてやった。

***

初出:2012年11月1日 18:52



伊月先輩語るシリーズ派生の火月。なんか急に火月きちゃったてへぺろ!そして使用タグが何時の間にかキースさんを追い抜いちゃった伊月先輩ぱねぇっすwwww

20141012masai