今宵十三夜月の下で











 
くあっと欠伸を殺しながら昼頃公園に入った伊月に、きゃぁっ、なんて歓声が上がった。

「お前ら今日平日・・・。」
「そういう伊月だってもうお昼じゃーん。夕べ、ディナール行ったっしょ、ガイジンと!」
「いや、行ってないけど、・・・どうした?近くは通ったよ。」
「えっ、じゃあこれデマ?」
「えーしっかりしろよフライデー!」
「フライデー違う。」
「何の話?」

ひょいと首を突っ込んできた赤司に、突き付けられたのは有名スキャンダル雑誌の一頁だった。
煽りは『カール・ルーデンス日本で爛れた一夜』。目元に線は入っていたが、服装は勿論、ホテル街のネオンにもきらきら耀く美しい黒髪は見る人間が見れば一発で解る、伊月俊その人だ。

「ああ、カール・・・やっぱパパラッチあってんじゃん。」
「え、うそまじでー!?」
「えっと、カール・ルーデンスぐぐる・・・アメリカのシンガーソングライター、ストリートから一躍有名にー・・・秋からは日本でのチャリティ公演、ってマジもんじゃん・・・。」
「あたしCD持ってるけど!」
「ゲイって噂あった?」
「あ、両方イケるつってたよ。俺のヒアリングが正しければ。」
「まじでか!」
「つか、ホテル街彷徨いててめっけて、どっかで見たことあんなーとは思ったけどガイジン一人でホテル街とかヤバイだろってんで、赤司と一緒にゲーセン行ってR1行って、あれだね、言葉通じなくてもある程度のジェスチャーで何とかなるね、まじに。つか主に赤司が通訳したけどさ。」
「うっらやましー!!」
「赤司くんてばすごーい!」

雑誌を囲んで色々と話は尽きないが、そんじゃバスケでもいってくら、と伊月はストバスコートを見て、春日が手招きするのに喜んで小走りに駆けて行った。赤司は相変わらずそんな風景を尻目にベンチの足元にいつもの空き缶を置いた。時折バスケにも誘われるが首を横に振るだけで応じる。

「伊月くん!あの雑誌何!」
「あれ、カントク久しぶりー。専学どうよ、トレーナー資格取れそう?」
「ちょっと脚視せて!」
「んー、特に変化無しかなー。」
「ちょっと、自己診断ほど怖いものはないんだからね!んー、状態変化無しかー。ちゃんとリハビリ行ってる?」
「行ってねーわ。カネ無いし。」
「だったらウチのジム無料で貸すから来なさい!パパも心配してんだから。」
「まあ、カゲトラさんに面倒見てもらった恩もあるしそのうち。」
「言っても来たためしないじゃない・・・。」

彼の足の違和感に気付いたのは、やはりカントクこと相田だった。それはもう酷い状態で、速攻医者に診せたが半ば手遅れで、半月板の損傷にまで及んでおり、庇った筋にも負担が大きく、そこで伊月のバスケ選手としての生命線は千切られた。相田は未だに気に病むが、その泣きそうな頭を撫ぜてやって、日向が来たらバトンタッチ。

「煙草、結構吸う?」
「ん、ヘビーまでは行ってない。いいとこチェーンかな。」
「どっちも問題だ!伊月くんのバカ!」

ベンチに腰掛けて時折とつとつと爪先を鳴らす伊月に相田は心配気に問いかけた。

「そりゃ、伊月くんに身体能力は望めないって言ったのは私よ?でも無理しろって言ってない。」

昔の自分に腹が立つ、と彼女は項垂れ、遠目にこちらを伺う赤司や日向に伊月は苦笑してしまった。

「で、本題は何かな、カントク、いや、相田?」
「あー、うん、雑誌見ちゃった・・・。」
「ああ、カール?大丈夫。あの後はゲーセンとかボウリングとかで遊んだだけ。まあ、おかげで昼まで寝ちゃったけどねー。疲労ハンパない。いつまでも若くないわー。」
「ちょ、刺さる。女心に刺さるから。」

そりゃ失敬、なんて伊月は笑うものだから、妙に肩透かしを食らった相田はあからさまな溜息を吐いて、そのまま立ち上がった。

「リハビリ、来なさいよ!」

それだけ言い置いて、じゃぁね、と公園を去る間際だった。誰が放ったのか、コートのフェンスを越えて相田の足元に転がって来たバスケットボールが、弾けた。
悲鳴に逸早く反応したのは日向で、オレンジ色のボールが弾けたその場所に穿たれているボウガンの矢、少なくとも伊月にはそう見えた。素早く相田を囲うように立ち回って、花壇に突き刺さっていたそれを引き抜いたのは氷室だった。

「何かな、これは。」

絶対零度の微笑に、伊月と赤司を抜いた其々が、各々に固まった。

「相田、危ないから帰って。お前らもー!こいつみたいになりたくなかったら!」

こいつ、とボールの残骸をひらひらと弄んだのは伊月で、赤司を呼び寄せる。さっきまで雑誌の話題で盛り上がっていた少女達は騒然としつつ、伊月の声に従った。

「タツヤ、火神に連絡。」
「うん、了解。」
「ひゅーが、相田送ってって。」
「・・・おう。」
「健介さん、高尾・・・はまだ来てない?宮地さん、高尾とかに来るなって連絡頼みます。」
「ん、つか俺らも帰るし。犯人分かったら教えろ。轢くから。」
「レンタカーで良いか。軽トラ車検中だ。」
「タイガ?テツヤに代わって。」

伊月の意図を正確に汲んでいた氷室はすぐに目当ての人物と彼を引き合わせた。

「ありがとう、タツヤ。おう、黒子?授業平気?悪いな突然。ん、最近この近辺・・・ああ、公園なう。うん、あー、やっぱり?うん、ありがとうな。授業戻れよ、絶対こっち来るな。火神にもゆっといて。じゃ。」

そのまま通話は切断。伊月は深呼吸をひとつ。心配気にこちらを見ながら公園を出る相田と日向には顔を向けないで手を振って、ジャケットのポケットから紙片を一枚、煙草を一本。紙を舐めて煙草に貼り付け、火をつける。

「どう?」
「タツヤも帰る?」
「手伝えるようなら手伝う。」

ジリと薬が目の奥を焦がし、煙が静かに空へ駆ける。視野が、一気に広がる。そわそわと人気が去る中で、面識の無い人数はどれくらいだろう、大きな荷物を持っていたり、手ぶらだったり様々だ。
仲間に危害を加えるのは誰かと、歩き回った公園は、結局注意喚起と知らない人間の発見だけに骨を折った。

「黒子情報。この近辺でここ一週間。小学校含めて五件、小動物がボウガンでやられてた。」
「本当に?」
「テツヤの動物愛護電波は凄いから。俊さん。」
「うん、いないね、もう。赤司、ひゅーがに電話。」
「え、やだ。」
「・・・俺しようか?」
「頼む。ちょっと待って、えっとー。」
「ここ。」
「ん、アリガト。タツヤ、ここ写メって、ひゅーがに。宮地さんもかな。」

ここ、と指差されたのは矢の型番か、その部分と矢の全景を添付して送信。宮地から、即刻、どのメーカーで近隣での取り扱い店舗が文字で送られてきた。

「さっすがミリタリオタ。」
「今度弾けるパイナップル用意しようか。」
「いいと思う。」
「や、よくねーよ?よくないから。この店だったら近いな、行くか。」

結論から言えば、その店は既に警察が調べた後で、確かに一週間前にボウガンのセットを買って行った客はいた。名前、生年月日、現住所、身分証明書承認番号は義務付けられた店の帳面から見せてもらった。

「職業、警備員・・・。」
「頭に自宅が付くんでしょ?」
「言うな、赤司。」

これは次の出現を待つか?でも怪我人が出てからじゃ遅いね、なんて話していれば、何だか今日から大きな仕事があるって言っていたよ、と店主の証言が出た。自宅警備員じゃなかった、と赤司が呟いた。スマートフォンに名前と生年月日と職業を入力すれば、赤司が独自に作ったデータベースが顔写真を数枚映し出した。

「え、前科あんじゃん。公務執行妨害罪?」

突き付けられたデータを伊月が煙草を指先に弄びながら読みあげれば、店主の禿げ上がった頭が真っ赤になった。前科があるような人間は司法の許可を貰っている店でも買う際は申告するのが常識らしい。聞いていない、と激昂した店主は連絡先の番号を電話にプッシュするも、留守電だった。

「これ、ひょっとしてビンゴじゃね?」
「あの、お仕事の場所とかー・・・。」
「ここじゃない?」

聞いてませんかー、と店主に声を掛ける伊月の目の前にタブレットを突き付けたのは赤司。はい?と二人揃って覗き込めば、区営のホールだった。

「勤め先突き止めた?」
「うん。」
「どうやったの?」
「タツヤ、これは所謂ダークサイドのお仕事でね。」
「違うよ、俊さん。この辺の警備会社適当にピックアップしたら、何割かがここのホールに集まってた。から、調べた。18時からカール・ルーデンス来日ライブ。」
「へぇ!」
「よくやった、赤司!」
「ご褒美はちゅーがいい。」

そんじゃ失礼しました!とそのミリタリーショップを出て、一路そのホールへ向かう。

「・・・さて、どうするか。」
「だよな。ダフ屋最近減ってるし、今回のライブは全国行脚のチャリティだって言ってたし、警備員の配置もわかんない。てかいるかな。」
「カールに連絡する?」
「え?」
「あ、そういや勝手に番号交換されてたな、赤司。」

こりゃ都合いいや、と伊月は思わず手を打った。
問題は出てくれるかどうかである。ライブ開始予定時刻は18時。現在16時53分。リハーサル真っ最中とかじゃね、と頭を抱える伊月の頭を撫ぜて、赤司はそのままコールしてしまった。

「え、何してんの。」
「セイ?ちょっと?セイジュウロウ?」
「あ、・・・Hi Karl, You can speak with me?」
「・・・まじでか。」
「Yeah, listen to all that I heard you play live, I thought I would I want to go.」
「Oh・・・Or Seriously・・・。」
「え、なんて・・・?赤司?」
「今リハ終わったから折角だからおいでって。」
「あ、じゃあ例の警備員呼び出せるか聞いといて!」
「うん。」
「This what? Sei person really?」
「ああ、赤司は外面めっちゃ良いから。」

表情一つ変えずに流暢な英語で通話を続ける赤司がサムズアップを見せるので、伊月と氷室は頷き合って、目的のホールへ向かった。
日本ではそんなにメジャーではないとはいえ、だからこそ高い倍率のホール収容人数は二千人。明日は神奈川、明後日からは中部方面、関西方面とツアーは続くらしい。呼び出された通用口へ向かうと、その外国人は三人を笑顔で迎えてくれた。

「Thanks for yesterday! It was fun. Welcome Shun, Seijuuro!Who is there?」
「This Tatsuya. It's my friend.」
「I'm a brother of Seijuuro!」
「What is it? What are you talking about. Who are you doing? I'll say one more time. Is that stupid? Die?」
「こら!赤司っ!」
「I am a brother of the Taiga! Told me that I also like a brother to me Atushi!Do not exist like my brother even if it's the case Sei!?」
「Wow no.」

うざいってゆわれたこともあったけど!なんて氷室は赤司の頬を、言われながら赤司は氷室の頬を両手でぐいぐい引っ張りあっている。カールは笑いながら、伊月の手を握った。

「Sorry for the sudden appointment.」
「Do not worry, it's Shun and me do not get along.」
「流石プロ。」

その執り成しに伊月は思わず苦笑して、英語で言い合っていた氷室と赤司が静かになったら今度は伊月の背後に赤司が擦り寄る。

「Where is he?」
「It's supposed to be at the security station. I also go to see you guys live when you are done. 」
「Thank you.」

がんばって、とカールをステージに送り出すのと同じく、彼等は踵を返し警備室へ向かう。

「あれだね、友達だと思われてるね。」
「どうしたもんかなー。友達に轢き殺して貰うんで借りて行きますーとも言えないしねー。」

そこにいた若者は、運悪く伊月に顔を覚えられていた。

「轢き殺されるのと。」
「刺し殺されるのと。」
「殴り殺されるのと。」
「絞め殺されるのと。」
「呪い殺されるのと。」
「潰し殺されるのと。」
「選ぶ権利はやるよ、俺らの敵。」

ネバーランドを穢した罪は、結構重たいという話。

***

NO犯罪!YES萌え!!時折見かける氷室兄さん無双が楽しすぎてやりました。翻訳はぐぐる先生にしてもらったので元になった私の文章が変ならもっと酷い事になりました・・・!うぐぐ氷月のリベンジは課題!!(何度も負けてる。

2012年10月01日 23:18初出。

因みに氷室兄さんと赤司君は「アツシだって兄貴みたいだってゆってくれたんだからセイだって俺の弟も同然っしょ!」「なにほざいてんのばかなのしぬの」って感じです。てゆか赤司君の科白はほぼそのまま翻訳にかけましたw

20121115masai