今宵上弦月の下で。
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Bilgeとは日向がバイトをしている、風営法やらが微妙な加減で運営される、都内の穴場にある居酒屋だ。
黒に統一された店内の壁はコンクリの打ちっ放しで飾りっ気はないものの、店内中央にはいつも場違いだが不釣り合いにならないくらいで生花があって、入り口から螺旋階段を降りてカウンタ、因みに22時を過ぎると入り口で入店料を払えばほぼ中での行動は制限されない。 広い店内には小さなステージなんかがあって、時々インディーズが演奏しにきたりする。 「じゅんぺーさん!六番テーブルチェリー!リア充爆発しろってゆっといてー!」 「八番テーブルさんはカンスムだとよ。」 「げっ冷蔵庫さみーのに!」 「焼き鳥いったでー。」 「あっ、三番さんでーす!ショージさんもってってー!」 「おい、リオ何処だ。」 「またナンパちゃうかーっと唐揚げあと30秒!」 「はい、十番さんからリゾット2とペリエ2な。」 「ツバサちゃーんリゾット2ー!」 「あーもはよー22時なれー!!」 「22時で俺上がりますけど。」 「せやったー!」 「え、なになに?カルミとセノビとセーフ頼む。二番。」 「イケメン爆発しろ!!」 「キョウちゃんこわっ!」 「キョウちゃん休憩15分。」 「あ、はーい!」 「入れ替わりで順平上がりな!」 「うっす。」 カラン、と頭上のベルに、店員が集って鳴き出すいらっしゃいませー! 「13番お願いします。」 「残念、アベに先越されたな、伊月。」 「うえ、まじでー。じゃあひゅーがの奢りでチャーハンたのんまっす、ヨシカズさん。」 「おいこら誰の奢りだと!」 「じゅんぺー!唐揚げもってけー!」 「げっ、ウララさん、スンマセン!」 店の先輩にがなられて走って行くギャルソンに伊月は遠慮無く笑って、こつりとカウンタの天板を叩いたグラスに目をやる。サービス、と咥え煙草で笑った雇われ店長に、どーも、なんて笑って煙草キス。 数分だけ待って出てきた、冷凍を炒めたパサパサのチャーハンにスプーンを添える際に、皿の下、数枚の紙を挟んで寄越した。 「ダメなんじゃない?こーゆーの。」 「やめたいならやめとけ。」 その、切手シートによく似たそれを伊月はジャケットの内ポケットに仕舞い込み、取り敢えずはと腹を満たすことを優先した。 「どうだ、最近は。」 「別にこれといっちゃーないっすねー。」 ふよふとと、薬品臭い煙は伊月の周りで天女の羽衣のように舞うから、薄暗い、人気の多い店内でも、男女問わずに目を引く。 「ビール?ポン酒?」 「カシオレで。」 と金額調度を並べた看板店員に伊月は苦笑した。 「なーに、リオの奢り?」 「今夜は?」 「エス決めながら付き合ってくれんならいーよ?」 「言ったよコイツ。」 ちぇー、なんて口を尖らせてもイケメンはイケメンで絵になるのだ。 「リオがリオのカーニバルでーんーイマイチ。」 「それさえなけりゃーな、伊月は。」 「うっせーわ。」 「あ、しゅんさんだーいらっしゃい。」 「お、キョウちゃんは休憩かい?」 「もーテンチョはんぱねぇ。人使い荒い荒い。」 「あはは!ひゅーがみたいに天引きされてない分有難いと思え。」 「そうだぞー24時上がりに設定してやってるこの俺の人の良さ。」 「嘘くせぇ。」 「これだもんよ!キョウちゃん可愛くねー。」 「リオ、リゾット持ってけ。」 「折角の逢瀬!」 「はいはい、また相手してやっから。」 貰った煙草を深く焼いて吐き出し、ぴっ、と紙を噛みちぎる一連の動作は習慣づいたそれで、注文が落ち着いたのか、日向が嗜める。 「お前まだチャーハン残ってる。」 「ん、パック詰ヨロシク。」 「てか一口しか入れてね?お前どうなってんの胃袋。」 「だよねーしゅんさんの胃袋まじうらやまー。食っても太らない?食ってんのに太らない?食わないから太らない?どれ?」 「「一番最後。」」 「いや、食う時は食うから。」 「あ、これは赤司用か?」 「じゃぁお前用にもなんか包んでやるよ。」 「わーひゅーがあいしてるー。」 「冗談でも止めろ。鳥肌立つわ赤司のせいで。」 「なになに?アカシって誰?」 「伊月が飼ってる猫。」 「えー?」 「ちょ、ヨシカズさん読んだんですかあれ。」 「読んだ読んだ。ウチの二番目がああいう雑誌好きなんだよ。」 「高校生でしたっけ?駄目ですよー道外させちゃ。」 「分かっとる、っとそろそろ順平上がりだな。」 「あっすー。お疲れ様です、お先でーす。」 「じゃぁわたしも仕事戻んなきゃじゃん!」 二人揃ってスタッフオンリーの扉に消えて、ギャルソンと私服が入れ替わって出てきた。伊月の手元には幾つか、消費期限がギリギリだ、ということでチャーハン以外にも暖かいタッパーが増えて、日向とハイタッチを交わすとそのまま彼らはBilgeを出た。 「どう、キョウちゃん。」 「ああ、お前の妹とは思えない程働くな。」 「血は繋がってないからねー。」 「向こうは知ってんの。」 「どうかな。見て見ぬ振りがあの家の鉄則だったし。妹が親に叩かれようと、兄が弟に強姦されようと。ぶっちゃけ引き取られてからのが辛かったわ畜生。」 「修道院ってそういう調査しねぇの?」 「あっこは結構グレーなラインの孤児院だから。先生・・・シスターが好意で子供の世話して、里親見つけて。本人がいいと思ってやってるから仕方ない。」 「ひょっとしたらお前のガキとかいたりして?」 「いたとしてもまだ首座ってないな・・・。」 「何平然と計算しちゃってんのお前!?」 「がきー。んー、板垣のガキの頃はいたずら書きばっかり!キタコレ!」 「伊月黙れ。」 「ツッコミって重要だと思うの。」 「下らんボケは滅ぶべきだと思う。」 ちょっと煙草吸わせて、と路上灰皿脇のベンチに伊月は座り込み、日向に差し出されたBilge営業マッチに火を灯す。灰皿に棄てられ、中に溜められている水に、花火を思い起こさせる音で小気味良く光を消した。コンクリートジャングルの夜は、今日も月しか見えなくて、見上げた首をこきんと鳴らし、日向も伊月の隣に腰掛けた。 「気付けなくて、悪かった。」 「は?隠してたんだし、暴露たらコエーっつの。」 俺としちゃ赤司のが心配だ、と紫煙に紛れて伊月は笑った。 「黒子から聞いた分には、俺みたいな心配は無かったみたいだし、元々アイツ、妾腹ってので修道院放り込まれただけだし。高校生活は俺等も知ってのとーり。赤司は、帰れる家がある。」 「帰れる、か。」 「俺は帰りたくないから。帰る時は俺が凡ゆる物を断罪する時だ。」 それまでは着の身着のまま野良猫生活ってね、なんて煙草に口を付ける。仄かに赤く映えた美しい貌は、いつも笑顔だ。 気紛れな生活は楽しいと、伊月は言う。天候に振り回されても笑う。仲間と冗談を交わして笑う。雨に降られて風をひいて、高熱が出ても笑う。 これはもう異常だろう、と日向は時折考える。 どれだけ陰惨な状況でも、伊月は仄かに笑っている。まるで、その災厄が自分に降りかかってもいいと言うように。 それはまるで、死にたがりの思想だろう。 「あ、そういえばさートイレで今日首吊りあってお巡りが検分終わってねーの。」 「えっまじで。」 「うん、ほら、ジャングルジムの所でいっつもいたホームレスのおっさんいたじゃん?冬が来るなーって昨日世間話したのよ。そしたら今朝首吊ってた。」 本当に、何でもなくそんな風に話すから。 「だから、ひゅーがん家泊めて。」 はあっ、と深く溜息を吐いた日向にそう笑って、吸殻をぽいと灰皿に捨てた。 まあいいけど、と途中のカラオケボックスで高尾と氷室のブーイングを無視して赤司を拾って、男の狭い1LDKへ。各々の夕飯も済ませて、順繰りに風呂にも放り込む。 「布団一組しかねーけどー?」 「あー大丈夫大丈夫。どうせ赤司は俺のおんぶお化けだから。」 「酷いな。」 「愛してるのにねー?」 「愛故の行動だろうになー?」 「えっなに通じ合っちゃってムカつくんだけど!」 「はいはい髪拭いてやっからこっち来い。」 赤司の面倒ばかりを見て自分をほったらかしの伊月の頭にタオルを被せてベッドに座れば、僕がやる、とばかりに無言で奪われた。 えなになにどうなってんのあかしちかい!なんて喚いているタオルの中身は、容易くキスの一回で黙らされた。 「盛ってくれんなよー?」 そのままベッドに潜った日向は、赤司に奪われた最も近い存在に、少なからずの罪を覚えるので結局はこうやって甘やかしてしまうのだ。 「いつまでもちゅっちゅちゅっちゅやってねーで寝ろダアホ!!」 切実な願いは、隣の部屋の住人から壁を叩かれるという苦情で黙らされ、彼は背後の甘ったるい空気と吐息に一晩耐え続けた。 翌朝歯を磨きながら、歯ブラシを咥えたまま無精に、くまひろいひょ、と伊月に言われて思わずその後ろ頭を叩いた。誰のせいだ。 |
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NO犯罪!YES萌え!!今回は日向にスポット。それから過去の触りをちょっと。なので日向と伊月と赤司以外は基本モブです。赤月ください。ほのかーに日月漂ってますが、過去にはそういう感情もあったかもね!みたいなw赤月ください。我が家の俊ちゃんがさっき夕食の催促に来ました。赤月ください。読み返したら読みにくかったんでモブさんのお名前基本カタカナ表記にしました。赤月ください。
2012年09月21日 18:43初出。
まあ、基本日月のひとなんで私w
20121114masai