今宵十六夜月の下で。













 
氷室には病気がある。

病気と言っても医者に世話にならなければならないようなそれではなく、弟分の火神にも何も言わず、数日、猫のように姿を消してしまう。そして伊月の前に現れる。
その時に、必ず持参するのは花だった。
赤い、真っ赤な花だった。
花泥棒は泥棒じゃない、なんて笑って、伊月のその髪に、真っ赤な花を挿すのだ。

「今日のはなに?」
「さあ?花壇に咲いてた。」
「どこの花壇?」
「さぁね?」

真夜中の公園の片隅で、こんな調子で、満足すると、その指は黒髪を梳いて花を捨て落とし、踏み砕き、伊月の髪を撫ぜて、頬にひとつ口付けを落とすと、おそらくは英語だろう、何をか囁いて離れる。
なんとなく、なんとなくだが、伊月は氷室がいつ帰ってくるか、理由も根拠も無いが、判るようになった。火神は下手なお辞儀で伊月にそれを頼み込んでいる。

「なに?」
「なんでも?」

夏の盛りが過ぎた、残暑の中での二人は、実に絵になった。
二人ともが美しい黒髪に艶を描いて、白肌を惜しげもなく晒すから、伊月の切れ長の目元に氷室の下がり気味の眼尻にある泣きぼくろと対になる様に、寄り添えば描かれた絵画のような錯覚まで起こしそうになる。
氷室は踏み砕いた花を一瞥して、白い頬を撫ぜて、きれいだ、と笑った。

「伊月には、血の色がよく似合う。」

吐息のように囁いて、つめたい耳朶を撫ぜた人差し指に伊月は肩を竦め、恨めしそうに上目づかいで氷室を睨む。

「それは、俺にだけは卑怯だね?」

何を言うのだろう、先ほど煙草で遊んでいた真っ赤なくちびるで、氷室のそれを塞いだのは伊月だ。
ちゃくっ、と水音で遊んでやれば、マナー違反にも程がある、瞬きもせずに凝視っとこちらを見下ろす氷室の瞳の奥には、ちらちらと燃える欲が見える。

「ふ、ぅん。」

零れた呼吸は奇妙な色香を孕んだ。
腰に回ったやさしい掌に、伊月は目を細め、閉じた。

氷室には病気がある。
ふらりと姿を消して、赤い花を携えて、伊月に飾って、気がすんだら捨てて、そして。

「ねえ、伊月?」
「・・・なぁに?」
「愛の告白には、花が必要だと思わない?」
「おもわない。」

舌っ足らずに応えた伊月に、決まって囁く。

「I love you.」

ふふと笑った伊月は唾液で滑る唇で紙片を噛みちぎり。

「Is this love?」

なんて、嗤った。

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合言葉はNO犯罪!YES萌え!!第三弾!ちょっと室ちんを描いてみたくなりましてー・・・。ごめんなさい。あと、作品整頓にシリーズに纏めました。本当は表紙で纏めたら早いんですけどねー・・・w


2012年09月02日 18:08初出。

このシリーズは思いつきと勢いが大切です。

20121114masai