色、極彩色。
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五色の彼らは混ぜ合わせると闇色になる。だからこそ誰が欠けてもいけないし、誰もが別でならなければいけない。
彼等はいつでも輝いていた。 身長も体重も体格も筋力も、誰しもそれに見合ったそれを持っており、突出した技術をこれまでか、まだ伸びるか、どんどん進化を続ける。五色の輝きに混じるのは、透明、だった。黒の名前を冠する彼は、只管透明であった。 六人目、とは誰が名付けたのか、誰が気が付いたのか、それは知らない。 ただそれは、都市伝説もかくやと言う程不確かで、それでも極彩色の中の透明だった。 黒子は小学校の図画工作の時間、教師から教わった言葉があった。 「白は他の色を殺す。」 それは中学時代にも彼の心に残っていたし、赤司の鮮烈な赤に混ぜれば濁ったピンク色になると思った。青峰の高温の焔のような青に混ぜても空色には程遠い水色。黄瀬の涼やかな黄色は褪せてしまうし、緑間の静かな新緑は忽ち枯れる。紫原の奇妙で不思議な底の見えない色は一目と見られぬ事になる。 自分は透明だ。 白では駄目だ。皆の色を壊す。 透明だ。 誰にも悟られず、かと言って他の色の邪魔もしない。透明の、見えない、いろ。 自分にしかできないことがある。それに気付いたのは、気付かされたのは、きっと赤司の駒通りなのだろうが、黒子はそれを武器にする事を覚えた。 強くなくても良い。役に立てれば良い。ただ、皆に動かされる、皆を動かす、そんな透明な存在で良い。 「黒子っちはぁ。」 カコン、と赤い自動販売機からミネラルウォーターを取り出した黄瀬は、相変わらずバニラシェイクを啜っている黒子に少しだけ困った様に笑った。 「執着が、薄いよ。」 「何か。」 「俺等はさ、ノルマあっけどさ、ま、その辺置いといて。」 何て言うっすかねぇ、と梅雨時が近いとピアスをくるくると回す癖のある美男子は歯切れが悪い。 「楽しいっすか、バスケ。」 その問いへの答えは、感情の印象が何処か薄い、色素さえ薄い、うつくしい硝子玉のような目玉が住まう目元が一度だけ、ぱちんと大きく瞬いただけで、これだけで、答えだった。 透明色の彼は、影と名乗った。火神の影だと。 それは強烈な輝きだ。これからも輝きを増すであろう、誰もが知れぬ、いや、一部では最早周知であったかもしれないが、太陽のような、出会った事のない光。 同時に鏡だった。 黒子の、鏡だった。 「黒子、バスケは楽しいか。」 「火神君との、この学校での、バスケはとても。」 ずるずる、相変わらず行儀悪くバニラシェイクを啜りながら、目の前に積まれたバーガーを眺めながら、確かに、微かに、仄かと言ってもいいであろう、黒子は微笑った。 極彩色に慟哭の決別は告げて来た。 只管透明な存在は、徐々に何かに染まって行く。 朝焼けの雲間の細やかな色か、若草が弾く朝露の色か、日光に照らされて輝く瓦の色か、雨の近い日を低く飛ぶ鳥の残像か、通りすがった見知らぬ女性の髪飾りか、鏡の男の輝きに照らされる影の色か、いっそ、見たことのない、それこそ。 彼が色付く。 彼は成長する。 彼は、彼は、彼は。 体力、肉体値、限界。 そんな彼は、今日も明日も、徐々にきらめきを増して行く。 極彩色に負けない、鮮烈な、焔のような、爽やかな、新緑のような、不思議な、それとはどれともきっと違う、只管透明な存在で持って、誰かの心に住み着いてしまうのだろう。 「知ってます?白は他の色を殺すんです。」 突然の黒子の言葉に火神は暫く視線を彷徨わせたが、うんまあそれでいんじゃね、なんて三つ目だか四つ目だかを頬張った。 「黒子。」 新緑の声。 「黒子っち!」 爽やかな声音。 「テツ。」 凍えるように燃える焔。 「テツヤ。」 鮮烈なオッドアイ。 「黒っち〜。」 不思議の国の住人さん。 「はい、皆さん。」 只管透明感の増す、けれどその存在感。 彼は透明だ。気が付くまで気付かない。 極彩色に紛れる異分子は、何故だか今日も今日とて、やわらかく、それこそ赤子を包む羊水のような仄かな笑みで、中学時代の仲間に笑う。 彼等はばらばらになって初めて、自分達はチームだと、やっと認識出来たのだ。 その、透明の彼の存在で。 |
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しぶで原稿からの逃避。くろばす習作。初出:2012年05月24日 05:10
20120525masai