下劣人ごっこ。

 

どろどろする、と伊月は起き上がって、腰の痛みに眉を顰めた。心地よさそうに眠っている顔が気に食わなくて、ぐいぐいと頬を抓ってやる。

「・・・お前ね。」

「・・・。」

あ、おきてた。声は涸れていた。畜生、とばかりに伊月は嘆息し、起き上がる手助けに長い腕を伸ばしてくれる宮地に倒れ込んだ。夜になって急に気温が上がるとは、春とは厄介な季節である。にゃーあ、と遠くで甲高く、発情期の猫が啼く。

「何、喋んのも無理?」

「むり、です。」

けこんと一度咳き込んで、枕元にあったぬるいスポーツ飲料を飲まされる。体中がぎしりぎしりと軋むので、起き上がって背凭れになって貰う。後処理はされてあった。それでもどこかすっきりしないので、風呂に浸かるか頭からシャワーを浴びたいと、考えながら伊月はくたりと宮地の胸元に頭を預けた。

「声。」

戻ってくるのはきっと明日の朝だろう。それすら怪しいほどに喘がされて、嬲られて、愛された。そりゃあちらこちら疲弊している筈だ、と淡泊そうに見せかけてなかなかに強い恋人を眺めやれば、うん、とその優しい顔立ちは淡く笑みを浮かべて覗き込む。

「そーいやさぁ。」

「・・・?」

サイドテーブルに伸びた腕が携帯電話を取って、伊月の貌の横で操作される。明日の朝のアラート確認だろうか、と覗き込めば、ディスプレイは音声ファイルを選択された。朝からアイドルソングなぁ、と考えた耳元に、しゅすりとノイズが聞こえた。

「再生、っと。」

何が何だか、とその音声ファイルの時間は、と覗き込めば、20分と割と長い。

「こんだけしか録音出来ないんだっつー。」

ライブの録音って違法でしょ、と首を傾げた伊月は、即座にその思考の間違いを悟った。何だこれは。

「な、ん、・・・っ。」

『んっ。』

いやに肉質で湿った音に、ぐわと体温が上がって背を何かが駆け抜けた。

『ぁは、きよし、さん。』

反射的にそれを掴もうと伸びた手は、リーチの差で届かず、宮地が態勢を変えた事で、伊月はそのままベッドに顔から突っ込む。事後の甘ったるい汗の匂いに包まれて、そのままベッドサイドに携帯電話のディスプレイは省エネ設定で消えたが音声が再生されたままだ。道理で今夜はあまり喋ってくれないと、最低限の声しか落ちてこなかったわけだ。

「へんた、いっ。」

「そりゃどうも。」

『んっ、う。』

『声、出せ。』

『あっ、やだぁ・・・あっ・・・ん。』

肩越しに振り返った貌は半分くらい蔑みと泣きに染まっている。もう半分は羞恥だろうか、真っ赤になった目元は泣いたからと、泣きそうだからと、やはり羞恥から。ぱさぱさと綺麗な黒髪が閨の空気を遮るように散らされて、じぃっと見詰められているのに耐えられなくなったのか、そのまま顔を覆って耳を塞いで、頭を抱え込んで、という順序で枕に埋まった。

『あやっ、きよしさ、いっちゃ、やだぁっ!』

「ああ、一人でイくの、やだっけ?」

耳元で囁かれる声は、睦言にしては変態的でしかし恋人にしか許されない甘さを含んでいるので、膚がしっとりと火照っていくのに、肩口に噛み付かれて、痩身が跳ねた。

『きよしさ、きよしさん、あぁ、ぁ、はっ、あー・・・っ!』

微かに水音。嫌だ、思い出したくない、とねっとりと撫ぜてくる手から身を捩って、しかし圧し掛かられて逃げられない。

「ぅぁ。」

『んっ、いや、きよ、さ、いや。やだ。』

「なかなか、不味くはねーよ?」

耳に舌を蹂躙されて、下腹を下りた手を止めさせようと、して。

『・・・いれんぞ。』

キた。

くた、と頚を仕留められた獲物のようにベッドに横たわった痩身は、既に花色だ。強いまなざしは涙に濡れて、それでも顰められた眉根は宮地の所業を赦していない。

「い、や。」

『いや・・・ぁ。』

ばっと、頬が真っ赤に熟れた。声の涸れた、熱っぽい拒否の声音を紡いだ口元を覆って、視線を彷徨わせて、ひくんと肩を震わせた。

「すげ。」

『んあ、あ、にゃあ、おっき・・・あんっ!』

「お前、比較対象あんの?」

これは宮地の失言だ。伊月の初恋からファーストキスから一通り奪っておいて、伊月の目から大粒の涙が零れたのに、慌ててくちづけて拭う。

「ひっ、ら、なぁ・・・。」

『あ、あぅ、きよしさ、うご、いて・・・?』

「うん、言い方間違ったわ。ごめん。今度ゆったら千切っていい。」

『あっ!あは、は・・・ぁんんっ、・・・にゃっ。』

ぬたりと太腿に滑った熱に、やべ、と宮地は唸った。へんたい、と薄いくちびるは罵って、しかし膝で持って悪戯に突く。そして握り込まれて身を引き攣られた。

『らめ、きよしさ、おかしくな、っちゃ、あ、あ、っあ、ひあんっ!』

『俊。』

腰に、来る。そう、伊月は思考の働かなくなった頭で、ぐちりとはしたなく先走りを垂らした自分に嫌気がさす。膝が擦り合うのは落ち着かないからだ。寒くは無いのに熱を求めて体の奥が、覚え込ませた快楽に揺れる。

『ぁっ。』

『かわい。』

キスをして、暴かれて、突き落とされる。

「いれて、いい?」

気付けばその首に縋って、頷かされた。

『ああ、んっ、もぉやぁ、きちゃ、きよしさ、まってっ、おれ、も、むりっ。』

名残で柔いのか、柔くされたのか、一度くるりと穴の縁をローションで拭うように襞を解して、挿入される質量と熱さに背が戦慄く。

『にゃ、ぁん。』

「猫、みてぇ。」

線の細い顎を掴まれ、短く薄い舌が泳ぐのを宮地は貪り、甘く噛んだ。たらりと伊月の腹が白く汚れた。下唇を、喉を、鎖骨を、かぷりかぷりと悪戯に歯を立てていく宮地のほうが猫のようだと、伊月は痙攣する指先をはちみつ色の癖っ毛に通す。

『きよしさ・・・すき・・・あっあにゃ、らめ、あっ、あ、ああ、あぁー・・・!』

激しい水音が部屋を犯す。すき、と掠れた声が囁く。快楽に語尾がだらしなく愉悦に歪んで延びる。

「俊、好きだ。」

「んっ・・・。」

作り変えられた腹の中が、きゅんと切なく蠢いて、どっと中に放出された熱い精液に、どろどろと蕩けて、足掻いた手が肩甲骨の上に歪な赤い線を描いて、伸び上がった脚が男の腰を巻く。

「えろ・・・。」

「・・・ぁは、・・・。」

『んっ、うぁ・・・あ・・・きよし、さ、ぁ・・・。』

「・・・っ。」

とろりと下肢を伝う液体と肉が歪んでぷくんと泡立つ。

『ぬ、くの、やら・・・あっ。』

「栓でもしとく?」

どの科白を聞いてその結論に達した、と思わず伊月は普段は自分から届かないその頭を、思いっきり殴った。

「ひ、や。」

「まあ、ほら、そういう事だし。」

『きよしさん、もっと、して。』

何時間前だかの自分の事も殴りに行きたいと、宮地曰くの栓をされながら痩身を震わせ、再び襲い来る天悦に恐怖と期待を抱きながら、果たして声が戻るのかどうか、とっくに再生は終わっている音声ファイルを恨みながら、伊月は悩むべきところで悩まず、拒否すべきところで拒否せず、受け入れるべきでないそれを受け入れ、きつく瞑った薄い瞼にくちびるを押し当てられて、涸れた声で啼いた。


















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初出:2013年4月25日 01:23

さらっと描いたんだがどうすることも出来ないのでとりあえずうpっとくかーという一作。ちょっと轢かれてくる。■25日付小説R18デイリー85位頂けたんですけどちょ、大丈夫ですかこれ!!ありがとうございます!!パイナップルはアレルギーあるんで、キャベツでお願いします!!(4/26■26日付小説R18デイリー76位頂けました!ありがとうございます!しかしなんだこれこの話の成長が怖い・・・!!

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こういうキャプションのものほど奇妙な成長を遂げる。

20141231masai