愛や恋や。
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よく他人からの好意に鈍感だ、と伊月は言われる。 そして、更に鈍感な男がここにいた。 更に二人は重度の負けず嫌いでもあった。 恋愛ごとはあまり得意ではありません。 緑間は硬い声音でそう、緊張の滲む声で伊月に訴えた事がある。 そうだろうね、と伊月は応え、でもそれは俺もおんなじ、と微笑で魅せた。 「きもち、い?」 長大に膨れ上がったペニスを手の中に、赤い舌がちろちろと覗けば、緑間は腰掛けたベッドのシーツを握り締め、ぐ、っと喉を鳴らした。呼吸が馬鹿みたいに熱くて荒い。獣のようだ、と思った。自慰の類でこんな事になった経験は無い。白い指先が丁寧に愛撫を加え、尖らせた舌先が腫れ上がった亀頭に鈴口にめり込むと、勢い良く飛び出した精液に出したほうが驚いた。 「・・・一言、言えって。」 顔に美しい黒髪に引っ掛かった白く熱い粘液が、とろりとフェラチオに上気した白い頬に伝って、伊月は睫毛に滴ったそれを拭って、舐めた。 「い、づきさ。」 「にっが。」 赤い舌に乗せて、そのままくちびるを閉じると喉仏が上下するのにやっと、緑間は自分の所業を理解し、枕元のタオルを取り出しその小綺麗な美貌を拭う。 「させてつったの俺だけど・・・流石に初めてで顔に掛けるとかいかがと思う。」 「すいっ、申し訳ありません!」 「いや、いいけどね。」 好きだと、思った。努力で裏打ちされた才能だとか、真っ直ぐに伸びる背筋だとか、誠実な人柄も、ちょっと変わった趣味があるところも。睫毛の長い双眸に住む宝石のような瞳だとか、日に焼けない白い肌だとか。 解りやすい、と仲間に言われてしまって、紆余曲折、こんな行為が出来る程に二人の仲は発展出来た。不器用ながらも一歩ずつ、やっと触れ合えた。 「うん、別にいいけど、ね。」 「ほ、本当に、申し訳ありません・・・。」 「謝られっと逆に俺が惨めですけど?」 「そんなことは!」 スラックスを半端に寛げた緑間の隣に伊月は腰掛け、関節が白くなるまで握られている左手を見る。テーピングの無い大きな手に、頬を撫ぜられると信じられないくらいに気持ち良かった。気温と体温の上昇に伊月はシャツの第二ボタンまでは開けたが、他に乱れは特に無い。強いて言うなら普段は部活の終わりにしっとりと肌に張り付く練習着の程度に汗は浮いた。普段から汗は掻き辛い性質だが、これだけでこんなにも興奮するとは思わなかった。手の中で恋人のペニスが膨らんで芯を持つ感触だとか、その肉の味だとか。手のひらに僅かに残る感触を確かめるようにもう片手の指先でなぞれば、ぴく、と意図せず肩が跳ねた。擽ったい。 「どうしよう、緑間。」 「なんでしょう?」 「引かない?」 「何をです。」 「俺が今からいう事。」 少しだけ沈黙があってから。 「引くわけがないのだよ。」 「じゃあ、触って。」 酷く簡潔に述べた恋人の言葉に緑間は瞬き、レンズの向こうで視線がまじまじと見てくるのに、伊月は、引かないつったじゃん、と嘆息した。 「引いてはいないのだよ。ただ、少し驚きました。良いんですか。」 「良いんですかって、まあ、なんつーか、俺ばっかりに触られるのもやだろ?」 「全くあなたは・・・。」 気遣いが過ぎる、と耳元に囁かれて、シャツの上から胸元を擦られる。ん、と鼻にかかった声が出た。 「ちょ、胸、とか、感じないって・・・。」 くすぐったい、と笑った伊月の手をとって手のひらにくちづけ、口淫に見たてて舐めしゃぶれば、く、と息を呑むように伊月は呻く。女子のようにぺたりとベッドに座り込める股関節の柔らかさに感心しつつ、スラックスの上から太腿を摩る。同じバスケをやっているとは思えないほどに華奢な腕が首筋に絡んで、シャツの上から切り揃えた爪を立てる。くちびるをくちびるで塞いで、舌を絡ませ、ぴちゃ、くちゃ、と隠微に奏でれば、ふるりと薄い肩が揺れた。 「伊月さん?」 「も、やばい。出る・・・っ。」 カチャカチャとベルトのバックルを緩めて前立てをずらし、下着の中に手を入れて扱けば手のひらにどろりと熱い飛沫が散らされた。 「あ、は。きもちい・・・。」 淫蕩に呟き、噛み付くようなキスに緑間が応じてやれば、後ろ髪を引かれてそのまま胸に美しい黒髪を揺らしながら落ちてきた。 「伊月さん?」 「ごめ、ちょい、酸素・・・。」 そんなに呼吸も出来ない程夢中になってくれた僥倖に、こめかみに耳元に首筋にくちびるを振らせると、ひゃんっ、と痩躯が戦慄いた。 「や、まって。くすぐった・・・い、んっ!」 ちゅ、ちゅっ、とくちびるを肌に吸わせるたびにちいさく声を漏らして反応を寄越す様が酷く嗜虐心を突つく。ああ、好きだ、と緑間は思う。 「好きです。」 「んぅ。」 「好きです。」 「ぁっ。」 「好きです。」 「あ、にゃんっ!」 ぷつぷつとシャツの釦を外し、護る様に抱き寄せれば、指先を震わせて縋ってきた。 「にゃ、ちょ、待って。待って、緑間っ。」 「あ・・・。」 寄れたシーツに押し倒された形の伊月に緑間は我に帰ったようにキスの嵐を止めた。 「えっと、お前、したい?」 何をどんな風に、とは流石に明言し辛い。しかしそれは正しく緑間には伝わり、明らかに欲の滲んだ翡翠色の瞳を真っ直ぐに伊月に向ける。先ほどはくすぐったいと訴えられた胸の小粒を指先で弄っていると、徐々に芯を持ち始めてほんのり赤く色付いた。手の甲にくちびるを押し当てて、伊月は身を捩る。 「ま、ってっ!も、持ってきたからっ。鞄、ゴムとジェル・・・っ。」 黒曜石色の瞳を潤ませ真っ赤な目元で訴えた恋人に、緑間はまた嬉しくなってくちびるを降らせば、だから待てって、と半ば本気で怒鳴られた。 だから恋愛ごとは、恋の駆け引きは、彼等は弱いのである。 「俺も用意しているのだよ。」 鳩尾に吸い付いて真っ赤な鬱血が白い肌に綺麗に映えた。ばさっ、と脚に滑った布と衣擦れに、うそ、と伊月は大きくその切れ長の目を見開く。 「力を抜いておいて欲しいのだよ。」 ねちゃ、と手に出された液体を体温に馴染ませ、ぬめった指先が伊月の臍を擽る。 「おま、自分で、とか無いだろ!?」 「は?」 「え?・・・うあっ!?」 尻を撫でられ脚を掲げられ、つぷりと押し入ったそれに全く色気の無い声が出た。 「ちょ、おれ、みどりまっ!」 「伊月さん、進めません。力を抜いて下さい。」 「ひ、ぅー・・・!」 言われるまま、されるまま、体内を弄られて指先が摩った前立腺らしき場所に腰が跳ね、ぽろぽろと勢いで吐精したペニスは壊れたように透明の精液をたらたらと流している。 「あにゃぁっ、そこ、さわ、緑間っ、おれ、なか、おかし、にゃああんっ!」 「解りますか?」 「にゃぁ・・・っ!」 ばらっ、と中で肉壁を確認するように動いた指が増えている。ねちゃ、ぐちゃ、と女のような音がするそこは、随分と拡張されて、男の指が二本、不自由無く出入りしている。 「・・・っ!」 途端に今度は羞恥から耳まで真っ赤に顔を茹で、細い腕を伸ばして緑間の胸倉に掴みかかる。ぬげ、とうすいくちびるは動いた。はい、と緑間は素直に頷き、第二釦まで外すとそのまま裾から手を掛ける、と普段からは想像出来ない無精を選んだ。指が抜けたことでびくぴくと痙攣しているそこを撫ぜ、スラックスも脱ぎ落とした。 ぐちゅう、と塗り込められたジェルが鳴る。三本目の指の侵入に、伊月は水揚げされた若魚のように身体を跳ねさせ、はくはくとくちびるを動かす。呼吸に合わせて振れる指先がシーツを掴んで、ぎち、っと鳴ったの腕を緑間は背に縋らせた。 「く、るし・・・んっ、あ!そこまたぁっ!いちゃうからぁっ、やらぁあああ!」 甘ったるい声で啼いたその身体は断続的に痙攣を繰り返し、苦痛と絶頂を訴えた。しかしペニスは萎えたまま、時折前立腺を撫でてやるとぴくんと跳ねる。 「も、にゃぁらぁっ。みど、りまっ・・・ゆび、やらぁ・・・。」 嗚咽の色が見えてきた声に視線をやれば、美貌は悦楽で歪んで酷くこころ乱された。 「伊月さん。」 「ひ、う。」 薄い皮膜を纏った熱が突き付けられるのに、目が覚めたかのような表情で、見上げてくる頬にキスを落とせば涙の味がした。 「挿れ、ても?」 「はにゃ、はや、く。」 自ら脚を開く不慣れな姿も妖艶に、入り込んだそこは想像を絶した。 「いづ、き、さっ!」 「あにゃあああああんっ!」 熱くて、柔らかくて、人工的な液体で濡れて、滑りの中をぐっと推し進めると、耐え切れなかった嬌声が部屋の中を渦巻いて、あんっ、と鋭く甘く甲高く啼いた。 「っはー、伊月さん・・・。」 「にゃ、んゅ・・・にゃら、きもち、い、・・・へん・・・っ!」 きりっ、と背に立った爪が皮膚を裂く感触に目を眇めた緑間は、きゅるくると蠢く内壁のある薄い下腹を撫ぜた。 「あっ。」 それは正しく色欲に染まった声で、んう、と喉を鳴らして目を閉じたのにくちびるを齧る。浅い呼吸を必死に紡ぐ邪魔をすれば、ぼんやりと蕩けた黒曜石色の瞳が強請った。 「ー!」 ぐい、と大きく動いた腰の衝撃に背が浮く。ベッドシーツと背の間に出来た隙間に緑間は手を通し、痩躯を掻き抱く。 「あっ、みどりま、にゃら、も、いちゃ、いそぉ・・・。」 散々中から突かれて腹の間に挟まれたペニスはいっそいたいけに震えて、とろりと子種を吐いた。 「ふぅああん!やだ、また、きっちゃ、う!」 感じるのだと、言われているようで、緑間は単純に腰を振って応じ、きりきしと背中に刻まれる傷跡を甘受する。止められない、とそのまま欲を吐いた。 「あにゃあああ!」 悲鳴のように一つ、嬌声が上がれば、そのままぐちゃぐちゃに乱れたベッドに伊月が沈んで行くのに慌ててペニスを抜き、避妊具の口を縛って捨てる。 「伊月さん、すいません、止められなかったのだよ。」 はぁ、ふは、と荒く呼吸をしている胸元を宥めるように撫ぜ、丁寧に丁寧に汚れた身体を拭って行く。ジェルで身体を冷やして体調が崩れても良くない、と中に残ったそれも指先でそっと拭えば薄い肩が大袈裟に震えて腰が跳ねた。 「あっは、も、だめ、みどりま・・・。」 「ええ、すいません・・・。」 室内の気温は大丈夫か、身体は冷えすぎないか、とブランケットを纏ったベットシーツは交換した際のメイキングが滅茶苦茶だが眠れないことはない。 「も、この、ばかっ!」 「はっ!?」 「お、俺だって・・・!」 勉強はしたんだぞ、とか細く聞こえて生まれて始めてのセックスの余韻に震える指先で緑間の胸元に縋る。 「いや、伊月さんに押し倒される想像は出来なかったのだよ。」 「想像力貧困!欠如!」 「返す言葉も見つからないのだよ。」 きっさま、と若干怒りの滲んだ声で詰られたが、まあいいや、なんて投げやりにキスマークの残った白い首筋にまた緑間はくちびるを落として。 「すっげぇ、愛してるって、感じして。これはこれでいいや。」 「は!?そこは俺が譲れないのだよ!!」 「なんでー?俺の口で一回イったのはあっけど、めっちゃ慣らして貰ってイかせて貰って、俺の中でイって貰ってー。」 あまりにあけすけな口振りに緑間の顔が徐々に茹で上がる。 「まさかあの緑間にここまで尽くされて、って。尽くしてって。久々に体全体で愛した感じ。」 ふふ、と酷く蠱惑に笑った恋人に、ここで負けてなるかと抱き寄せて抱きすくめる。 「そこまで感じさせた俺のほうが愛しているのだよ。」 ひゃ、と耳元に腰に来るテノールで囁かれ、事後の身体はまた甘く疼いてしまって困った。 愛せよ少年、若さは武器だ。 |
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初出:2013年7月2日 18:03
当日祝える気が全く持ってしないので。
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なながつのいべんとのたぐいはもうあきらめてるまさいさんです。
20141231masai