今宵十月二十三夜月の下で。











 
ぱち、ちゃきん。しゅるしゅる、しゅっ。きゅ。

それはちょっと不思議な光景である。大の男が揃いも揃って大きく広げた袋の中の、ぬいぐるみやら水鉄砲やお菓子をラッピングしていく野外。公園の片隅だ。

「いや、宮地さん、まじ助かりました。」
「いやいや、緑間乗り気だったしな、こんなんでよければーって。」
「泰介さんのあみぐるみもすげーけど。」
「タツヤもお菓子ありがとうー。」
「アツシが喜んで選別してくれたよ。」
「パンプキンポタージュとか空気読んだな。」
「敦は頭良いよ。」
「ちょっと猫気質なだけでね。」

それぞれ好きに雑談しながら、あ、リボン歪んだ、こっち何色にしとくー?なんて綺麗に赤、紫、緑、青、黄、ピンク、そして水色と、何処かで見たようなカラーのリボンがそれぞれ飾られる。

「今日は、伊月先輩。」
「お、黒子、部活あったろ、悪いな!」
「ええ、すいません、長居出来ません。」
「いいよ、無理言ったの俺だし。何かいいのあった?」
「絵本です。昔のものなので痛んでますが・・・。」
「んー、この程度なら問題ないっしょー。」
「そうですね、隆平さん、お願いします。」
「任せんしゃい。」
「それじゃあ失礼します!」
「うん、頑張れー。」
「無理して倒れるなよ、テツヤ。」
「ありがとうございます、伊月先輩、赤司君も。」
「ん。」

ひらひらと手を振った伊月に黒子はもう一度頭を下げて、急いで公園から出て行った。終業と部活の間に全力疾走してきたらしい。頑張ってんなー後輩ー、と春日の感心したような声音に、でしょ、なんて悪戯花に笑ったのは伊月。おっすー、と遠くから声が掛かって振り返ると、夕方からバイトであろう日向の姿が見えた。

「ちーっす。」
「ども。伊月、これ飯な。で、こっちが木吉からの預かりもん。」
「シーサーて。」
「木吉、今沖縄だっけ。」
「先週からな。」

どっこいせ、と年寄りくさく伊月の隣に座った日向を威嚇するかに赤司は伊月に抱き付くが、邪魔だと笑われて終わった。中途半端に余った赤いリボンを伊月の髪に引っ掛けて、周りが笑った。
シーサーもピンクのリボンに飾られると厳つい顔にも何だか愛嬌が浮かんで少しだけ笑えた。

「この髑髏のキーホルダー誰だガキ泣くわ。」
「花みゃーだろー?」
「「「「「「はなみゃー!」」」」」

ぷらんと下がったキーホルダーを伊月が睨めば、春日の発言でぶっは!と数人揃って吹き出して、ちょまっリボン結べない、腹筋やばい、と割りと沸点の低い彼等は爆笑の渦に巻き込まれた。

「つか食欲ないデス。」
「Bilgeの特性ケーキ。」
「あっこケーキあったか?」
「作ったんすよ。コーヒーゼリーにクリームたっぷりで。だからタッパ。」
「うおまじか。気が向いたら食う。」
「痛む前に食えよ?」
「俊、最後に食べたのはいつだ。」
「泰介さんまでー!・・・えー・・・と・・・?」
「一昨日の夜にファミレスのサラダバー。」
「伊月ぃ・・・。」
「え、うそまじで?俺そんな食ってないの?まじで?」
「僕が俊さんの事で忘れてること無いし。」
「こないだカラオケ行ったけど食べてなかったしね。空腹に煙草突っ込んだら吐くよ?」
「エスで誤魔化してんなよ、お前。」
「だから最近バスケ混じっても10分綱渡りかよ。伊月さぁもー。」
「え、逆に凄くない?そんだけしか食ってなくても俺バスケしてる!」
「馬鹿か!」
「阿呆か!」
「ええー!?あ、黒子の紙袋なんか入ってる。」

黒子らしいシンプルな紙袋からは八冊の絵本と二冊の小中学生向け小説が入っていて、斜めにリボンが掛けられたそれらの他にもう一つ、綺麗にラッピングされた何かが出てきた。カードが貼り付いていて、そこには綺麗な文字で、『伊月先輩へ』と書かれてあった。

「んー?」
「開けてやれば。」

ラッピングの手伝いをしながら背中を押してくれた日向に浅く肯いて、包装されたセロハンテープを剥がした。
中からは、イタリアのデザイナーが描いた猫のイラストが入った、ポケットサイズのノートとシャープペンが出てきた。表紙の裏には、恐らくは火神の文字だろう、少し癖のある筆記体で祝いの言葉が英語で綴られてあったのを氷室が読み上げ、口笛を吹いた。

「タイガにしては洒落た言葉を使ったね。」
「ネタ帳!ネタ帳!?」
「よく分かってるね、テツヤ。」
「まじかおい。」
「お返しどうしよ。1月だったね。」
「俊さんみたいに速読しないから、本でいいと思う。僕が選ぶ。」
「よし、赤司任せた!」

すっかり猫とその飼い主の様相を呈している伊月と赤司を微笑ましそうに苦笑しつつ、終わった、と各々バザーの様なそれぞれを袋に戻す。

「よし、終わったー!」
「お疲れ様です。ありがとうございました。」
「ええよええよー。」
「誕生日くらいは甘えて貰えないと年上甲斐もないしな。」
「あんま抱え込むなよ、挽いて捏ねて焼くぞ。」
「おおう、ハンバーグコース!」

そうやって一頻り笑って、さてバスケでもすっかねー、とストバスのコートに向かう大きな背中を伊月は眩しそうに見やって、微かに笑んだ。

「あ、そうだ。」
「いーづきー!」
「俊。」
「伊月!」
「伊月。」
「はい?」
「「「「「「誕生日おめでとう!」」」」」

ぱちん、とその切れ長の目は一度瞬いて。

「こちらこそ、俺と出会ってくれてありがとうございます。」

にっこりと笑い、その様子を伊月に懐く振りで横目に見ていた血色と夕陽色の眼が切なげにじっと、観ていた。

大きな袋や紙袋を伊月と赤司がサンタクロース宜しく抱え込んで向かったのは、二人が暫くの時間を共有した修道院だ。

「こんちわーっす。」

その広い庭にはオレンジ色のカボチャが笑っていて、いつでもここは保育園だなぁと伊月は思う。赤司がどう思っているのかは、聞いた事がない。何度かどうしようも無い時に礼拝堂や洗濯機を借りに来たりもする。職員として働かないか、と言われた事もある。生憎断ったが。

「あら!俊くん、征十郎くん、お久し振り。」
「はい、お久し振りです、先生。これ、誕生日プレゼントです。」
「あらあらあら、毎年有り難いこと。入っておいでなさいな。」
「あ、どもっす。赤司。」
「はい。」

赤司は本人が言った通り、確かに伊月に関する情報で忘れる事はない。この二日間、いや、それ以上を、彼はクスリと煙草で食事を誤魔化している。食べることを拒否する事を、赤司は生きることを拒否する事だと考えている。果たして伊月に自覚はあるのだろうか。この考えは伊月も同感してくれるのだろうか。

「このクマさんハチマキしてるー!」
「カエルさんかわいー!」
「てをあげろ!」
「たぬきだたぬき!」
「このいぬなぁにー?」
「えほんよんでー!」

親がいなかったり何らかの事情で親と一緒にいられなかったり、そんな子供達がこの修道院には溢れている。最近、役所のほうに正式に孤児院、養護施設、児童保護施設として申請したようで、敷地内にもう一つ建物も増やして職員も増やして託児所も設けたいのだとか。
慈善事業という心意気だけでそこまでするか、と伊月は以前嗤った。

「おにーちゃん、えほんよんでー!」
「わかった、わかったから引っ張るな!」
「俊さん助けて。」
「挫けんな赤司ぃ!」

少しだけ色褪せた、懐かしい絵空事を朗読し、駆け回る子供達に振り回され、なにこれめっちゃつかれた、と二人してぶっ倒れると、シスターが温かいお茶を用意していた。

「子供半端ねぇ。バスケの試合より疲れる。」
「40分って短かったんだね・・・。」
「二人とも、バスケットボールで大活躍だったんですってね。」

シスターから振られた話題に、突っ伏したテーブルからのろんと顔を上げ、視線を交わすと、伊月が、まあそうですね、と苦笑気味に応えた。

「キセキの世代に話題の新星、と聞いていましたよ。お家の方とはうまくやれていて?」
「まあまあです。」
「僕は好きじゃない。」
「こら赤司。」
「だって、バスケ辞めろって。」
「実家を継ぐのだと風の噂で。」
「・・・。」

むっつりと黙り込んだ赤司に、伊月が少しだけ笑った。
二人して嘘を吐く事に罪悪感が無さ過ぎるのも問題だ。

「いえ、育てて頂いて、感謝してます。そうじゃないと俺はこんな事しませんよ。」

これは、少しだけ本当。伊月の苗字を公に名乗れなくはなったけれど、この年齢のこの日の自分があるのは間違いなくこの場所があったから。赤司でなかった征十郎に出会えたのも、この場所があったから。

「さて、また子供らに遊ばれない内にこっそり帰るかな。」
「うん。」

また近い内にお邪魔します、と頭を下げて、敷地門扉付近でジャケットの裾を引かれて伊月は立ち止まった。

「これ、あげる!おたんじょうび、おめでとう、しゅんおにいちゃん!」

差し出されたのは木と紐で作られた人形だった。
若緑色の服と靴と帽子。ピーターパンだ。

「いいの?貰っても。」
「あのね、こんど、せいかたいするの!みにきて!」

幼い彼女は文脈を通さずにこにこと笑って、人形を伊月の手に授けると、ぱたぱたと走り去り、途中で振り返った。その手には既に大事そうに、クマのぬいぐるみが抱かれている。

「ばいばい!」
「うん、バイバイ。」

伊月は今度こそ素直に歩き出し、真っ直ぐに赤司が歩く隣を目指す。手のひらから人形は滑り落ち、先日客に貢がれた真新しいローファーで踏み砕いた。

パキン。

***

「あ、ん。」

かしりと小指の第二関節を噛んだ青年は背を反らし、身体に燻る熱に身を捩る。
確かにちょっと骨浮いてる、とやっと自覚した。

「んんっ。はや、く、いってぇ!」
「いかせて、の間違いじゃ、ないかっ!」
「ふあ、あ、あア!」

ぴっと散った精液は量も濃さもない。がりと歯を立てられた乳首に思わず泣けば、ごりっと中を強く擦られた。

「はっ、あ、・・・ぅ、ぁ・・・。」

ぶるぶると痙攣する脚に、自分の喉を掻き毟るように震える指先に、うわやっちまった、と伊月は暴れそうになったがもう手遅れだ。

「らぁ、め・・・ぇっ!ぬ、ぬい・・・っあ、あっ、ひああん・・・ぅん、ん、っぁあ・・・。」

呂律が既に回らない。涙で滲む視界に、被さってくる男の口が厭らしく笑ったのが確認出来たが、喉の奥から呻きとも喘ぎともつかない声が零れて、歯の根ががちがちと噛み合わない。

「すごい、なぁ。」
「ふあ、あぁん・・・!」

ぐりんと前立腺を抉られて性器がびくんと跳ねたが吐く精が無い。意識がホワイトアウトしそうになったのを自分を抱きしめ、二の腕に爪を立てて耐えた。

「っく、あ・・・っ。」

腹の中に注がれた熱い飛沫に恍惚の悲鳴を漏らし、痩身をくねらせて涙がこめかみに伝う感触でさえ快楽に変わる。

「っは、あ、あっ!」
「ドライ?凄いね、君。伊達に売ってない。」
「も、だめ。死ぬ。」

達し過ぎると手足が震えて使い物にならなくなる。これは女性に多く見られるが、男にだってある。ペニスを挿入されてしまえば雌になるとは笑えない冗談だ。

「カラダ、動かせない、もう・・・やだ。」
「マジバででも買ってこようか?」
「うー、でも食欲無いしー・・・。」

ぐったりとベッドから動けない男娼に客は少しだけ笑った。

「あ、ゼリー・・・。」

それは昼間の友人からの差し入れが、友人の顔がふと浮かんで無意識に音になっただけだが、客はくつくつと笑った。

「そこのコンビニでいいかな。何か好みはある?」
「あ、今のはちがくて。あ、ねえ、イッコ我儘していい?」
「どうしたの?寒い?」
「確かにちょっと冷えるけど。あのね、俺、今日誕生日なんだよね。」
「本当に!?」

明らかに男の声が弾んだので、くふんと伊月は蠱惑的に笑って魅せた。
気に入ってくれた客にそんな誘い文句。答えは火を見るより明らかで、伊月はちょっと愉快だった。

「ね、俺が喜ぶこと、してよ。」

男は促されるまま、差し出された紙片を飲んだ。


「どうせ、生きてても死んでても同じだろ。」

そう嘲笑った伊月を男は舐め回し、翌朝、ラブホテルの一室で違法薬物中毒による事故死として処分された。一緒にいたと思わしき人物の足取りは、未だ一切掴まれていない。

***

NO犯罪!YES萌え!!R指定はモブ月です。ほんっとNO犯罪だよ!!!!どうなってんの白い粉とか脅迫文とか!!!!悪意をこころで留められないのはそこらのファミレスで同人誌広げて腐会話しとる腐女子と変わらんわ!!!!!

2012年10月22日 13:27初出に加筆。

20121115masai